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救われないラスボスに転生したので運命を変えて幸せになります  作者: まにゅまにゅ
第2部 白い蝶 第1章 紅い蝶は道に迷う

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51 残酷な優しさ

「聞いたわ、あなたのこと」


 その日、教室に入るなりロゼリアが話しかけてきた。後ろに取り巻きを引き連れ、腕を組んで覚めた目で私を見ている。


「……」


 いったい何を聞いたと言うのだろう。下手に反応せず、ロゼリアの出方をうかがう。


「アルノーブルのスタンピード。あなたが抑えたんですってね。しかも治癒師としても優秀で、上級治癒魔法をも超える魔法を使えるそうじゃない」

「それが……どうかしたんですか?」


 何が言いたいんだろう、この人は。


「おまけに算術の授業でも優秀、私達なんてさぞ愚図に見えるんじゃないのかしら?」

「そんなことありません」


 嫉妬?

 恐れ?

 どっちでもいいか。

 私は別に自分が完璧だなんて思わない。だから当然、否定した。


「嘘ね。いいわね、天才は。生まれ持った才能が優秀で羨ましいわ。白い蝶なんて持て囃される程の美貌に類稀なる魔法の才能、高い頭脳。人生イージーモードじゃないの」


 私の人生が……イージーモード?

 なにも……、なにも知らないくせに!

 沸々と言いようのない怒りがこみ上げる。


「ふざけないで!」


 私はつい、感情的になりロゼリアの襟首を掴んでしまった。


「ひぃっ……!」


 ロゼリアが顔色を真っ青にさせ呻く。


「なんにも……、なんにも知らないくせに!」


 それでも私は止められなかった。

 掴む手に力が籠もる。


「やめて、殺さないで!」


 取り巻きが叫ぶ。

 その声にハッとした。


 私、今何してた?


 しばらく固まる。

 周りの冷たい視線。

 自分が取り返しのつかないことをしてしまったのだと気づく。


 身体中がジーンと熱くなった。それなのに身体には鳥肌が立っている。


「も、申し訳ございませんロゼリア様……」


 慌てて頭を下げる。


 やってしまった。

 最悪だ、感情に任せて伯爵令嬢に手をあげるなんて……!


「ふ、ふん。なんて野蛮なのかしら。見ました? これが白い蝶なんて呼ばれていい気になってた女の本性ですわ!」

「ち、ちが……!」


 ロゼリアの言葉を否定する。しかし周りの視線は冷たかった。


「謝りなさいよ」

「はい……。本当に、申し訳ございませんでした」


 ロゼリアの要求に従い、深く頭を下げる。


「顔をあげなさい、テア」

「はい……」


 良かった、許してくれた。そう思って顔を上げた。

 次の瞬間、私の頬に痛みが走る。


 小気味よい破裂音が教室に響き渡る。


 静まり返る教室。


 遅れてやって来た頬の痛み。そこでようやく自分が頬を張られたのだと気づく。


「これで、なかったことにしてあげる」


 ロゼリアが勝ち誇ったように笑う。


「ありがとう……ございます」


 頭を下げる。

 こう言わざるを得なかった。家の問題にされること。これは貴族令嬢として絶対に避けなければならない。


 煽られたとしても、それに対処できなかった浅はかな女と思われる。それが貴族社会なのだ。


 アンネがいなくて逆に良かったのかもしれない。彼女は、私を完璧な淑女だと思っているから。


 こんな姿、見られたくない。


「……」


 頭を冷やそう。

 私は頭を下げ、教室を出る。まだホームルームまで少し時間があるはず。


 1人になれる場所を求め、私は高等部近くの茂みに辿り着いた。


 誰も……、いないよね?


 周りを確認し、地べたに膝を抱えて座り込む。


 俯き、少しだけ咽ぶ。でも涙は押し殺した。泣いたら、負けなような気がしたから。


 ――こんなことで、負けるもんか。


 歯を食いしばり、涙を堪える。そうだ、もっと辛い経験をしたじゃないかと自分に言い聞かせた。


「テア……さん?」


 声がした。

 顔を上げる。


「アドリアン……様」


 それはプレデビュタントの会場で出会った人だった。

 ――どうしよう。嫌なところ見られちゃったかな?


「……泣いてるの?」


 アドリアン様が心配そうに私を見つめる。


「平気です。なんでも……ないですから」


 強がる。本当は懸命に涙を堪えていたところだ。


「頬、赤いよ? 無理しないで。泣いてもいいんだ。君の味方は、ここにいるから」


 優しい一言。

 誰も味方がいないと思ってた。


 彼がそっと、頭を撫でる。

 普通なら嫌がられる行為だ。髪が乱れるから。

 でも、その手の温もりが、残酷なほど私の弱さを包み込もうとする。


 ダメだよ、いけない。

 こんなこと――


 でも――


「大丈夫、見なかったことにしてあげるから」


 その優しさに、縋りたくなった。

 見透かされてる。その上で、言ってくれてるってわかったから。


 泣いたら負け、そう思ってた。


 だから、泣かないと決めていたのに――


「うあああああああっ……!」


 とめどなく涙が溢れる。

 こんなに泣いたのはいつ以来だろう。思い出せない。


 アドリアン様は何も言わず、ただ側で私が泣き止むのを待っていてくれた。


 始業を報せる鐘がなっても……。


 私はこのとき、夢にも思わなかった。

 このとき、まさかレオン様に見られていたなんて。

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