49 可憐なる白き蝶は学園に舞う
4月8日。
アルメニアス国立アカデミー初等部の入学式。
――のはずなのだけど。
……なんだろう、この視線。
校舎前の掲示板に向かうだけで、周囲からひそひそと声が漏れる。
「ねぇ、あの子が……」
「噂の……白き蝶……?」
……え、なにそれ。聞いてないんだけど。
あまり気にしないようにして掲示板の前に到着。問題は人垣ができていて全く見えないこと。
私が悪戦苦闘していると、聞き覚えのある声がした。
「テア様、私と同じクラスです」
「アンネ、良かった。同じクラスなんだ」
私に話しかけてきたのは、家の繋がりで仲良くなった黒髪ロングの少女、アンネローゼ•ド•フーリエ子爵令嬢だ。家格が私の方が上なため、私は呼び捨てまたは愛称、アンネは私に様を付ける。貴族の間ではそれがマナーだ。
「あの子、ほらあの……」
「可憐だ……」
私に気づいた生徒たちが私を見てまたもヒソヒソ。その反応は様々だ。
「テア様、行きましょう」
「え、う、うん……」
アンネが私の手を引き校舎の中へと連れて行く。
「大丈夫ですか、テア様」
「え、なにがですか?」
「えーっと、ご存知ない?」
私が不思議そうに小首を傾げると、アンネは少し驚いた様子だった。
「何がでしょうか……?」
うーん、私何かやったのだろうか。全く身に覚えがない。
「プレデビュタントですよ、テア様。あの日のテア様はそれはそれは可憐で華やかでまさしく絶世の美少女現る、って感じでした」
あ、ヤバい。アンネの暴走が始まりそう……。
「いや、それは大袈裟……」
「何をおっしゃいますか! テア様は既に社交界でも可憐なる白き蝶と噂されているのです。プレデビュタントではテア様に群がる有象無象が己の分をわきまえずアピールしていました。しかしそれも無理もないことでしょう……」
「あ、アンネ。わかりましたのでそれくらいで……」
軽く嗜めるもアンネは止まらない。私のことが大好き。それはいいんだけどね……。
「まぁ、それを面白く思わない令嬢たちも当然おりましてですね。全く、嫉妬とは見苦しいものです。意中の相手を取られる心配でもしてるんでしょうかね。そもそもですね……」
ダメだ、止まらない……。
周りの目が恥ずかしい……。
仕方ながないなぁ。
「アンネ!」
少し強めに制止をかける。これ以上は私のメンタルが保たないので致し方なし。
「はっ! 申し訳ありませんテア様、つい……!」
アンネがようやく正気を取り戻す。周りを見てアンネも恥ずかしくなったようだ。
すぐさま私の手を引き、教室へと逃げ込んだ。
Bクラス。
ここが私とアンネのクラスか。このクラス分け、別に成績順というわけではない。むしろ均等に振り分けられている、という話だ。
席は特に決まってないらしく、私とアンネは隣同士で座る。
「や、やぁ。お、同じクラスになったなんて嬉しいな」
すると早速男子数人が私の席に近づいてきた。そして私の近くの席に陣取る。
「お、おい。抜け駆けすんなよ」
「早い者がちだ。いいだろ?」
うわー、またか。
私の隣を争うとか小学生みたい。
「なに? 男を囲ってるなんて随分端ないのね」
声がして振り向く。見覚えのある黒髪の美少女だ。その美少女の後ろには3人の取り巻き(失礼)。
「ロゼリア様。誤解があるようですね。囲っているのではありません。美し過ぎるテア様に殿方が群がるのは致し方ないこと。そう、これは自然の摂理なのです。醜い嫉妬をなさるのはみっともないですわ」
アンネが誇らしげに語る。恥ずかしいからやめて……。
「なんですって……?」
ロゼリアの眉がピクリと動く。それでも貴族の令嬢だ。少しヒクついてはいるけど、何とか感情を押し殺しているようだ。
「まぁいいわ。私はロゼリア•ド•エンゾ。よろしくお願いするわね、皆様」
エンゾ……?
聞き覚えあるなぁ……。悪い意味で。
取り敢えず今はこの空気を何とかしよう。そう思い私も自己紹介した。次いでアンネが自己紹介すると、男子達も自己紹介を始めた。
――あの子もレオン様狙いかぁ。
紅い蝶の髪飾りにそっと触れる。
胸の奥が、少しだけ熱くなった。
……負けるつもりはない。たとえ誰が相手であっても。
私は静かに、そう決めた。




