2 ラスボス廃棄少女テア 2
なんだろうこの嫌な臭いは。
まるで腐った卵をより一層濃く、深くしたような臭い。こんな所に居たくない。
「ううっ……」
ゆっくりと目を開ける。確か注射を打たれてそれで気を失って……。
ふと周りを見る。それでこの嫌な臭いの正体がはっきりとした。周りは死体だらけだ。
「……! さ、サーラ……!」
私のすぐそばでサーラが横たわっていた。
「起きて、ねぇ、起きてってば!」
サーラの肩を揺さぶる。
しかし全く反応がない。
脈を取る。
その手はとても冷たい。
命の鼓動が伝わってこなかった。
胸に耳を当て心音を確かめようとした。
でも震えて身体が動かない。
「ダメ、確かめなきゃ⋯⋯」
胸に耳を当てる。
伝わる振動。
でも何も聞こえない。それはただ私の手が震えていただけだった。
「嘘……!」
もう一度脈を探る。
何もない。
「なんで……、どうして……!」
その瞬間私の目から涙が溢れる。
「サーラ⋯⋯!」
ふいに私の脳にサーラとの思い出が甦る。
村で一緒に遊んだこと。
悲しいときに傍にいてくれたこと。
一緒に祭りを楽しんだこと。
これは蒔田莉央にはない記憶。
そう、これはテアの記憶だ。同時に今の私の記憶でもある。
どれくらい泣いただろう。
気が付けば声は枯れていて、呼吸だけが浅く続いていた。
もう一度サーラに目を向ける。
――このままじゃ、サーラを置いていくことになる。
そんなのは嫌だ。
「こんなとこじゃ眠れないよね……。せめてちゃんと土に還してあげたい」
でもこんな小さな身体で、何ができるというのか?
そこでふと思い出す。そうだ、私はラスボス廃棄少女テアだ。
なら⋯⋯。
「⋯⋯出ろ」
何も起きない。
もう一度強く念じる。
その瞬間空気が揺れた。
黒い腕が4本、音もなく現れた。
これならサーラを運べるかもしれない。
そう思い動かしてみる。サーラの身体は軽く、2本の腕で軽々と持ち上がった。なら残りの腕で自分も持ち上げてしまおう。
念じると手のサイズが大きくなった。私はその手に腰を下ろす。
ふわり。
いとも簡単に自分を持ち上げる。
「よし、逃げよう」
私は腕を操作し、死体の山を下ってサーラを連れて森の中に入った。
幸い天気が良く、それほど暑くもない。少し奥に入ると死臭もしなくなり、森林特有の緑の匂いがしてきた。
「この辺でいいかな。サーラ、ここでおやすみ……」
私は地面に降り立つ。
能力を使い穴を掘り、サーラを埋めた。
「サーラ、ごめんね⋯⋯」
私は膝をついて両手を合わせる。
風が吹いた。
木の葉の揺れる音が聞こえる。
サーラ、安らかに眠ってね。
ふと、顔を上げる。
どうして私はサーラを亡くしたばかりなのに、こんなに早く立ち直っているのだろうか。
――苦しいはずなのに。
――悲しいはずなのに。
それでも冷静に考えている自分がいた。そこに――自己嫌悪さえ抱くほどに。
何故か自分が人でなくなったのではないか、という嫌な考えさえよぎってしまう。
「よそう。今ネガティブな感情に支配されるのは良くない」
私は頭を振って嫌な考えを振り払った。
「⋯⋯生きなきゃ。そうだ、レオン様に会いに行こう。もしこの世界があのゲームの世界なら、どこかにいるはずだもんね」
もしかしたらこれはただの現実逃避なのかもしれない。でも他にすがるものが何もなかった。
「サーラ、私行くね」
サーラを埋めた墓に目を向け、微笑もうとした。
「~~~!」
思わず涙が溢れ、私はその声を無意識に押し殺す。
歯を食いしばり、溢れる涙を抑えながら身体を反転させる。そして森の出口を目指した。
風が頬を撫で、涙を乾かしていく。
涙が消えていくのが、怖かった。




