52 噂
「テア、お前の境遇は理解しているつもりだ。だが、手を出した時点でお前の負け。わかるな?」
「はい、申し訳ございませんお父様」
家に帰るとすぐにお父様から呼び出され、私は説教を受けていた。
「この醜聞は我がユベルドー家に泥を塗った。テア、お前には1週間の謹慎を言い渡す。よいな?」
「はい、お父様」
従うしかない。
悪いのは私なのだから。私は頭を下げると、部屋を出ようと扉に手をかけた。
「テア、それでもお前は私の自慢の娘だ。たとえ、血の繋がりがなくともな」
お父様の言葉が胸に刺さる。
――家族。
頬を涙が伝う。
私は、ちゃんと家族になれていた。
今は――それが唯一の救いだった。
「ありがとう……ございます」
私は振り返らず自分の部屋へ向かった。
* * *
コンコン。
私が自室で勉強をしていると、部屋を誰かがノックした。
「どうぞ」
私が許可を出すとほぼ同時に――
ガチャリ。
ドアが開かれる。入ってきたのはディアーヌお姉様にシルヴァンお兄様、イザークお兄様だった。
「聞いたわテア、大変だったわね」
ディアーヌお姉様が部屋に入るなり私を抱きしめる。
「ああ、話は聞かせてもらった。心配しなくていい。悪いのはエンゾだ。全く、姉妹揃ってロクでもない」
「全くだよ。あの一家は実にロクでもない奴等ばかりだ。派閥が違うから目の敵にしているんだろう」
シルヴァンお兄様もイザークお兄様もエンゾ一家を良く思っていないようだ。
「しかし謹慎1週間は重いな。なんらかの罰を与えないといけないのはわかるんだけど」
「そうだね。謹慎だとレオンが来ても追い返さないといけなくなる。僕としては呼び出して噂のことを問い詰めてやりたいんだが」
「噂って……、なんですかイザークお兄様」
噂?
いったい何のことだろう。
「バカ!」
私が訊き返すとシルヴァンお兄様が血相を変えてイザークお兄様を叱る。
もしかして、悪い……噂?
「あっ!」
イザークお兄様が思わず両手で口元を覆う。
怪しい……。
私はイザークお兄様を上目遣いで見る。
「いや、それはだな、その……」
しどろもどろになる。
余程言いにくいのだろう。聞くのは正直怖い。でも、気になる。
「テア、落ち着いてよく聞くんだ。高等部ではな、レオンとルミエール侯爵家長女クレール様との仲がまことしやかに噂されているんだ。2人で話しているところも良く見かけるし、実際仲はいい」
「美男美女で2人共上位貴族だ。噂になるのは仕方ないだろう」
レオン様に……、私以外にもお相手が!?
2人の話を聞き、何かが音を立てて崩れていった。
上手く呼吸ができない。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
もしそうなら……、私は、何のために頑張ってきたのだろうか?
震える手で髪飾りに触れる。
――大丈夫、だよね?
お願い、信じさせて――
髪飾りは、何も答えてくれなかった。




