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救われないラスボスに転生したので運命を変えて幸せになります  作者: まにゅまにゅ
第4章 全てを救うために

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37 紅い蝶とずるい人 後編

「大丈夫かい、テア」


 はっ!


 レオン様の声に我に返る。

 頭がオーバーヒートしてて思考が停止していたようだ。


「はい、私は死にません!」


 ――何言ってんだ私は!


「えーっと?」


 ダメ、レオン様がリアクションに困ってる!


 ……困った顔もいいな――


 じゃなくて!


「いや、あの、これはですね!」


 わたわたと両手を振りながら顔をぶんぶん横に振る。


「うん、でもそうだね。テア、君には本当に大変な思いをさせていると思ってる」

「レオン様……」


 レオン様が私を見つめる。

 その眼差しにはどこか憐憫の情が感じられた。


 しばらく見つめ合う。


 ふっ、とレオン様が笑顔を見せた。


「だから、今日は思いっきり羽根を伸ばそう。お互い頑張らないとね」


 ――心配、かけてたんだ。

 うん、レオン様にそんな顔させちゃダメだ。頑張ろう。

 私は――

 魔神の血になんか負けない!


「はい、頑張ります!」


 拳に力を込めて答える。

 レオン様の笑顔を曇らせないためなら――


 私は喜んでこの力を振るおう。たとえこの力が悪だとしても――


 力の先に求めるものに、嘘偽りはない!


「ふふっ、僕も負けてられないな。ねぇ、せっかくだし色々見て回ろう」

「はい、そうですね」


 レオン様が立ち上がり、私も立ち上がる。そして歩き出した。


 うん、頑張ろう。

 だから――

 ちょっとだけ、いいよね?


「きゃっ!」


 足が――もつれた振りをする。

 そしてそのままレオン様の右腕にしがみついた。


 どうしても今、触れておきたかったから。

 この温もりを忘れないために――


「大丈夫?」

「はい……」


 チラリとレオン様を見る。

 私の視線に何かを感じたのかな。

 腕にしがみついた私を見る目が優しかった。


「それならいいんだ」


 ――良かった、嫌がられてない。


 もうちょっとだけ――

 腕に軽く頬を寄せる。レオン様は何も言わなかった。





 色んなお店を回り、アクセサリー類を扱う店に入る。


 貴族も利用する店らしく、棚に並ぶブローチや髪飾りが幻想的な輝きを放っていた。


 ショーケースには美しい宝石が丁寧に並べられ、つい目を奪われる。


 数あるブローチの中で、特に私の目を引いたものがあった。


「紅い蝶の髪飾り……」


 奇しくも私の翅にソックリだ。高そうなので手には取れない。

 値札には金貨50枚とあったからだ。


 一応ワイバーンを売った金貨があるから買えないことはない。しかしそのためには冒険者ギルドでお金を下ろさないといけなかった。


 店の場所は覚えたし、今度買おうかな?




 少し名残惜しそうに私は髪飾りから目を離した。


 一通り一緒に見て回る。

 髪飾りのコーナー。


 一瞬、レオン様の目があの紅い髪飾りに止まったような気がした。



   *    *    *


 デートを終え、私は着の身着のまま冒険者ギルドに走った。


 中に入ると周りの目が私に釘付けになる。そりゃそうだ。


 黒いドレスのままだもん。場違いにもほどがある。


「お金、おろしたいです!」


 息を切らしたまま、私は受け付け嬢に用件を伝える。


「はい、いくら下ろしますか?」


 受け付け嬢が私のギルド証を確認して答えた。


「金貨50枚で」

「はい、少々お待ちください」


 受け付け嬢が奥の部屋に入る。


 チクタクチクタク。

 時計の針に目をやる。

 18時30分。閉店まで30分しかない。


 待ち時間がとても長く感じられた。


「お待たせしました金貨50枚です。お確かめください」


 受け付け嬢がトレーに金貨10枚ずつ組み上げ、それを5本用意する。確認を終えると革袋に詰めてくれた。


「ありがとうございます!」


 金貨を受け取り時計を見る。

 後――20分!


 私は急ぎ、ギルドを出る。

 手に乗っていけば早い。でもそれをやると騒ぎになりかねなかった。


 ――走るしかない!


 精一杯走る。

 金貨を大事に抱えながら。


 あれがあれば――


 少しだけ、今の自分を好きになれる気がした。


 店の前に着くと、両膝に手を当て呼吸を整えた。


 よし、と身体を起こす。そして店の中に入ると、真っ直ぐ髪飾りのコーナーへと向かった。


「あ……」


 遅かった――


 最初から、私には無理だったんだ。


 思わずその場にへたり込む。

 せっかく頑張って走ったのに――


「どうなさいましたか?」


 心配そうに店員さんが声をかけてきた。


「紅い蝶の髪飾り――」


 少し涙声で伝える。


「申し訳ございません。1点ものでございまして、売り切れでございます」

「そう、ですか……」


 ――もう、ないんだ。


 力なく答え、ゆっくりと立ち上がる。


 フラフラと肩を落としながら店を出ようとした。


 ゴン!


 うっかり出入口の枠に頭をぶつける。


「いたたた……」


 うずくまり頭を押さえると店員さんが心配そうに声をかけてきた。


「だ、大丈夫ですか?」

「はい、お騒がせ……しました」


 トホホ、と肩を落としながら帰路に着く。


 ――せっかくレオン様とのデートで楽しい気分になれたのに。


「最後に、台無しになっちゃった……」


 うるっ、と涙が溢れる。


 宿舎に戻ると寮長が仁王立ちで私を待っていた。


「テア、門限は過ぎてますよ!」

「はい、申し訳……ございません」


 うるっ、としたまま頭を下げる。


「まったくもう……。そうそう、あんたにお客様だよ。部屋で待ってるからサッサと行ってやんな」


 お客様……?

 誰だろう。


 トボトボと肩を落としながら部屋の前に立つ。


 誰とも――会いたくないな。

 もう、何も考えたくない。


 仕方なくドアノブを捻った。


「やぁ、お帰り」


 私を待っていたのは――

 レオン様だった。


「どうしたの? 遅かったね。あれ、もしかして泣いてる……?」


 レオン様が心配そうな目で私を見る。


「いえ、なんでもないです」


 私はとっさに涙を手で拭った。


「そうかい? ならいいんだ。それより中に入りなよ」

「あ、そうですね。ところでレオン様、どうされたのですか?」

「うん、ちょっとね。髪が乱れてるね。直してあげるからそこに座って」


 姿見の前に椅子が移動していた。レオン様が動かしたのだろう。


「はい」


 言われるまま椅子に座る。


「まぁ、見ててよ」


 レオン様が私の髪を櫛でとく。その手つきはとても優しい。


「ありがとう……ございます」


 レオン様にこんなことさせるなんて――

 申し訳なさに硬く目を閉じる。辛くて唇の端を噛みしめた。


「これで仕上げだよ」


 パチン。


 何かが髪にはめられた?


「目を開けて見てご覧」


 ゆっくり目を開ける。

 姿見に髪の整った私が映っていた。

 そして私の髪には――


「レオン様、これって……」

「うん、思った通りだ」


 髪飾りに触れる。

 その自分を鏡で確かめた。


「よく、似合ってるね」


 私の髪には――


 あの紅い蝶の髪飾りが。


「これ、気に入ってたよね。僕も気になってたんだ。テアに、似てるなって」


 ――なんで?


 どうして?


 私、なんにも言ってないのに!


 ――嬉しい!

 ……でも、こんなのずるい。


 こんなの、不意打ちだよぉ……。


「ありがとう……ございます」

「うん、見てたよ。君がこの髪飾りを見てたのを」


 泣きそうになる。

 見て……たんだ。


「こんなの、ずるいです……」


 ぽつりと、こぼれた。


 嬉し涙が溢れ出す。

 見てくれていた――

 私を――


「……こんなの」


 言葉が詰まる。


「好きになっちゃうじゃないですか……」


 レオン様はもう一度、私の髪を優しくといてくれた。


 まるで――


 壊れないように触れるみたいに。


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