20 赦し
「何を泣いているの」
優しい声。
頭に温かな手の温もり。
その温もりが私の痛みを和らげる。
――落ち着く。
顔を上げる。
レオン様は優しい笑顔で私を見つめていた。
「大丈夫かい?」
私を――心配してくれてる?
その一言で胸が熱くなる。
「あの……」
「うん」
聞くのが怖い。
でも――
レオン様なら。
私はレオン様を信じる!
「私が……怖くないんですか?」
すると目をパチクリさせた。
間――
「どうして?」
彼はふっ、と笑い聞いてきた。
ああ、怖がってない。
それがとても嬉しい。
「だって……私……」
言葉が詰まる。
化け物だから。
そう言おうとして顔を伏せる。
「怖くないよ」
彼はアッサリと答えた。
思わず顔を見上げる。
優しい笑顔がそこにあった。
「君は私を助けてくれた。私だけじゃない。君は多くの命を救ったんだ」
真っ直ぐに私を見つめる。
「君の勇気を私は讃える」
胸が、ギュッと締め付けられた。
「でも、あの力は……」
怖い。
あの力の正体を知っているだけに。そんな不安が言葉になった。
レオン様はすぐには答えない。
でも、優しい笑顔だけは崩れていなかった。
「そうだね。あの力は普通じゃない」
真剣な眼差し。
ドクン、と心臓が脈打つ。
やっぱり――
そう思った。
胸が、痛い。
「それでもいいんだ」
優しい口調。
涙が出そうになった。
「いい……の?」
「私は君に助けられた。それは確かに君の意志だろう?」
私の――意志。
レオン様を助けたかった。その気持ちに嘘偽りなど一切ない。
「それが全てだよ」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
ずっと怖かった。
否定されることが。
拒絶されることが。
でも――
レオン様は違った。
この人は見てくれていた。
私の力じゃなくて、私の行動を。
選択を。
「あ……」
息が漏れる。
視界が滲む。
この涙は――
――ああ。
私、赦されたんだ。
「ほら、見てご覧」
レオン様が後ろを指差す。
ふと周りを見る。
いつの間にか大勢の人達に囲まれていた。
「あんたすげぇな!」
「その羽根かわいいね」
「ありがとう。君はこの街の英雄だ!」
口々に私を褒め称える。
なんかこそばゆい。
「さ、涙を拭いて」
レオン様が私の涙を拭う。
自分でも顔が赤くなっているのがわかった。
「~~~!」
嬉しい。恥ずかしい。嬉しい。恥ずかしい……。
感情が溢れる。
ぼふっ。
脳のキャパを超え、私は気を失ってしまった。
* * *
「坊ちゃま」
ネルソンがレオンに声をかける。
「ネルソン、この子を休ませてやってくれ」
レオンはテアを抱きかかえた。
――軽い。それに9歳という割には身体も小さいな。
「はい」
レオンが少女をネルソンに託す。
「ネルソン」
「なんでございましょう」
ネルソンがその場を離れようとして再度声をかけた。
「この子だね。君が言っていたのは」
「左様でございます」
「よく知らせてくれた。この子をどうあってもアルノーブルに連れ帰らなければならない理由ができた」
「魔神の翅……、でございますか」
気を失った今、紅い蝶の翅は消えていた。しかしレオンとネルソンはその翅の正体に心当たりがあった。
「ああ。彼女は知らなければならない。自分が何者なのかを。だが護れる者が必要だ。それができるのは恐らく私だけだろう」
レオンは迷うことなく答える。そこには強い意志があった。
「ええ、ですがこの街の領主が許さないでしょう」
「だろうね。しばらく滞在することになりそうだ」
2人が天を見上げる。
雨はまだ降りそうにない。
しかし遠くの方には雨雲がその姿を見せていた。
「……」
2人のやり取りをある男が見ていた。
男は静かにその場を離れる。
「……あの方に報告しなければ」
運命は未だ、テアを逃す気はなかった。




