56 家の格
「そう……、なんですね。あの、凄く助かりました、ありがとうございます。私、1年B組の……」
「知ってるわ。テア・ド・ユベルドーさんよね。有名だもの、初等部の白き蝶さん」
「私……、白くなんてないです」
同じ蝶なら、私は紅い蝶を選びたい。それが――私だと思うから。
っていうか私有名人なの?
「あら、そうなの?」
「いえ、テア様は白が似合います! 清楚な純白さ、そして儚いほど可憐で幻想的な銀髪はまさに天使か妖精か! デビュタントでのテア様といったらもう、後ろに翅が見えてしまうほどでした!」
燃料投下されたアンネが暴走を始める。いやー、なんていい顔してるんだろうねー(棒)。
「まぁ、そうなのね。私も見たかったわ。でも確かに、白い蝶って呼ばれちゃうなって思ったわ」
「か、からかわないでください……」
こういう美女に真正面から言われるのは正直照れる。
「ホント、弟が夢中になるのもわかるわね」
うん?
弟……?
「弟さんがいらっしゃるのですね」
何の気なしに訊き返す。すると目を細めて嬉しそうに答えた。
「ええ、アドリアンって言うの。もしテアちゃんがアドリアンの婚約者になってくれたら、とても嬉しいわ。だって、こんなに可愛いんだもの」
その名前を聞いてドキン、と心臓が跳ねた。そうだ、同じルミエールじゃない。なんで気づかなかったんだろ。
「あ、アドリアン様の……」
「そうよ。なんなら今からお義姉様と呼んでくれてもいいのよ?」
笑顔で迫らないでほしいな……。
目に星が見えます……。
「いえ、そんな恐れ多いことは……」
遠回しに断る。当然だ、私にはレオン様という心に決めた人がいるのだ。
「あら、それは残念ね」
心底残念そうに人差し指を立て、口元に当てる。
「あの、ところでレオン様と仲がよろしいと伺ったのですが……」
怖いけど、確かめたい。
意を決し尋ねてみた。
「ええ、仲いいわよ。同じクラスだもの。お父様も婚約者として申し分ないと仰ってたわ。これ、秘密よ?」
「婚……約者……?」
……聞かなきゃよかった。
何も考えられない……。地面に立っている感覚さえもわからなくなる。
頭が……、理解を拒否してる……。
「やぁーねぇ、気が早いわ。でも、家の格も申し分ないし、私も、彼だったら文句ないわ。きっとレオンだって嬉しいはずよ」
そうだ……。“好き”だけじゃどうにもならないのが貴族。
勝てない……。
伯爵家と侯爵家だったら、侯爵家を選ぶに決まってる。
決めるのは……レオン様のお父様だ。
「そう……、なんですね。あの、助けてくれてありがとうございました。では……」
ダメ、これ以上話していたら……。
――壊れるかもしれない。
私は呟くように伝え、おぼつかない足で初等部の校舎へ向かった。
「あ、テア様待ってください!」
アンネが私に駆け寄る。ふらつく私に追いつくと、転ばないように腰を支えてくれた。
「大丈夫ですか、テア様?」
「うん……、大……丈夫……」
レオン様……、大丈夫ってどういう意味で言ってくださったんだろう……。
「家の格って、厄介ですよね……」
ふらつく私を支えながらアンネはため息をついた。




