13 忙しい毎日
治癒院の仕事は時間との戦いだ。
「テア、次この人お願い!」
「は、はい!」
1人治療を終えると、すぐに声がかかる。
次の人《《も》》きっと重症だ。
私は急ぎ運ばれてきた患者に向かう。その患者は戦士風の男だった。
担いで来た仲間が先輩治癒師の案内で床に安置する。
「た、助けて……」
蚊の鳴くような声で助けを求めている。腹には布が巻かれていた。しかし血は止まることなくあふれ、布を鮮血に染め上げている。
一刻の猶予もない。
「すぐに助けます!」
私はナイフで布を切り取ると傷口を確認する。
酷い。
腹が抉られ、血が溢れていた。
顔色も青い。
このままでは失血死は免れないだろう。
「消毒、癒せ!」
白い手《天使の手》の力を使い傷を塞ぐ。この力にも大分慣れてきた。
凄い勢いで傷が塞がる。
肉は再生し、最初から傷がなかったかのようだ。
顔色も呼吸も落ち着いてきた。もう大丈夫だろう。
「凄い、奇跡だ!」
「良かった、ザック!」
仲間達が彼を抱擁する。
「ありがとう、あんたは命の恩人だ」
「いえ、とんでもないです」
「お代は金貨六枚になります」
言葉が、空気を切り裂く。
私は一瞬、息を止めた。
――高い。
そう思った。
でも。
「ああ、命が助かったんだ。安いもんだ」
男は、迷いなく金を差し出す。
笑っていた。
――本気で、安いと思っている顔だった。
「まいど」
先輩が、いつも通り受け取る。
何も、おかしくない。
ここではこれが普通だ。
わかっている。
わかっているのに。
(……それでも)
胸の奥に、何かが残った。
「さ、テア。次の患者が待ってるわよ!」
「は、はい!」
先輩治癒師に促され、私は次の患者の手当てに向かった。
「ふぅ~、お疲れ様」
やって来る患者も落ち着き、皆が一息つく。
「それにしてもテアちゃんが来てくれてホント、大助かりだわ」
先輩治癒師が私を褒める。
「そうね。即完治特別快癒コースができたのは良かったわ」
院長が売り上げボックスを見て上機嫌に笑う。
その中には金貨がギッシリ詰まっていた。
大半は私が稼いだお金だ。
何もこんなに取らなくても、と思う。
「救える命が増えた。それはいいことよ」
私の視線に気づいたのか、院長の視線が私に向いた。
「……」
少し厳しい顔で皆を見渡す。
その後、また私に視線が戻った。
「このお金はその対価。命の重みよ。わかるわね?」
命の重み……。
その言葉を頭の中で反芻する。
「……はい」
否定できなかった。
確かに不満を漏らした人はいない。
「で、でもさ、救われた命が増えたのは本当だよ?」
取り繕うように先輩がフォローする。
「そうね、前は先着2人がせいぜいだったもんね」
「そりゃ上級回復魔法なんて普通は一日1回が限度だし」
先輩達が上機嫌に話す。
「……」
私は敢えて何も言わなかった。
そうなのだ。
私はそのことを知らず、初日で何人も重症者を治してしまった。
でも後悔はしてない。
そのせいで即完治特別快癒コースなるものが誕生してしまったが。
「では後は不寝番の方にお任せしましょう。皆さんお疲れ様でした」
院長がパンパンと手を叩き終業を報せる。
疲れてヘトヘトの私はふらつきながらも扉を開ける。
殺風景な石畳の部屋。
あるのは寝るためのゴザと薄い布。
それが私の寝床だ。
「疲れた……」
私は布に包まるとゴロン、と横になる。
ちょっと汗臭い。
「浄化」
神の手を使い汚れを落とす。
実に便利だ。
「休み……欲しいな……」
微睡みながらボヤく。
そして治癒院での1週間目を終えようとしていた。
「……起きて」
私を呼ぶ声。
肩を揺すられる。
眠い。
休みなんてないのに。
だからせめて睡眠だけはしっかり取らせて欲しいな……。
「テア!」
「きゃっ!」
乱暴に布をはぎ取られ、私は目を覚ます。
「も、もう朝ですか!?」
寝ぼけ眼で周りを見渡す。
窓からは月明かりが差し込んでいた。
「違うわ、急患よ!」
早口だ。
凄く焦っている?
「またですか……」
ちゃんと寝られた日あったっけ……?
「そう! 門番の人が大怪我をしているの。一刻を争うわ!」
先輩が早口でまくし立てる。
そして私の手を引いた。
「わかりました!」
手を引かれ、立ち上がる。
まだちょっとふらつく。
でも先輩の様子から見て本当に危険なのだろう。
「急ぐわよ!」
先輩に手を引かれたまま処置室へと向かう。
私の歩幅なんて関係ない。
ふらつく身体で転びそうになる。
疲れた身体に鞭打ち、私は必死に付いていった。
「さぁ急いで!」
案内された場所はいつもの処置場。
その片隅では患者らしき人と不寝番の先輩が治療に当たっていた。
「テア! いいところに」
不寝番の先輩が私を見て笑顔をこぼす。
「容態は!?」
「なんとか血は止まったわ。でも私の治癒魔法じゃこれが精一杯なの」
「大丈夫です!」
兵士の身体には爪痕がきっちり残っていた。
手当の包帯からは血が滲んでいる。
「癒せ!」
神の手を使い治す。
すぐに傷は塞がり、血が止まった。
兵士の呼吸も落ち着いている。
もう大丈夫だろう。
「ありがとう、ごめんねテアちゃん」
不寝番の先輩が両手を合わせる。
「いいんです。じゃ、私行きますね」
「ええ、後はやっておくわ。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい……」
私はふらふらになりながら部屋に戻った。
布に包まる。
「今日も大変な一日だった……」
微睡みながら呟く。
「でも、悪くないよね」
達成感に包まれたまま私は眠りに落ちたのだった。




