26 託されたもの
「……話はわかりました」
次の日、私は自らの決意を院長に話した。
院長室の中、私は執務席の前で直立不動。背筋を伸ばし、胸を張る。
「テア、あなたはいい治癒師になれる。そう思って私は育ててきたつもりです」
院長が座ったまま私の目を真っ直ぐに見つめる。その表情はとても厳しい。
「……はい」
しっかりと見つめ返す。
「……ですが、あなたのその力を見て思いました」
院長が顔を引き締めた。
「あなたの持つ力はそれと同じだけの重みを持っていると」
院長がふっ、と笑う。
ほんの少しだけ、視線が揺れた。
「……行きなさい、テア」
「……院長!」
思わず笑みが溢れる。
認めてくれた、それが私の心を一気に軽くした。
「ですが忘れてはいけません。テア、あなたは確かに治癒師なのです。治癒師とは人々を守る存在です。人を傷つける存在にだけはなってはいけませんよ?」
人を守る存在……。
そうだ、私は人を傷つける力も持っている。
力に呑まれるな――院長はきっとそう言いたいのだ。
「はい」
呼吸を整える。
そして覚悟を持って答えた。
「私は――治癒師として戦います」
私がハッキリと答えると院長は引き出しを開け、一着の服を取り出す。
「この服は……!」
私の紅い制服とは違い、この服は碧色だ。
これは――先輩たちが着ている制服と同じものだ。
「これは一人前の治癒師に与えられる制服です。治癒師としての心構えを失くさないよう持っていきなさい」
「……! ありがとうございます!」
私は深々と頭を下げる。涙が溢れそうなのを必死に堪え、ぎゅっと唇を噛みしめた。
「それと少ないですが、これを。今までの給金です」
握り拳程の革袋を制服に添える。
制服に手を伸ばす。
指先に伝わる布の感触。
それは思っていたよりも、ずっと重かった。
「テア、頑張るのですよ。さ、行きなさい」
院長は椅子を回転させ、私に背を向ける。その声はどこか震えていた。
その背中がいつもより少し小さく見える。
「はい、院長もお元気で……。ありがとう……ございました!」
もう一度頭を下げる。
堪えきれず床に涙が染み込んだ。
顔を上げると院長は黙ったまま背中を震わせていた。
退出するべく扉を開け、廊下へ出る。
先輩たちが並んで私を待っていた。
でも誰も目を合わせようとしない。
あの一件以来わだかまりが残っていたせいかな。
「テア、行くんだね」
「その、ま、あれよ」
「冷たくして……悪かったわ。ん」
先輩の1人がそっぽを向いたまま包みを差し出す。
「ありがとうございます……」
呆気に取られたまま受けとる。中を覗こうと包みに手をかけた。
「ここで見るの禁止!」
「そ、外に出てから見なさい!」
「じゃ、私たち仕事の途中だから」
それだけまくし立てると先輩たちは逃げるように走り去っていった。
見送り、姿が見えなくなると、私はその場で包みをあける。
「これは……!」
中は教科書だった。
読み書きを覚えるための教本。そういえばまだ少ししかできなかったっけ。
張り紙がされており、こう書かれてあった。
『ちゃんと勉強しなさい!』
「はい、頑張ります」
私はギュッと胸に押し当てる。
――ちゃんと生きていくために。




