22 襲撃者
「ぎゃああああっ!」
またも誰かの悲鳴。
私の護衛には風の旅人以外にも領主様の兵がついているそうだ。
恐らくこの悲鳴はその誰か。
狙いは――もしかして私?
なぜ?
いや、なぜかなんてどうでもいい。
私は、私のせいで誰かが傷つくなんて絶対嫌だ。
なら――
「私も出ます!」
「ダメです! 護衛を信じてください」
信じたい――でも。
それでも信念は曲げたくない。
「信じる信じないじゃないんです。これは――」
覚悟を決める。
抗うんだ。運命に。
私は奴隷にならない。
魔神にもならない。
私は――
私はレオン様の隣に立つんだ!
「これは私の闘いです!」
勢いよく馬車の出入り口を開ける。
馬車は大した速度じゃない。構わず石床に着地する。
目に入ったのは黒装束の男たちと兵士たち。
悪魔の手、複数展開!
「いっけぇ!」
「ごばぁっ!?」
夕方とはいえ黒装束は怪しすぎるでしょうが!
黒装束の男たちを容赦なく殴る。
殴る。
殴る!
「……いきなり吹き飛んだけど、嬢ちゃんがやったのか?」
カインさんが私を見て驚く。無事でよかった。
「……私も戦います」
「ダメだ。これは俺達護衛の仕事だ。護衛対象に守られるわけにはいかないんだよ」
カインさんの言い分もわかる。
それでも私は決めたのだ。
「……抗うって、決めたから!」
私は気を吐き悪魔の手を駆る。近づく黒装束を殴り倒し、カインさんが確保した。
「何者だてめぇら、吐いてもらうぜ」
地べたに這いつくばらせたまま、黒装束の首根っこを押さえる。
「クク……」
黒装束は一瞬だけ笑う。
「ぐばぁっ!」
次の瞬間、黒装束の男は吐血した。
すぐにガクリ、と首を落とす。
「こ、こいつら……!」
チッ、とカインさんが舌打ちする。
「ダメだ、確保した奴全員自害しやがった。なんなんだこいつら」
アルスターさんが苦々しそうに告げる。
「ねぇテア。あなた、こいつらが何者か知っているんじゃない?」
アーネスさんが問いかける。
知っている、というよりは見当がついているが正しい。
「多分だけど……。でもその前に」
天使の手を召喚。傷ついた兵士の治療にあたる。傷の深い人ばかりだったが、幸いにも死者はいなかった。
「た、助かった……」
「ありがとう……」
兵士たちが口々に礼を述べ、頭を下げる。
「いえ、そんな……」
私は大丈夫、と遠慮がちに応えた。
そのとき、いきなりカインさんが剣を抜いた。
金属音。
何かを弾いた音だ。
アーネスさんがすぐに私を庇うようして後ろに立つ。
「え……?」
影が、走った。
重い金属音。
「くっ……!」
「ほぅ……」
振り返るとアーネスさんが何者かの襲撃を剣で受け止めていた。
「ぐふっ!」
アーネスさんが横っ腹に蹴りを受け吹き飛ぶ。
視界が、開けた。
その直後――
空気が、止まった。
目に映ったのはあの日、夢に出てきた軍服の男。
なんで――こいつが?
走る悪寒。
固まる私。
迫る男の両手。
しかし男がすぐに後ろに跳ぶ。
「させるか!」
カインさんが剣を振っていた。
軍服の男は少し距離を取ると、舌打ちする。
「……なるほど」
「何者だてめぇ!」
男は答えない。
だが私は知っている――この男が何者かを。
男が私を見る。
その目を見た瞬間――
さらに怖気が走った。
一雫の冷や汗が頬を伝う。
「……ルキフグ=ロフォカレ」
私はボソッとその名を呟いた。男の眉がピクリと動く。
「聞いたことがあるぞ、その名前。確か暗殺組織ルシフェロンの頭領じゃないか」
アルスターさんが私の前に立ち杖を構える。
「なんでそんな大物が……!」
ルキフグはふぅ、と一度ため息を吐く。
次の瞬間――
空気が、変わった。
「知らなければ死なずに済んだものを……」
ゾクリ――悪寒が走る。
気が付けば悪魔の手を飛ばしていた。
「ほほう、これが……」
え……?
ルキフグが悪魔の手を掻い潜り、一気に間合いを詰める。
カインが前に出た。
剣閃がぶつかり合う。
カインさんが一步引いた。
一瞬動きの止めたルキフグを悪魔の手が殴りに行く。
しかしそれをバック宙でひらりと躱した。
「そんな……視えてる?」
間違いない。ルキフグは視えないはずの手が視えている。
ずっと引っかかっていた。
――どうやってあの力を封じたのか。
でも今ならわかる。
こいつだ。こいつがいたから――




