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救われないラスボスに転生したので運命を変えて幸せになります  作者: まにゅまにゅ
第2章 光に触れて

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15 大切なこと

「……行かなきゃ」


 気分が重い。

 それでも身体を起こす。


 部屋を出ると先輩が前を歩いていた。


「おはようございます」


 お辞儀。


 ?


 返事がない。


「……」


 先輩は一瞥するとサッサと行ってしまった。


 治癒場に入り、いつもの即完治特別快癒コースの場所へ向かう。


 そこには院長がいた。


「テア。今日は普通治療を担当なさい」

「? わかりました」


 よくわからないまま了承。

 なんで――?


 頭の中に疑問符が浮かんだ。


 私の場所に古株の治癒師が陣取る。その側には大量のポーション。


 思わず目が向く。


「上級治癒魔法は連発できないの。あなたと違ってね」


 私を一瞥し、古株さんが答えた。


「はぁ……」


 何となく棘を感じる。

 思わず気のない返事をした。


「言い忘れていたわ。今日は治癒魔法の使用を禁止します」

「え……?」


 禁止?

 意味がわからない。


「返事は?」

「……はい」


 納得はできなかった。

 でも従わないといけない。

 きっと院長なりの理由があるのだろう。


 釈然としない心のまま現場へと向かった。





治癒(ヒール)……。はい、包帯を巻いて」


 先輩が患者にヒールをかける。

 塞がりきってない傷。

 血が止まっただけだ。


「は、はい!」


 急いで包帯を巻く。


「違う! 教えたでしょ、ちゃんとやって」

「す、すいません!」


 先輩に叱責され巻き直す。


 ……私なら完璧に治せるのに。

 慣れない手つきで包帯を巻く。


 少し不格好だけどちゃんと巻けたと思う。


「ありがとさん。ま、銀貨5枚だしこんなもんだろ」


 男が腕の曲げ伸ばしをする。

 痛みの確認をしているのだろう。


 感謝はされている。

 しかしなぜか釈然としなかった。


 ふと即完治特別快癒コースの方に目が向いた。


 大怪我が治り涙する患者とその仲間たち。


 ――あそこは私の場所だったはずなのに。


 治療を終え、ポーションを飲む古株。

 そうか、あれは魔力を回復するための――。


 ――私ならあんなもの必要ないのに。


「テア、どこを見ているの。仕事に集中しなさい!」

「す、すいません……!」


 ビクッ、と身体が震える。

 恐る恐る先輩を見た。


 怒ってはいない。

 それ以上何も言われなかった。


 チクリと心に棘が刺さった。





「なんか今日は空気悪いわね……」


 仕事も一段落し、先輩達がヒソヒソと話し合っている。


「ほら昨日……」

「あー、そりゃ腹立つわ」

「いい薬よ」


 会話が耳に入る。

 私は膝を抱え、俯いていた。


 ――みんな怒ってるんだ。私そんなに間違っていた?


「テア、あなたにお客さんよ」


 院長だ。


「は、はい……」


 誰だろう。呼ばれて足を運ぶ。

 昨日出会った親子だ。

 彼らは私を見ると一礼した。


「昨日はありがとうございました。まだ金貨6枚には足りませんが……」

「おねぇちゃん、昨日はありがとう」


 女の子が精一杯の笑顔を向ける。

 それを見ると治って良かったと心から思えた。


 父親の払った額は銀貨2枚。

 基礎的な治療すら受けられない額だ。それでもこの親子にとっては、なけなしのお金なのだろう。


 彼らの姿を今一度見る。

 ところどころほつれた服。汚れもそこかしこにある。


 それに対し私は清潔な治癒師の制服を着ている。

 雲泥の差だ。


「じゃ、半分だけ……」


 ダメだ、全部もらえない。

 悪いと思い半分だけ受けとる。


「テア、ちゃんと全部受け取りなさい。まだわからないの?」


 すると院長が私を叱責した。


「え……?」


 院長を見る。

 怒っていた。


 私また間違えた……?


「そのお金は“対価”よ。その重みがわからないの?」


 お金の重み――。

 なんとなくわかった気がした。


「どうかお受け取りください」


 父親が改めてお金を差し出す。


「……はい、受け取ります」


 今度は、ちゃんと受け取った。

 すると父親がはにかむ。女の子も口を開けて微笑んだ。


「そう、それでいいの」


 優しい声。

 ――そうか、それでいいんだ。


「またお金ができたら持ってきます」


 父親が頭を下げる。


「はい、お待ちしてます」


 私は笑顔で答えた。


 父親は帰る途中ももう一度振り返り頭を下げる。

 心の中が少し温かくなった。


 もしかしたら救われたのは私の方かもしれない。


「あの人たちに救われたわね」

「……はい」


 素直に答える。


「いい、テア。あなたの救いたいという気持ち。それはとても尊いものよ」

「はい……」


 去っていった親子の方を見つめながら私は答えた。


「上級治癒魔法を使うために用意したポーション、あなたも見たわよね」

「はい」

「それが普通なの。一日に何度も使えるものじゃない。それにあれだけのポーションなんてとても飲めないわ」

「……」


 そうか。だからあんなに……。


「悲しいけど全てを救えるわけじゃないの。それはただの傲慢だわ」

「はい……」


 そうか、そういうことなんだ。


 ――それでも私は――


 あの親子を救ったのは間違いじゃないと思いたかった。


 何が正しいのか。


 ――答えはまだ出なかった。


    *   *   *



 次の日、私は院長に応接室に来るよう言われた。

 応接室なんて利用するのは余程のお偉いさんのはず。恐らくお貴族様だろう。


「失礼します」


 私が入室すると男性が立ち上がる。

 シルクハットを取ると、恭しく一礼した。


「初めましてお嬢さん。私はルーセル辺境伯様の家臣、ネルソンと申します。本日はお願いがあって参りました」


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