35 似合う私になるために
レオン様とのデート……。
クローゼットを開ける。入ってる服は見習いの治癒師服ともう一つ。
レオン様が私にくださった黒のドレスだ。服、これだけ。
黒のドレスをその身に当てる。貴族の令嬢なら普段着としても使えそうな気がした。
――でも、これでいいのかな?
もっと明るい方がいい?
でも子供っぽいと思われるかも……。
レオン様はどっちの私を気に入ってくれるだろう。
他のドレス、と思い革袋を開ける。
金貨2枚と銀貨が複数枚。
これじゃドレスなんて買えない……。
もう一度ドレスを服に当てる。
姿見を眺めながら様々な角度で自分を見た。
――見れば見るほど素敵なドレス。
だからこそ思い知らされる。
――これは、私なんかが着ていいドレスじゃない。
張り裂けそうな心を閉じ込めるようにギュッ、とドレスを抱きしめる。
でも……。
レオン様がくださったドレスだから……。それに似合ってる、って言ってくれた。
その言葉を頭の中で何度も反芻させる。
胸が、締め付けられた。
もし、これ以外のドレスを選んだら――
もしかしたらレオン様はガッカリなさるかもしれない。せっかく選んだのに、って。
――そんな風に、思われたくない。
……笑われたり、しないよね?
「うん、やっぱりこれしかない。このドレスに――」
――似合う女の子になりたいな。
鏡をじっと見つめる。
そこには照れくさそうにドレスで顔を半分隠す私が映っていた。
明日のことを夢想し、私はベッドに入る。
――手を引かれて。
可愛いね、って言われたら――
……!
思わずガバッと身体を起こす。
無理無理無理無理無理無理!
し、心臓が保たないよ……。
でも――
そう、思われたいな――
窓を眺める。
月が、見えた。とても綺麗だ。
――遠いな。
あんな風に、なれたらなと少しだけ悲しくなった。
次の日、朝食を終えて部屋に戻るとマリサさんが待ち構えていた。
「さぁ、テア様。メイクアップの時間でございますよぉ?」
マリサさんの両目が光ったんじゃないかと思えるほどの視線。
「お願いします!」
デート。それは女の戦い!
如何に自分を美しく、かつ可愛く見せるか。良い印象を与え、次に繋げるための戦い。
相手を如何に魅了するか。
それが明暗を分けるのだ。
負けられない今がここにある!
「ドレスは女の戦闘服。ただ豪華であればいいわけではありません。ドレスを着こなすことこそ淑女の嗜み! それはすなわち心!」
マリサさんが慣れた手つきでドレスを着せる。
「テア様。化粧は演出。最高の自分を見せるための技なのです!」
マリサさんが素早い手つきで私に化粧を施す。
て、手が見えないくらい早い!
「そして要は女らしい体型。まだ幼女であらせられるテア様には不利なことではあります。しかし愛らしさであればテア様はブッチギリの合格点! つまり体は完璧!」
メイクアップを終えた私を褒めちぎる。もう、私を指差してノリに乗ってる感じ?
「心技体の三位一体。それこそがお洒落なのです!」
マリサさんが熱弁する。
姿見に映った私は完全に別人だ。化粧でここまで変われるのも驚きしかなかった。
自分で言うのもなんだけど、めちゃくちゃ可愛い。
これが私?
と、ちょっと怖くなったよ。
……化粧って怖い。
「しかしこれでもまだ画竜点睛。これにレオン様の髪と同じ色の金色のネックレス! レオン様の瞳と同じ色の碧色のドレス! これがあればもはや芸術の域に達するでしょう……!」
マリサさんの顔が激しく蒸気していた。かなり興奮している。
あ、今よだれ拭かなかった?
「あああああ! 捗る、捗ります!」
頭を抱え、身をよじらせる。
えーと、なにが?
とは怖くて聞けない……。
でも確実なことが1つ。
マリサさんは私の味方だ!




