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救われないラスボスに転生したので運命を変えて幸せになります  作者: まにゅまにゅ
第2章 光に触れて

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17 邂逅

「テア、こっちも手伝って!」

「は、はい!」


 先輩に呼ばれ、私は包帯を持って駆けつける。


 ネルソンさんが来てから数日経った。今日も治癒院はてんてこ舞いだ。


「……終わりました!」


 包帯を巻くのも大分慣れた。

 うん、綺麗に巻けている。


 だけど――


 未だ治癒魔法は禁止されていた。


「次はこっちよ、ぐずぐずしない!」

「は、はい!」


 心に閊えたものを抱えながら次の患者のところに走る。


「え……」


 まただ。


 黒い引っ掻き傷。

 傷の深さの割に少ない出血。

 それなのに治癒魔法でも完全に血が止まっていない。


 巻いた包帯の上から血が滲む。

 おかしい。治癒魔法がほとんど効いていない?


 私の神の手なら治せるかもしれない。使えないのがもどかしかった。


「いったいどうなってるのよ!」


 即完治特別快癒コースの方だ。


 見れば同じ患者に上級治癒魔法を2回もかけていた。1人終えるたびにポーションを飲んでいる。


 明らかに異常だ。


 院長も只事じゃないと思ったのか何か考えている様子だ。


 ふと、院長と目が合う。


 ――ここは私の出番だ。


 声がかかる。

 そう思ったのに院長は私から視線を逸らした。自らも上級治癒魔法を駆使して治療を再開する。


「ボサッとしない! 全くもう……」


 苛ついた様子で私を叱責する。


「す、すいません!」


 慌てて薬を塗り、包帯を巻く。


「確か嬢ちゃん即完治コースにいたよな? なぁ、もっとちゃんと治してくれよ」

「……すいません」


 冒険者の人が不満を漏らす。

 私は謝ることしかできなかった。


 なんか――こういうの嫌だな。





「はぁ……」


 仕事が一段落し、私はため息をこぼした。遅めの昼食――硬いパンをスープに浸しながらゆっくり咀嚼する。


 味気ない……。


 柱に寄りかかりながら天井を眺める。治癒院の天井は高い。

 ドーム型の形状で採光用の窓ガラスは高い位置にあった。


 今日は天気が悪いため、日光が差し込むことはない。代わりに光の魔法具が煌々と治癒院の治療場を照らしていた。


 ――疲れたな。


 心も、身体も。


 ――静寂。


 先輩達も疲れているのか会話がない。ただ黙々と遅めの昼食を取っていた。


「頼む、すぐに来てくれ!」


 静寂を破るような誰かの大声。

 皆の視線が一斉に集まる。


 立派な鎧――しかしところどころ傷だらけだ。その騎士たちの中にネルソンさんを見つけた。


「なにごとですか!」


 院長が立ち上がる。


「重症者がいる! お金は幾らでも払う、腕のいいのを連れてきてくれ。さぁ早く!」


 騎士が焦るようにまくし立てる。


「仕方がありません。行きますよアラウネ」

「はい」


 古株のアラウネさんが立ち上がる。

 院長が私を見た。


「……テア、あなたも来なさい」

「……! はい!」


 私は疲れた身体を奮い立たせ、立ち上がる。正直ふらふらだ。


 でも、行かなきゃいけない気がした。


「さぁ早く!」


 騎士団の人たちが走り出す。追いかける私たち。


 しかし子供の私の足では皆に追いつけない。それに走る体力すらなかった。


 ――仕方がない。


 私は久しぶりに手を召喚し、自らを運んだ。緊急事態だ、このくらいは勘弁してもらいたい。




 街の門の外。

 そこに3台の馬車。


 周りには傷を負い、座り込む騎士たち。

 その傷は黒く、その割には出血が少なかった。


「重症者はこの馬車の中だ。失礼のないようにな。できれば周りの騎士たちも診てやってくれ」


 騎士が示したのは3台の中で一番立派な馬車だ。さぞ身分の高い方が乗っているのだろう。


「アラウネとテアは周りの騎士たちに処置を。私が馬車の中の人を診ます」

「「はい」」


 院長が役割を指示し、私たちは処置にかかった。


 アラウネさんが治癒魔法を、私は薬を塗り包帯を巻いていく。


 馬車の中から光が溢れる。院長が治癒魔法を使っているのだ。





 少し経って院長が馬車から顔を出す。そして首を横に振った。


「頼む、坊ちゃまを……!」


 中から声が聞こえた。

 ――治療が失敗した?


「……テア、中に入りなさい」

「は、はい!」


 院長に呼ばれ、馬車の中に入る。


 時が――止まった。


 見覚えのある髪。

 見覚えのある顔立ち。


 ――私は彼を知っている。


今の年齢は12歳のはず。その頃の顔を私は知らない。

でも私の心がそう叫ぶのだ。


「レオン……様?」


 左腕の傷が深い。爪痕だけじゃない。これは噛まれた痕だ。


 そこから組織が壊死し始めている。


 このままじゃ左腕は使い物にならなくなる――。


 隻腕。その言葉が頭を覆い尽くした。


「うう……」


 苦しそうに呻く。

 目を閉じ、歯を食いしばって堪えていた。


「テア、私の上級治癒魔法すら効きませんでした。でも、あなたなら――」

「……やらせてください」


 私まで失敗したら――そう思うと怖い。でも今は、今だけは――


 やらなきゃ。


 私は静かに、ハッキリと答えた。


「癒せ、天使の手」


 全力で癒しにかかる。

 レオン様の腕は――私が守る!


 天使の手が傷口に触れる。

 ――違和感。

 黒の侵食。壊死だけじゃない。

 治癒の力に抵抗している!?


「……っ!」


 さらに想いを込めた。


 絶対治す!


 かざす手に力が入る。


 黒く壊死した組織が再生し、元の白い肌を取り戻していく。黒い傷痕さえ消え去り肉が再生した。


「……」


 レオン様の呼吸が安定し、ゆっくりと目を見開く。


 ふわり。


 私の顔に温かい手が触れた。


「ありがとう……、君は命の恩人だ」

「レオン様……」


 よかった……。

 よかった……。


 涙がこみ上げる。

 私はその温かい手にそっと両手を添えた。


「大変です! 例の魔物たちが街に近づいています!」


 誰かの大声。


「総員迎撃態勢!」


 騎士たちの鎧が音を立てる。

 それは、この場所が戦場と化すことを意味していた。

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