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救われないラスボスに転生したので運命を変えて幸せになります  作者: まにゅまにゅ
第5章 守れなかったもの

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43 紅き蝶、堕ちる

「私は――人間よ!」


 紅い魔神の爪が男を襲う。

 一瞬の動き――男の横を爪の斬撃が通り過ぎた。


 石床が砕け、広場に爪痕が残る。


「なるほど、その手の能力はやはり魔神ヤーヌスのもの……」


 ヤーヌス?


「奇しくもキャトルと同じ能力か。いや、お前の方が能力は強いな」

「何をごちゃごちゃと!」


 男めがけて魔神の爪を振るう。この男には私の“手”が視えている。それを確かめる!


「さっきから同じ攻撃ばかり。実に美しくないな。この私がわざわざ出向いたのだ、お前の力を見せてみろ!」


 男はやはり魔神の爪を軽く躱す。爪の衝撃波が後ろのヘルハウンド達をまとめて切り裂いた。


「やっぱり視えているんだ……」

「当然だ、俺もまた魔神の血を受けているからな。俺の名はツヴァイ! さぁ、俺を止めてみせろ。ミラージュ•サーヴァント!」

「……!」


 ツヴァイの身体が5つに分裂する。なるほど、こいつがツヴァイか。


 5体のツヴァイが動く。内4体の動きは本体の後に全く同じ行動を取るはずだ。


 対処法は――


 近づけさせないこと!


 魔神の手を巨大化、そのサイズを5倍にまで膨らませる。

 やることはただ1つ――殴る!


「ぬっ!?」


 複数の手でラッシュをかけ、ツヴァイを押し留める。


「そこだ!」


 動きを止めたところに爪の一撃。

 しかしそれは辛うじて躱される。とにかく手数でツヴァイを押す!


「なるほどな……。段々わかってきたぞ」


 ツヴァイは防戦一方に見えるが余裕の笑みすら浮かべている。6本の腕でラッシュをかけているのに、一発も当たってない……。


「少しだけ本気を見せてやろう……」


 ツヴァイの姿が消える。

 どこ!?


 辺りを見渡すがどこにもツヴァイの姿はなかった。


「ここだよ!」


 上空からの声――


 見上げるとそこにはツヴァイが。

 ツヴァイの周りには数え切れない程の無数の魔力球……!


 ――まずい!


 嫌――やめて!


 すぐさま手を大きくし、自らの防壁代わりにする。


 これじゃみんなを――守れない!


千の弾丸(サウザンドブリット)!」


 ツヴァイが無数の魔力球を降らせる。その後を追うように彼の幻影(ミラージュ)も無数の魔力球を放った。


 広場に振り注ぐ無数の魔力球――


 それは仲間であるはずの魔物達をも巻き込んでいった。


 轟音が鳴り響き土煙が、魔力の光が、そして悲鳴が広場を覆い尽くす。


「つぅっ……!」


 飛んできた石の破片に頬を切る。

 こんなのを繰り返されたら全滅しかねない!


 土煙が落ち着き、ようやく視界が開けた。


「……!」


 何人、死んだの?――


 私の周りに広がる無数の死体。重症者たち。身体を貫かれ、死の瀬戸際にいる人たち。


 ――守れなかった。

 私が弱いばっかりに――


「クククッ、どうだね? 幼き魔神よ。君の能力は確かに強い。だが、幼すぎたな。戦いの経験が足りないのだよ」


 図星だった。

 今までは不可視の手の力で魔物などものともしなかったのに。

 今、私は自分より格上の相手と戦っている。ルキフグのときもそうだ。手が視えるあいつに何もできなかった。


 今のままじゃ――勝てない!


 いや、それどころか追い詰められて攫われる!?


「幼き魔神よ、選択肢をくれてやる」

「選択肢……?」


 ツヴァイが何を考えているかわからなかった。


「レオン様……、だったか?」


 名前が出た途端、呼吸が止まった。


 心臓が凍りつく。

 口をパクパクさせ、なかなか言葉にならなかった。


「……! お願い、やめて! それだけは、それだけは!」


 一步後退り、ようやく言葉を絞り出す。


 あいつが何を言おうとしているか。そんなのはわかりきってきた。


 いやだ、考えたくない――

 誰か!――


「お前の目の前で殺してやろうか?」


 ツヴァイが愉快そうに嗤う。


 たった一言。

 それだけで十分だった。


 膝を付く。身体が震えて動かない。

 立とうとする気力さえ奪われて――


 心の中で――

 何かが、折れた。


「やめて、お願い、それだけは……!」


 気が付けば私は身体を震えさせ、跪いて懇願していた。


「私は、私はどうなってもいいから……!」


 お願い――誰か。


 誰か助けて!

 怖い。

 もう、身体が動かない。

 身体がガタガタと震え、恐怖に涙をこぼす。


 ――なら、助けてやろうか?


 誰!?

 いや、わかっている。私の中にいるナニカだ。


 ――妾なら助けてやれるぞ?


 本当に?


 ――簡単なこと。妾を解き放つだけでよい。簡単であろう?


 それだけは――


 それだけはダメ!


 ――妾はかまわぬぞ? ただ、そのレオン様とやらは、死ぬな。


 !


 これは……悪魔の囁きというやつだ。

 でも――


「ならば我が配下となるがいい。その力、我の為に奮え!」


 選択を突きつけられる。

 配下になれば、私は――


 レオン様に嫌われる。ううん、それどころか憎しみさえ抱かれるかもしれない。


 そんなのは――耐えられない……。


 選べる選択肢は、もうこれしかなかった。


 ――わかったわ。お願い、力を貸して。


 ――良い返事よのう。我が名はヤーヌスである。さぁ、我が名を呼ぶが良い!


「……ヤーヌス、あなたを、解き放ちます」


 それは最悪の選択かもしれない。

 でも、私、頑張ったよね?

 もう、いいよね?


 ごめんね……。


 涙が溢れた。


 そして自覚できるほど冷たい何かが心を支配していく。


「か、髪が黒く……!? ま、まさか魔神化? いや、そんな馬鹿な!」


 ――何を焦ってるんだろうこの人は。


 2つの意識が混ざり合うような不思議な感覚。


「ツヴァイと申したか? お主に本当の魔神の力というものを見せてやろう」


 ――見せてやらねばのう。


 圧倒的な暴力の恐ろしさ、というものを――

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