19 力の代償
……力の使い方?
――その通り。あの程度の魔物などお主の敵ではない。
あの化け物をあの程度……?
「テア! 何をやっているのです!」
院長の叱責。
そこで我に返る。
選ばなければならない。
私はどうありたい?
何を望んでここに立っている?
答えは既に出ていた――
「私は……残ります」
確かな決意を込め答える。
「テア!」
――教えて、力の使い方を。
――簡単だ。妾に全てを委ねよ。
――断る。力の使い方だけ教えなさい。
私は私でいたい。
ただそれだけだ。
――欲張りね。いいわ、力を貸してあげる。
世界から音が消えた。
院長の声も兵士たちの喧騒も聞こえない。
ドクン。
身体が沸騰するように熱い。
私は飛び上がった。
手の力も借りずに空中で静止する。まるで羽根でも生えたかのようだ。
黒い手から鋭い爪が生え、紅く染まっていく。
――唱えるがよい。これこそ妾の力の一端なり。
「破滅の爪牙……!」
その瞬間、世界が血に染まった。
紅い手が虚空を引っ掻く。
同時にその先にいた黒い獣が引き裂かれた。
紅い手が次々と黒い獣を屠る。
突然の出来事に兵士や騎士たちは動きを止めた。
その視線の先にいるのは私。
でもまだ終わりじゃない。
紅い虎の元へ飛翔する。
虎に咬まれ命を落とす者、爪で切り裂かれ四肢を失う者。
そして何よりも――
「レオン様!」
何よりも大切なもののため、私はその力を振るった。
紅き虎が咆哮と共に前脚を上げる。その先にいたのはレオン様。
――させない!
「破滅の爪牙!」
悪魔の手が虚空を引っ掻く。
その瞬間魔物の前脚が吹き飛んだ。
ガオオオオーーーン!
魔物が悲鳴をあげる。
レオン様が剣を振るった。
「おおおおおおお!!」
その一撃が喉を切り裂く。
虎が大きな口を開けた。
私は降り立つ。
レオン様と魔物との間に。
虎の大きな口を紅い手が止めた。
「切り裂け、破滅の爪牙!」
爪が魔物の口内を引き裂く。
天に向かい咆哮。
紅い鮮血が噴水のように飛び上がる。
それが、紅い虎の最期だった。
その咆哮をきっかけに生き残った魔物が逃走を始める。
湧き上がる歓声。
ああ、終わった。私はレオン様の方を振り返る。
「君、なのか……? 私を助けてくれたあの……」
レオン様はどこか震えていた。
そして気づく。
「紅い……翅?」
それを見てハッとした。
間違いない。
でも信じたくない。
この翅は――
この紅い蝶の翅ってラスボス廃棄少女が最期に見せた――
「いや……!」
急に怖くなる。
そんなつもりじゃなかった。
これが、力の代償?――
嫌だ。私はそんなの望んでない!
「いやあああああっっっ!!」
私は頭を抱え、その場にうずくまる。その絶叫が兵士たちの歓声をかき消した。




