47 紅き蝶のプレデビュタント
あれから3年経ち、私もはや12歳。
――そして今日。
私は貴族の令嬢として初めて社交界に立つことになった。
主催はアルメニアス王室で、ヴェルエレラ宮殿にて行なわれるのだ。
今日は4月2日。
アルメニアス伝統のレ•ヴェルエレラ•デ•プレデビュタントの日である。
早い話が12歳になった家の令嬢を自慢し合う場だ。
「き、緊張します……」
充てがわれた控室で、メイドさん達が私のメイクアップを行なっていた。
「大丈夫ですよ。とても素敵です」
大きな姿見に映る私の姿。
長い銀髪はハーフアップにまとめ上げ、紅い蝶の髪飾りで留めてある。ドレスは基本的には白のクチュールドレスが基本。
これは何者にも染められていません、という意味がある。
ただし、装飾品に指定はない。
「そうですよ、テアお嬢様。さぁ、レオン様より贈られたこの金のティアラを付ければ完成です」
メイドがそっ、と私の髪にティアラを取り付ける。
黄金色に輝くティアラの中央には碧色に輝く宝石が1つ。ティールサファイアと呼ばれる青緑色の宝石だ。
「本当にお似合いでございます。これはひっきりなしに殿方よりお声がかかることでしょう」
「そ、それはそれで困る……」
私にはレオン様という心に決めた人がいる。それ以外はごめんなさいだ。
「ふふっ、レオン様、ですね?」
「ご心配には及びません。デビュタント前に装飾品を贈るなんて、既に意思表示されてるのと一緒です」
「ええ、しかもこの色。ねぇ?」
メイド達が楽しそうに笑い合う。
「……」
ぼふっ、と一気に顔が熱を帯びた。
あーダメ、ニヤケが止まらない。
「さ、お時間です。バッチリ決めましょう」
「はい」
私はメイドさん達に案内され、宮殿の大ホールへと向かった。
大ホールの奥では国王陛下と女王殿下が並んで座っている。その前は大きく開けた空間だ。
デビュタントを控えた令嬢達はその空間を挟むように来客に背を向けて立っている。
「それではこれよりレ•ヴェルエレラ•デ•プレデビュタントを行います。アルハイム家公爵令嬢フィオナ•ド•ラ•アルハイム前へ」
女王殿下が開会の宣言を行い、デビュタントが始まる。
呼ばれたフィオナ様は綺麗な姿勢で女王陛下の前に立つと、スカートの裾を広げて挨拶をする。
そして今度は軽やかに反転し、来客達にその姿を披露した。
ニコッ。
愛らしい笑顔を向けると男性達のため息が聞こえた。
もう一度スカートの裾を広げて挨拶をすると、端の方へと戻って行く。
そして次の令嬢が呼ばれ、女王殿下に挨拶をする。これを全員分行うのだ。
「次、ユベルドー伯爵家令嬢、テア•ド•ユベルドー前へ」
「はい」
静かに答え、女王陛下の前に立つ。
スカートの裾を広げ、ご挨拶。
「まぁ、可愛いらしい子ね」
女王殿下が国王陛下に耳打ちする。なぜか国王陛下がうんうん、と頷いていた。
私は笑顔を崩さず華麗に身を翻し、来客達の方を向く。
――あ、レオン様。
すぐに見つける。
人混みの中でも迷うことなんてなかった。それが嬉しくてつい――
とびっきりの笑顔を向けてしまう。
私の笑顔を――あなただけのものにしてほしい。
そんな願いを込めて。
「美しい……」
誰かが言った。
会場中からため息が溢れる。
会場がざわめく。
「お静かに。格式あるデビュタントです。品格を持って臨みなさい」
女王殿下が嗜め、どよめきが治まる。
レオン様が――どこかつまらなさそうな顔をしていた。
どうして――そんな顔をするの?




