表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救われないラスボスに転生したので運命を変えて幸せになります  作者: まにゅまにゅ
第1章 ラスボス廃棄少女になった私

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/29

1 ラスボス廃棄少女テア 1

「テアちゃん! 起きて、テアちゃん!」


 誰かが必死に私の名前を呼んでいる。


 ――私の名前?


 ぼんやりした意識の中で、そんな疑問が浮かんだ。


 私の名前は牧田莉緒のはずだ。どう考えてもおかしい。


「テアちゃん、お願い、起きて……」


 もう一度、声。

 今度はすぐ近くから聞こえた。

 重たいまぶたをゆっくり開ける。

 最初に目に入ったのは、見慣れない石の壁だった。


 灰色の石が積み上げられていて、ところどころ黒ずんでいる。湿気のせいか、空気もひんやりしていた。


 身体の下も硬い。


 冷たい石の床に寝かされているらしい。


「……ここ、どこ?」


 かすれた声が出た。

 自分の声なのに、妙に高くて幼い声だった。


「テアちゃん! よかった、起きた……!」


 慌てたような声とともに、私の顔を覗き込む少女が視界に入る。

 ショートカットの髪。

 心配そうな大きな目。

 年齢は……たぶん、私より少し下くらい。

 その子は泣きそうな顔で言った。


「テアちゃん、大丈夫? なかなか目を覚まさないから心配したよ……」


 テア。

 またその名前だ。


 でも、不思議と違和感がなかった。

 むしろ、どこかでその名前を知っている気がする。


 私はゆっくり身体を起こして周りを見回した。


 右、石壁。

 左、石壁。

 前、鉄格子。


「……牢屋?」


 口からぽつりと言葉がこぼれる。

 そう、ここはどう見ても牢屋だった。

 狭い石の部屋に鉄格子。藁も何もない石の床。薄暗くて、なんだか錆びた臭いがする。


 なんで私はこんなところにいるんだろう。


 そしてもう一つ、もっとおかしなことに気づいた。

 自分の手だ。

 目の前にかざした手は、小さくて細い。

 指も短い。どう見ても大人の手じゃない。


「……え?」


 胸がざわつく。


 私は慌てて自分の身体を触った。腕も脚も細い。背も低い。明らかに子供の身体だ。


 その瞬間、頭の奥で何かが弾けた。


 知らないはずの記憶が、洪水みたいに流れ込んでくる。


 村。

 畑。

 優しい母さん。

 大きな手の父さん。

 笑い声。

 そして、炎。悲鳴。血。盗賊。


 全部、知らないはずの記憶なのに、全部知っている。


 胸が締め付けられる。

 涙が勝手にこぼれた。


「……サーラ」


 気がついたら、私は目の前の少女の名前を呼んでいた。


 少女――サーラは驚いた顔をしたあと、ほっとしたように笑った。


「よかった……覚えてるんだね」


 覚えてる?

 私は何を覚えてるんだ?

 頭がぐちゃぐちゃだ。

 牧田莉緒としての記憶と、テアという少女の記憶が、無理やり一つの箱に押し込められているみたいだった。


 私は確か、昨日……。

 徹夜でゲームをクリアして、仕事に行こうとして、階段を降りて――


「……あ」


 思い出した。

 階段を踏み外して、落ちて、頭を打って。


「私……死んだの?」


 思わず呟いた言葉に、自分でぞっとした。

 でも、そう考えると全部つじつまが合う。

 子供の身体。知らない記憶。牢屋。知らない世界。


 つまりこれは――


「……異世界転生ってやつ?」


 小さく笑いそうになる。

 いや、笑えない。全然笑えない状況なんだけど。


 そのとき、鉄格子の向こうから足音が近づいてきた。

 コツ、コツ、と硬い床を歩く音。


「ふん、目が覚めたか」


 低くて気味の悪い声。

 紫色のローブを着た男が牢屋の前に立った。

 フードを深く被っていて顔はよく見えない。


 でも、直感でわかった。こいつは絶対にろくな奴じゃない。


「お前たちはこの私が購入した。これから私の実験に付き合ってもらう」

「……実験?」


 嫌な予感しかしない言葉だった。

 男は背後にいた青いローブの連中に命じた。


「魔神の血を持って来い」


 ――魔神の血。


 その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍った。

 私はこの言葉を知っている。

 知っているはずがないのに、知っている。


 それはゲームの中で、あの少女が打たれた薬の名前だ。


 ラスボス廃棄少女、テア。


 ゾーア教団に捕まり、魔神の血を打たれ、力に目覚め、そして――


 世界を憎んで、魔神になる。


 紫ローブの男が、注射器を持って私の腕を掴んだ。


 針が肌に触れる。

 その瞬間、私は確信した。

 ああ、そうか。

 私は――


「……テア、なの?」


 銀髪赤眼の、救われないラスボス少女。

 ゲームの中で、何度も倒したあの女の子。

 その少女に、私はなってしまった。


 針が腕に刺さる。

 薬が体内に流れ込んでくる。

 胸の奥が焼けるように熱い。

 視界が暗くなる直前、私はぼんやりと思った。


 ――ああ、これ。

 ――私の人生、絶対ロクなことにならないやつだ。


 異世界転生――


 そんな言葉が脳裏に(よぎ)る。でもそこに希望なんてあるの?


 答えは――出ない。


 そこで、私の意識は再び闇に沈んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ