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救われないラスボスに転生したので運命を変えて幸せになります  作者: まにゅまにゅ
第3章 癒神の手

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27 音の消えた夜

 旅路は順調だった。


 ――それも順調過ぎるほどに。


 晴れ渡る空の下、数台の馬車が揺れている。その中の1つに私とレオン様が同乗していた。


 しかも向かい合わせ。


 私の隣にはマリサさんが座り、レオン様の隣にはネルソンさんが座っていた。


 レオン様が外の景色を窓から覗いている。その横顔を私は堪能していた。


 整った顔立ち。いつまで見ていても飽きない自信がある。


 ――この時間がずっと続けばいいのに。


 ふいに私の視線に気づき、微笑み返す。

 もうそれだけで心臓が飛び出そうになった。それを見てマリサさんがクスリと笑った。





「今日はこの辺りで野営ですな」


 日も落ち始め、広い草原の中で馬車を止める。騎士団の人達がテントを張り始めた。


 ……風がない。

 草原とはいえ、不自然なほど静かだ。


 私は、というと桶を天使の手で持ち上げ、馬の水やりである。


 ブルルル……


 馬が小さく(いなな)き、水を飲み始めた。私はそれを両手で頬を覆いながら見守る。


「馬の後ろには立つんじゃないよ? 蹴飛ばされるからね」

「はい」


 アーネスさんは私の護衛だ。この旅には風の旅人も参加している。そのままアルノーブルで傭兵をやるそうだ。


「テア様ー、アーネス様ー!」


 マリサさんの声だ。食事の準備ができたようだ。


 私たちはいくつかのグループに分かれる。私のグループにはレオン様、マリサさん、ネルソンさん、風の旅人の人達がいた。


 夕食は鶏肉のスープ。

 野菜と鶏肉を煮込んだ塩味のスープで、アッサリしていて食べやすい。


「美味しい……。優しい味ですね。お肉なんて久しぶりです」


 お肉なんてワイバーン以来だ。治癒院での食事はお腹を満たすのが目的だったからなぁ。


「え……。テア、あんた普段どんな食事してたんだい?」


 アーネスさんが驚いたように聞いてくる。


「え? 野菜のスープとパンです」

「ほら、もっと食べな! 子供はしっかり食って大きくならないと」


 私がさも当然に答えると、私の器にお肉と野菜を分け入れてくれた。


「ありがとう……ございます……」


 申し訳なさそうにお礼を述べる。


「そうですねぇ……。確かに少し栄養が足りてませんね」


 マリサさんが憐れむように私を見る。でも庶民の生活なんて、そんなものだろう。肉はなかったけど、お腹はちゃんと満たされていた。それなら庶民の中では良い方らしいから。


「テア、遠慮せずお腹いっぱい食べるといい。量は十分にあるから」

「はい、ありがとうございますレオン様」


 そうだ、たくさん食べてボンキュッボンにならないと。成長期なんだし栄養は必須だもんね。






 その夜、用意されたテントの中で私は横になる。私のテントにいるのはマリサさんとアーネスさんだ。


 騎士の中にも女性はいるが、顔見知りの方がいいだろう、という配慮である。


「鎧のまま寝るんですね」

「ああ、すぐに動けるようにね。不寝番は多いが、何があるかわからないからね」


 アーネスさんは何かを感じ取っているのか、テントの入り口を少し開け、覗き込む。


「何かあれば必ず守るわ。だから安心して休みなさい」


 その声はいつもより少しだけ強かった。


「はい、ありがとうございます」


 厚手の布を被り目を閉じる。

 しかし簡単には寝付けなかった。


 私もまた、ねっとり絡みつく嫌な感覚に苛まされていたのだ。





「テア、起きてるんだろ? 妙だ」

「妙……ですか?」


 アーネスさんの一言にむくりと身体を起こし、小声で答えた。


「ああ、静か過ぎる。胸騒ぎがするわね。ちょっと見てくるわ」


 アーネスさんがテントを出る。

 そして立ち上がると同時に――


 違和感。


 何かが、ずれた。


 ドサリ。


 一気に身体が冷えた。


「え……?」


 音からほんの少し遅れ、声が漏れる。


 胸騒ぎがしてテントの入り口を開ける。


 目が合った。


 倒れるアーネスさんの側に立つ男と。


 その男は冷徹な目で私を見下ろす。見知った軍服――


 不安になりアーネスさんに目を向けた。


「アーネス、さん……?」


 動いて……。


 ねぇ、動いてよ……。


 私は震える手でアーネスさんに手を伸ばす。


 背中から流れる血。

 あの場所は――


 違う!

 嘘だ!

 嫌だ!


 ……心……臓……?


「いやああああああっ!!」


 私の悲鳴が静寂を破壊した。

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