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救われないラスボスに転生したので運命を変えて幸せになります  作者: まにゅまにゅ
第4章 全てを救うために

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36 紅い蝶とずるい人 前編

 アルノーブルの中央辺りには公園がある。特に噴水のある池にはたくさんの睡蓮が浮かんでいた。人もたくさんいるのに、この空間だけはなぜか静寂すら感じられる。


 見ていて飽きない。

 それどころか戦いに疲れた心を癒やす清涼剤だ。


 近くの睡蓮を軽く指で突く。

 ゆっくりと滑る睡蓮が小さな波紋を広げて近くの花にくっついた。


「ふふっ」


 そんな光景に笑みを浮かべながら、私はその時が来るのを待つ。

 待ち合わせの予定まではまだ30分くらいはある。結構待たないといけないはずなのに、この時間が妙に愛しく感じられた。


「あれ、早いね。僕の方が早いと思ったんだけどな」


 後ろから声がかかる。

 間違えようのない声。黒いドレスを翻し、振り向く。


「レオン様こそ早いですね」

「待たせちゃ悪いと思ってね」


 レオン様は赤いコートを羽織り、赤い半ズボン(ブリーチーズ)を穿いていた。銀色の刺繍も施され実に豪奢だ。


 ――カッコいい。


 ため息が溢れる。


 ……目があっちゃった!


 笑顔で返されたけど、ガン見してたのモロバレだよ……。


「そのドレス着てくれたんだね。よく似合ってる」


 くはぁっ!

 レオン様の笑顔に、褒め言葉に心臓が射抜かれる。


 ――このドレスにして良かった!


 その言葉だけでここに来て良かったって思えちゃう。


 今きっと私、耳まで真っ赤に違いない。身体中が熱を帯びたみたいに火照ってるよぉ!


「じゃあ行こうか。お手をどうぞ、お姫様」


 一瞬、迷う。


 ――私なんかがいいの?


 レオン様が私に手を差し出す。


 その指先を求めて手が震えた。


 ――触っちゃった!


 小さな感動に胸が高鳴る。

 さらにレオン様の手が私の手を優しく包んだ。


 手から体温が伝わる。


 ――あったかい。


「お昼、まだだよね。せっかくだし屋台を見て回ろうか」

「は、はい!」


 レオン様がゆっくりと歩き出す。優しく手を引かれ、身を任せるようにその横を並んで歩く。


 ――私の歩幅に合わせてくれてる?

 気遣ってくれてるんだ……。


 私にとって無理のないペースだ。街の景色がゆっくりと流れる。


 ただ一緒に歩いてるだけなのに、とても優しい時間。


 露店の立ち並ぶ商店街に入る。

 様々な食材を扱う店、ゴザを敷いて陶器などを売っている商人。色んなお店をゆっくり眺める。


 客引きの声やたくさんの人たちの雑踏は実に賑やかだ。レオン様の私の手を握る手が少し強くなった。


「あったあった、あそこの屋台だ。とても美味しいらしいんだ」


 レオン様の指差す先の屋台。のぼりには『名物ミノス串焼き』と書かれているようだ。人もそこそこ集まっており、私達も列に並ぶ。


「おっ、すげー美味そう!」

「あたぼうよ! 最高級のマツザカミノタウロスだぜ?」


 前の人がミノス串焼きを手に満面の笑みを浮かべている。それにしてもマツザカミノタウロス……?


 ビールが主食なのかな?


「すいません、串焼きを2本お願いします」

「へい、2本なら銀貨2枚でさ」


 私達の番になり、レオン様が指を2本立てて注文する。


「まいど! その子は妹さんかい?」


 妹……。

 やっぱりそう見えてしまうんだ……。


「いえ、違いますよ」


 レオン様が即座に否定する。

 その声はどこか力が籠もっていた。


 私の手からレオン様の手が離れる。少し寂しいけどお金を払うのだから仕方がない。


「へーっ、可愛い子じゃないか。やるなぁにぃちゃん。ほら、串焼き2本だ」

「ありがとう」


 わ、可愛いだって!

 レオン様にも――言われたいな。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 レオン様の差し出した串焼き。

 私が持ちやすいように指3本で支え、持ち手を私に向けていた。


 そっと、両手で受けとる。


 ――指、触れたいな。


 一瞬魔が差す。でもやめた。


「向こうで食べようか」

「はい」


 少し行くとベンチの並んでいる場所があった。屋台などの共同飲食スペースになっているようだ。ごみ箱まで完備されていた。


 2人並んでベンチに座る。

 ……近い。


 意識しないように、なんて無理!

 どうしても気になってしまう。


 気持ちを落ち着けようとミノスの串焼きに目を向けた。

 塗られたタレが光を反射させる。それでいて垂れていない。しかも結構量があり、銀貨1枚は納得のボリュームだった。


「いただきます」


 串焼きの肉にかぶりつく。

 口の中に肉汁が溢れ、タレと混ざり合う。肉が唇でちぎれそうなくらい柔らかい。


「美味しい……」


 まるで和牛のような味に感動すら覚えてしまった。


「うん、美味しいね。話には聞いていたけど、期待以上だよ」

「そうですね」


 美味しい串焼きに心が弾む。レオン様の笑顔も相まって最高の時間だ。


「タレ、口に付いてるよ」


 私の口周りをレオン様のハンカチが拭った。


 ――!


 不意打ちだった。


 近い!

 近すぎるよぉっ!


 ドキドキが止まらない。

 心臓が爆発しはしないかと心配になるほどに。


「ふふっ、可愛いね」


 ふはぁっ!!


 ――もう無理!


 今日、絶対無理!


 心臓が、保たないよ……。

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