21 目が覚めて
「う……ん……」
目を覚ます。
塗装された綺麗な天井。
魔法の光に照らされた部屋。
「……」
しっかり目を凝らす。
どう見ても私の部屋じゃない。
ふかふかなベッド。
温かな綿の布団。
どこか懐かしい温もりに身を任せたくなる。
「お目覚めでございますか?」
女性の声。
目を向ける。
――誰?
知らない人だ。
エプロンドレスに身を包んだ女性。
彼女はベッドのすぐ横に座っていた。
「あの……」
「お目覚めになられましたか。私、ルーセル辺境伯家に仕えるメイドのマリサと申します。テア様のお世話をするよう仰せつかっております」
マリサさんは静かに立ち上がるとスカートの裾を広げてお辞儀する。
その仕草はとても優雅で気品があった。
ふと思い出す。
そうだ、私は気を失ってしまったんだ。顔が熱くなる。
よりによってレオン様の前で……。
とんだ醜態を晒してしまったと恥ずかしくなった。
「あ、いけない!」
ガバッ、と身体を起こす。
「院長先生の許可はいただいております。どうかそのままお休みください」
院長が……?
ちょっと意外だ。
うーん、いいのかな?
ロクに休んだことなかったし、好意に甘えることにした。
「後で院長先生にお礼を言っておくことをお勧めします。領主の遣いが来て対応に追われているようですね」
なるほど、そういうことか。
あの力は確かに強大だ。領主なら欲しがるかもしれない。
「はい、そうですね」
院長にはなんだかんだで守られている気がする。
怒られはしたが見捨てられてない。そんな気がした。
「夕食まで時間がございます。その間の準備の方、お手伝いさせていただきますね」
マリサさんがニッコリ微笑む。
なんだろう。
逃げ場がないような、そんな気がした。
「ふおおおお……、生き返る……」
風呂だ。
久しぶりの風呂だ。
「さぁ、肩まで浸かりましょうね~」
バスタブの中でマリサさんの膝の上に乗せられる。
「はふぅ……」
その心地よさにため息がこぼれた。
浄化の力で身綺麗にはできてたが、やはり風呂は命の洗濯だと思う。
風呂の後にはドレスを着せられた。
黒を基調とした可愛いドレス。
髪まで編んでくれた。
そして薄化粧。
「あら~、素材がいいからやり甲斐あるわ~。とーっても可愛いですよ」
マリサさんが私を褒めちぎる。
姿見を見た。
「これ……私?」
血色の悪さは化粧で消え、愛らしい衣装に身を包んだ私がいた。
どこのご令嬢?
と思ってしまうほどの変身ぶりだ。
「で、でもこんな高そうなドレス、私払えません!」
果たしてこのドレスはいくらするのか。それを考えると怖くなった。
「いえいえ、これはレオン様からのプレゼントでございます。受け取ってくださいませ」
マリサさんがにこやかに答える。
――レオン様から?
頬が染まるのがわかる。
「あらあら~?」
マリサさんがクスクス笑う。
これは……間違いなくバレたかも。
「あ、あの……変じゃ……ないですか?」
「とてもお綺麗ですよ。大変よく似合っております」
少しだけ胸がくすぐったくなる。
こんな風に言われたことなんて、なかったから。
――こんな日が、ずっと続けばいいのに。
なんて、そんなことを少しだけ思ってしまった。
「では準備もできたことですし参りましょうか」
「どこへ……ですか?」
マリサさんが私の手を引く。
「ふふっ、いいところです。さ、レオン様がお待ちですよ」
レオン様が……?
胸の奥が熱くなる。
心臓の鼓動が速まった。
マリサさんが私の手を引く。
部屋を出て外へ向かう。どうやらここは高級なホテルだったようだ。
出入り口の前には馬車が待機していた。そして見知った顔。
「よう嬢ちゃん」
「久しぶりね」
「元気そうで何よりだ」
「お、お久しぶりです。カインさん、アーネスさん、アルスターさん!」
再会に嬉しくなり頭を深く下げる。
「それでは護衛の方よろしくお願いしますね。さ、参りましょう」
「はい」
マリサさんに手伝ってもらい馬車の中に入る。
御者が馬を走らせると静かに馬車が動き出した。
「どこへ向かってるんですか?」
「領主様のお屋敷です。レオン様もそこに滞在なさっております」
「レオン様も一緒……」
思わず漏らす。それを見てマリサさんがクスクス笑った。
「ええ、是非にと」
穏やかな時間。
そのとき、突如馬車が揺れた。
「きゃあっ!?」
思わず身が竦む。
「だ、誰だ貴様らはぐわぁぁぁっ!」
「ちっ、嬢ちゃん絶対出てくるなよ!」
外からは悲鳴。
金属音。
「な、なに?」
動揺したまま窓を覗く。
人の死体。
血の匂い。
「いけません!」
マリサさんが私を抱きかかえる。
これは……いったい……!




