42 舞い降りた紅き蝶
「さぁ、美しく滅ぼしますよぉっ!」
紅い虎を駆る美丈夫。
素顔を晒し、上着は身に着けず紫のタトゥーが彫られた肉体。
彼は目を血走らせ、愉快そうに歪な笑顔を浮かべている。
「ははっ、ツヴァイ様!」
その後ろに付き従い、黒い虎を駆る2人のフードを被った男たち。その3人を先頭に魔物の大群がアルノーブルの街に向かっていた。
「あれがアルノーブルか。美しい、ところどころ壊れた外壁が雰囲気を出しているじゃないか!」
草原の中をひた走る魔物達。
その構成は黒い虎のみならずウルフやヘルハウンドに乗ったゴブリン、人の倍以上の背丈を持つオーガに空を飛ぶハーピーなど多様な魔物であった。
「しかし壊れ方が足りない。完全なる美とは完全なる無に宿る。そうは思わんか、お前達」
ツヴァイがペロリと自分の下唇を舐める。
「はっ、同感でございます!」
部下が同意すると、ツヴァイは気を良くしてニンマリと嗤った。
「よし、行くのだお前達!」
ツヴァイの号令で魔物達の突撃が始まる。その魔物達を屠るべく無数の矢が草原に降り注いだ。
普通ウルフやヘルハウンドでは城門を突破するのは困難である。数を揃えたところで城門を破壊する程のパワーはないからだ。
ゆえにアルノーブル軍の優先狙撃対象は生きた攻城兵器、オーガやトロルなどの巨漢モンスターである。
魔法の炎や矢でその数を減らしながらも城門を少しずつ破壊していく。
「なかなか頑張るじゃあないか。せっかく数を揃えたのに、これでは半数も残らんな」
しばらく様子を見ていたツヴァイであったが、明らかに不満な様子であった。
「そのようですね。いかがいたしましょうか?」
「俺が出よう。生き残ったというもう1人の実験体、是非見てみたい」
ツヴァイが紅い虎をポン、と叩く。
それを合図に紅い虎が天に向かって吼えた。
吠え声が辺りに響き渡ると、ツヴァイを先頭に2人の従僕も後を追う。
多くの矢、魔法が飛び交う戦場。その中にあってこの3人に届く矢も魔法も存在しなかった。
「はっはっはっ、そんな生ぬるい攻撃がこの俺に効くか!」
矢も魔法も見えない障壁に阻まれ弾かれていく。
「どけ、俺がやる!」
ツヴァイの命令でオーガやトロルが下がる。
「破壊せよ、千の弾丸!」
ツヴァイの周りに無数の魔力球が生まれる。その全てが一斉に門に振り注ぐと轟音が鳴り響いた。
そして門が崩れる音が鳴り響き、門に大きな穴が空く。
「よーし、突入せよ!」
ツヴァイの号令で魔物達が一斉に門の中になだれ込もうとした。
「むっ!?」
何かを感じたのか、ツヴァイが急ぎ魔力障壁を展開した。
一瞬遅れ、街の中から1条の閃光が駆け抜ける。
その閃光は街の門ごと大勢のモンスターを消し飛ばした。
「ちっ、やってくれたな」
光の過ぎ去った場所にツヴァイが目を向ける。
複数の魔道士が集まっており、1人の魔術師に魔力が集中しようとしていた。
「儀式魔法か、させん! 千の弾丸!」
しかしその行動を読んでいた魔導師が1人。誰あろうアルスターである。
「堅牢なる盾」
魔法の障壁をもってツヴァイの魔法に抵抗を試みる。
「くぅぅっ……!」
しかしアルスターの堅牢なる盾といえど全てをカバーするには至らない。
あちらこちらから魔力球の餌食となった者たちの悲鳴が、石床を破壊する轟音がアルスターの耳に届いていた。
魔力球が広場を飛び交い、アルスターの視界が塞がる。
ピシリ。
そして遂に魔法の障壁も限界を迎え始める。
そして怒号が収まり、ようやく視界が開けたとき、アルスターの目に最初に飛び込んで来たもの。
それは――黒い虎の大きな口。
「……!」
堅牢なる盾は既に限界だ。
このままでは死ぬ――
身体が動かなかった。
アルスターが死を覚悟する。
しかし黒い虎の首が突如切り落とされ、身体が切り裂かれた。
遅れて、血しぶきが噴き上がる。
「なるほど、これが――」
ツヴァイが空を見上げる。
紅い蝶の翅を持つ少女――
ツヴァイはその幻想的なまでの美しさに感嘆のため息すらこぼしていた。
少女はその紅い翅でひらりと舞い降りる。
誰もがその美しさに目を奪われた。
その圧倒的な存在感に魔物達ですら動きを止める。
ただ1人を除いては――
「ふははははは! これだ、これが見たかったのだ!」
ツヴァイが狂気じみた笑い声をあげ、歓喜に震える。
「会いたかったぞ実験体、いや――」
少女がその力を振るう。
容赦ない魔神の爪が辺りの魔物達を次々と切り裂いていった。
「幼き魔神――テア!」




