50 孤独な蝶
「それでは、先ずは皆さんの実力を測らせていただきます」
外のグラウンドに皆を集め、エルシエル先生が授業を開始した。
初授業初日の1限目。
教科は魔法学。
「貴族方は大抵魔法が使えますが、庶民の方はそうはいかないでしょう。まだ使えない方は使えません、と答えるように。ではエンゾさんから」
「はい」
先生に呼ばれ前へ出る。
彼女の視線の先には1メートル程の大きさの石塊。人工的に削られたもので、あれが的だ。
「これは授業ですので、先に使う魔法を教えてください」
「はい、私が使うのは闇魔法の闇の焔です。いきます!」
ロゼリアが詠唱を開始する。
彼女の両手に魔力が集中していくのが見えた。そして生まれる黒い炎。
クラスメイト達がざわめく。
熱が波動となって周囲に広がった。
チリ……。
熱気に肌がひりつく。
「闇の焔!」
黒い炎が両手から解き放たれ、目標の石塊が黒い炎の柱に包まれた。
「おおーーっ!!」
クラスメイト達が歓声をあげる。
石塊は表面を焦がし、そこに立っていた。かなりの威力だ。
「素晴らしいです、ミスエンゾ。よくぞここまで研鑽を重ねました。この闇の焔は闇魔法の中でも中級クラス。初等部でこれを使いこなせる者はあまりいないでしょう」
エルシエル先生が手放しでロゼリアを褒める。ロゼリア様はふふん、と自信に満ちた笑みを浮かべ、私をチラリと見た。
――なんかライバル視されてる?
うーん、別に張り合うつもりはないんだけどなぁ……。本気出すわけにはいかないし。
などと考えている間も皆が次々と魔法を使ってみせる。そのほとんどが初級魔法だ。うーん、どうしよっかな。
「次、ユベルドーさん」
うーん……。初級魔法で十分な気もするけど、成績は大事だし……。
「テア様、出番ですよ」
「え? ああごめんなさい」
アンネに声をかけられ我に返る。
「期待してるわぁ、白い蝶さん。ひ弱そうだし、大したことないんでしょうけどね」
ロゼリア様が私に耳打ちする。
えーっと、これって煽られてる?
うーん、少し黙らせようかな。
「ユベルドーさん、前へどうぞ」
「は、はい。すいません」
私は慌てて前へ出る。
「テア様! 《《あれ》》やってください! みんなの度肝を抜いちゃいましょう!」
アンネ、ハードル上げないで……。
仕方がない、《《あれ》》やってみようかな。
「えーっと、私が使うのはユニーク魔法です。終わる世界と言います」
「ゆ、ユニーク魔法……!?」
私の宣言に先生が驚く。無理もない。ユニーク魔法なんて持ってる魔導師はほんの一握りだ。
なんか他の生徒達の空気が重い。みんな唖然としているようだ。
「いきます。破滅のプレリュード……」
魔神の手を1つ生み出す。本気でやると紅い翅が出てしまうため、これでもかなり抑えてるのだ。
生まれた紅い蝶は一匹。しかしこれで十分だと思う。
「ふん、何がユニーク魔法よ、大したこと……」
ロゼリア様が言い終わるより早く。
「あーーーっ! テア様手加減してるぅっ!」
アンネが盛大にバラしてくれた。
思わずズッコケそうになる。
お願い、バラさないで……。
「終焉と為せ、終わる世界……」
紅い蝶は素早い動きでスロラームを描きながら石塊に向かう。
そして着弾。
石塊が瞬時に炎に包まれる。
炎はグラウンドの土すらも溶かし、石塊が沈んでいく。
ドロリ……。
石塊が融解し、溶けて穴の中に広がった。
私がパチンと指を鳴らすと炎が消え、融解した石塊はマグマとなっている。マグマは溶け落ちた穴の中で煙をあげながらグツグツと煮立っていた。
「な、なんだよあれ……?」
「ば、化け物かよ……」
クラスメイト達のどよめき。
チクリと、心に棘が刺さった。
「これで、手加減……?」
先生が呆然としている。
クラスメイト達を見ると、青い顔をしている人がほとんどだ。
ただアンネだけがキャーキャー騒いでいた。
やっちゃった……?
1限目が終わり、2限目。
算術の座学だ。
私とアンネの席の周りには誰もいない。昨日からあんなに騒いでいた男子達は、私から逃げるようにして席を変えたのだ。
別に寂しくない。
寂しくなんか……。
そっと、蝶の髪飾りに触れる。
大丈夫、私は1人じゃない。
窓の外を眺める。
そうですよね――レオン様……。




