40 嘘と真実の境界
「……許可はできん。危険過ぎる! 君に何かあれば大きな損失だ」
ルーセル辺境伯が私の案を即座に却下した。
「そうね。テア、あなたは今や後方支援の中核を担っているのよ? その自覚はあるのかしら」
「うっ……」
セリーヌさんも私が提案した内容に反対のようだ。
「……でも確かに調査の必要はあるんじゃないかな。そうしないと、いつまでも終わりのない戦いを続けなくてはならなくなる」
レオン様だけが私の意見を肯定してくれていた。特に強く反対しているのがヘルクス子爵だ。
「終わらせる方法はありますぞ。襲撃の中に幹部を名乗る男が潜んでいるのです。そいつを捕らえれば済むではないですか」
ヘルクス子爵が立ち上がり、机を叩いて力説する。
「それに襲撃の起点を探す、といっても当てはあるのかしら?」
「……あります!」
セリーヌさんの質問に私はハッキリと答えた。
皆の視線が一気に集まる。
高い確率でそこだと思える場所が一カ所あるのだ。
「ほぅ、どこだね?」
「レムリア山の中腹辺りです」
そう、確かあの辺りにはゾーア教団の施設があったはずだ。細かい場所まではわからないが、大体の場所であれば覚えている。
「な、なぜそこだと……!」
ヘルクス子爵が私の言葉にいち早く反応した。しかし一瞬だが言葉に詰まっている。
「……思うのかね?」
睨むような視線。顔色も赤い。頭に血が登っているようだ。
うーん、それよりなんて答えよう。まさかゲームの内容で知っています、なんて通じるわけがない。
「私が、盗賊に捕まって売られた場所だからです」
ホントは嘘だ。でもこれが一番信じてもらえそう。
「ふざけるな!」
ヘルクス子爵がまたも机を叩きつける。今にも噛みつかれそうな、それほどの怒りが感じられた。
でも――なんでそこまで怒るの?
「そんなのは嘘だ! 嘘に決まっている!」
ヘルクス子爵が怒声をあげる。うーん、なんで嘘だってバレたんだろ?
でも――今さら引くわけにはいかない。
「なぜ、あり得ないと断言できるんですか?」
「簡単なことだ。君が魔神の血を打たれて最初に寄った場所はエルデの村と答え、その後にウォルノーツに辿り着いた。そうだな?」
「え、ええ。そうです」
なるほど、地理関係で証明しようってことか。
痛いところを突かれ、思わず唇を噛み締める。
考えよう――考えなきゃ!
「エルデの村の場所は知らんが、ウォルノーツから約一日で着いたのだろう? 位置関係的にあり得ん。違うかね?」
なかなか鋭いなぁ……。
でも、いい考えが浮かんだんだよね。
「ところが、そうでもないんですよ」
私は笑みを浮かべる。
「なに?」
私の一言にヘルクス子爵の眉がピクンと跳ねた。
「私の村は無もない村でした。でもあの盗賊団のことは今でも忘れられません。盗賊団に村を焼かれ、売られた先がそこだったんです。その後エルデの村の近くに移送されたんですよ」
……嘘だけどね。
でも、押し通す!
盗賊団なんてどこにだっているだろうし、名もない村なんてそこかしこに点在している。
この真偽を確かめるのは困難でしょ。それに突っ込みにくい内容だし。
「そうか……、辛いことを思い出させてしまったな。すまない」
ルーセル辺境伯が小さく頭を下げた。
「なるほど、そういうことなら調査する価値はあるわね。場所が絞れるならなんとかなるわ」
セリーヌさんも認め始める。
よし、流れは……、掴んだ!
「そうだね。でもそれは次の襲撃が終わった後にしよう。いくらなんでもテア1人にやらせるわけにはいかない」
レオン様、私を心配してくれてる?
「なぜです!」
しかしヘルクス子爵は折れない。机を再度叩き、感情を剥き出しにして噛みついた。
「なぜそんな子供の戯言をなぜみんなは信じるのですか!? もし、失敗したときの損失を考えてください!」
その迫力に皆が一瞬押し黙る。
しかし、ルーセル辺境伯が意見を変えることはなかった。
「その子供に我々は助けられているのだよ。それに、たとえ嘘であっても問題はない。可能性を1つ潰した、という成果が残るからな。消極的な対応ばかりでは後手を踏む」
その眼光は鋭く、ヘルクス子爵は押し黙り、席に座る。
この沈黙は――納得じゃない。押し殺したものだ。
ヘルクス子爵が私に目を向ける。
敵意――感じられた感情は明らかにそれだった。
「……結論が出たな。調査を認めよう。調査は襲撃の後だ。襲撃後3日以内に編成を終わらせる。なんとかやってみよう」
ルーセル辺境伯も本格的に調査を認める。同行くらいはさせてもらえるだろう。
で、セリーヌさんは……。
へルクス子爵を睨むように見つめていた。その目はなんらかの確信を得た人間のものだった。




