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救われないラスボスに転生したので運命を変えて幸せになります  作者: まにゅまにゅ
第5章 守れなかったもの

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39 懐かしい声、知らない温度

「知ってる子?」


 セリーヌさんが眉をひそめる。


「……はい、多分」

「多分……?」


 私の返答に何かを感じたのか、サーラと私を交互に見る。


「ほほう、お知り合いでしたか。ふぅむ、それなら私の方で保護をしましょう。簡単な仕事を与え、宿舎に部屋を与えましょうか」

「……いいんですか!?」


 ヘルクス子爵が保護を前向きに検討すると、セリーヌさんがそれを訝しむ。


「テアはよくやってくれている。その方がテアとそのサーラという子のためになるでしょう」

「ヘルクス子爵……、ありがとうございます!」


 思いっきり深く頭を下げる。


「テ……ア?」


 サーラが目を開ける。

 そしてか細い声で私の名を呼んだ。


「サーラ!」


 しかし彼女はすぐに目を閉じた。


「これはいけない、酷く衰弱しているようだ。すぐに宿舎横の治癒院で休ませるように。テア、付いていてあげなさい」


 ヘルクス子爵が兵士に命じる。


「はい!」


 ――サーラに付いてあげれる!


 その物分かりの良さに感動すら覚えそうだ。


「……よろしいので?」

「今の彼女に訓練を続けろと?」


 セリーヌさんが確認する。ヘルクス子爵はやはり私を気遣ってくれているようだ。


 セリーヌさんが私の方を見る。


「……いいでしょう。許可します」


 ため息混じりに許可を出す。


「ありがとうございます」


 これで――確かめられる。


「ではテア様、このまま私が治癒院までお運びいたします」

「はい、ありがとうございます」


 兵士さんがサーラを抱えたまま歩き出す。私はその後を小走りで付いていった。





 治癒院の一室。


 充てがわれた療養部屋は個室だった。ヘルクス子爵の指示らしい。


「サーラ……」


 見れば見るほど確信する。

 間違いなくサーラだ。


 冷たい手をギュッと握る。


 痩せているのは衰弱のせいだろう。


 髪に触れる。


「ん……」


 口元が一瞬歪む。

 そして、ゆっくりと目が見開かれた。


「テ……ア?」


 か細く、掠れた声。


「目を覚ましたんだね、良かった」


 手が、次第に温かみを増す。


 ――生きていた。

 夢じゃない。


 目に涙が溜まる。


「うん、あのね私……」


 サーラが口を開く。


「うん……」

「ここまでどうやって来られたのか記憶がないんだ……」


 記憶が――ない?


「どこまで……覚えてる」

「えっとね、注射をされて――」


 サーラが言い淀む。

 苦い記憶しかないはずだ。当然だろう。


「とても苦しくて、そこから先は覚えてないんだ」

「そっか……」


 何も――覚えてないんだ。

 一度死んでたことも?

 いつ目が覚めたかも?


「でも……テアのことはわかるよ?」

「え?」

「でも良かった、生きてて」


 サーラの口元が三日月のように開く。


 うん?

 気のせい――だよね。


 サーラの笑顔ってこんなんだっけ?


「うん、お互いにね」

「テア、覚えてる?」

「なにを?」

「精霊祭のこと」


 ――なんでその話?

 まるで、確かめているみたい。

 でもいいか、暗い話は。


 元気になってからで――


「うん、覚えてるよ」


 ――夢で、見たばかりだから。


「ねぇ、ずっと気になってたんだけど……」


 サーラがクスリと笑う。

 なんだろ?


「うん?」

「……いい人できた?」


 ドキィッ!


「はいっ!?」


 鋭い指摘に心臓が止まりそうになる。

 ほ、ほわいなっ?


「だって、その紅い蝶の髪飾り……」

「あ……、こ、これは、その……」


 しどろもどろになる。

 な、なんて説明しよう……。


「とっても、綺麗。テアによく似合ってるね。ふふっ」


 はうっ!


 顔が真っ赤になってるかも……。


「か、片想いだけど……」

「そんなプレゼントもらって?」


 越えられない、壁があるから……。

 だからわかってる。


 ホントは、好きになっちゃいけないんだって。


 身分の差。これは絶対だ。


「レオン様は、優しいから……」


 ――本当に、ずるいよね。

 叶わないとわかってるのに――


 期待してしまう自分がいる。


「そっかぁ、レオン様って言うんだね、その人。きーちゃった」

「あ……!」


 そういえばサーラがレオン様を知るわけがない。上手くやられた?


「ねぇ、聞かせて欲しいな、レオン様のこと」

「う、うん……」


 推しを語る。

 そんなこと、人生で初めてだ。


 その後、療養室でサーラと私の笑い声が響き渡っていた。


 空白の時間を埋めるように。

 いつまでも、いつまでも……。

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