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救われないラスボスに転生したので運命を変えて幸せになります  作者: まにゅまにゅ
第2章 光に触れて

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14 生命の価値

「ほらテア、次が来るわよ。急いで」

「は、はいっ!」


 今日も治癒院は患者で溢れていた。


「即完治特別快癒コース、最後尾はこちらでーす!」


 外から張り上げる声。列は建物の外まで伸びていた。


「次の方、どうぞ」


 一人送り出し、次を迎える。


 杖をついた男が入ってきた。右脚――膝から下がない。


「金貨六枚払ったんだ。本当に治るんだろうな?」


 疑うような目。


「……怪我は、いつ頃のものですか?」


「三年前だ。オークにやられてな」


 三年。

 思わず息が止まる。


「おい、どうした。隣街から来てるんだぞ」

「……はい。再生、します」


 天使の手を呼び出す。

 光が収束し、形を成す。  骨が、筋が、皮膚が――組み上がっていく。

 やがてそこには、失われていた脚があった。


「……奇跡だ」


 男は震える足で立ち、そして跳ねた。


「動く……! 本当に……!」


 子供みたいに笑う。


「……よかった」


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。


「次が待っています。外へお願いします」


 院長の声で現実に引き戻される。

 男は名残惜しそうにしながらも、軽い足取りで去っていった。


「……稼げるわね」 


 院長がぽつりと呟く。

 視線の先には、並ぶ客たち。  身なりのいい者ばかりだ。


 ――稼ぐ。


 それは、間違いじゃない。

 でも。


「次は私だ」


 入ってきたのは初老の男だった。


「今日はどうされましたか?」

「棘が刺さってな。痛くてたまらん」


 差し出された指先。

 小さな棘。

 ――これで、金貨六枚?


「どうした、早くしてくれ」

「……はい」


 天使の手で棘を取り除く。


「おお、楽になった」


 それだけ言って、男は去った。

 残されたのは、重たい違和感。


「……これで最後ね。お疲れ様」 


 ようやく一区切りついたところで、外が騒がしくなった。


「困ります!」

「頼む、この子を診てくれ!」


 反射的に立ち上がる。

 入口で揉めていた。


 ぼろ布のような服の男。その腕の中には小さな女の子。

 ――火傷。

 顔から首にかけて、酷い。


「前払いが必要です」

「そんな金はない! 後で必ず払う!」

「お父ちゃん、いたい……」


 か細い声。

 胸が締めつけられる。


「すぐ治療しないと……!」


 一歩踏み出す。

 天使の手を呼び出そうとして―― 


「やめなさい」


 鋭い声。

 身体が止まる。

 院長がこちらを見ていた。


「……前払いが決まりよ」


 静かで、揺るがない声。


「でも……!」

「前例を作る気?」


 言葉を失う。


「お金を払った人たちは? 全額返すのかしら」


 何も言えない。

 正しい。 全部、正しい。

 でも――

 女の子が、こちらを見ている。

 助けを求める目。


「……私が、払います」


 絞り出すように答える。


「払えるの?」

「……」


 答えられない。

 それでも。

 それでも――


「癒せ」


 光が溢れる。

 焼けただれた皮膚が、ゆっくりと再生していく。

 やがて、何もなかったかのような白い肌が戻った。


「……いたくない」


 女の子が呟く。

 父親が崩れるように頭を下げた。


「ありがとう……本当に……」


 その声を聞いた瞬間、

 ――これでいい。

 そう思った。


「……テア」


 低い声。

 振り返る。

 院長の視線が突き刺さる。


「あなた、自分が何をしたか分かってる?」


 喉が乾く。


「……人を、助けました」

「それだけ?」

「……え?」

「対価を取らない治癒は――仕事じゃないわ」


 言葉が、理解できない。


「私たちは、この仕事で生きているのよ」


 一歩、近づかれる。


「それを否定したの」

「ちが……」


 否定できない。


「あなたは、治癒師を侮辱したのよ」


 胸が、強く締めつけられる。


「……っ」


 息が苦しい。


「今のあなたに――治癒師を名乗る資格はないわ」


 視界が滲む。

 何も言えない。

 何も、分からない。

 ただ――

 苦しい。


「あ……あ……」


 声にならない。

 気づけば、走っていた。


「うああああああっ……!」


 部屋に飛び込み、布をかぶる。

 涙が止まらない。

 さっきの言葉が、何度も頭の中で響く。


 否定。

 拒絶。

 全部が、突き刺さる。


 ――どうして?


 助けただけなのに。


 それが、どうして。

 分からない。

 分からないまま、

 ただ、泣き続けた。



   *   *   *



「……厳しすぎませんか?」


 先輩の声。


「……分かってるわ」


 院長は目を閉じる。


「でもね」


 静かに言う。


「善意だけで回るほど、この世界は甘くないのよ」


 少しだけ、間を置いて。


「……それでも、あの子は止まらないでしょうけどね」


 ふっと、小さく笑った。

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