12 風の旅人 2
「俺たちはAランク冒険者パーティ《風の旅人》だ。俺がリーダーのカインで――」
親指で仲間を示す。
「魔導士のアルスターだ」
軽くマントを翻し、男が一礼する。
「アーネスよ」
折れた剣を手にしたまま、女が短く名乗った。
「……テアです。よろしくお願いします」
私は手の上に乗ったまま、頭を下げる。
「テアちゃんね。じゃあ街まで案内してあげるわ。ただ、その前に解体用の素材を回収しないと」
「丸ごと持っていけたら楽なんだがな」
――丸ごと。
ふと、思う。
私の“手”は、どこまで動くのだろう。
意識を向ける。
一本。
もう一本。
さらに――もう二本。
「……っ」
四本の腕が現れ、ツインアームベアの巨体を掴む。
そのまま、持ち上げた。
「浮いた!?」
「な、何が起きてる……?」
振り返る三人の視線が、私に集まる。
「……嬢ちゃんの仕業か?」
逃げ場がない。
「……はい」
小さく頷く。
一瞬の沈黙。
そして――
「すげぇな! これならそのまま運べるぞ!」
「大儲けね!」
空気が一変する。
警戒は消え、完全に“戦力”を見る目になった。
「そのまま街まで頼めるか?」
「ちゃんと礼はするわ」
「四等分でいいな」
勢いに押される。
「……はい」
思わずうなずく。
――私の取り分、少なくない?
そう思ったけれど、口には出せなかった。
* * *
石造りの街路。
行き交う人々のざわめき。
活気と匂いと、確かな“生活”。
「……あ」
思わず、声が漏れる。
ウォルノーツの街。
――ここから、始まる。
胸の奥が、少しだけ軽くなる。
レオン様に、近づいた気がした。
「よし、まずは解体場だ」
カインの声で、現実に引き戻される。
――ざわり。
視線が集まる。
「あれ、浮いてるぞ」
「魔導士の魔法か?」
ツインアームベアは、宙に浮いたままだ。
私は、地面を歩いている。
さすがに一緒に浮く勇気はなかった。
ざわめきの中、私たちは解体場へと向かった。
「……62万リルだな」
「おおっ!」
提示された額に、三人が声を上げる。
私は、少しだけ首を傾げた。
――多いのか、少ないのか、よくわからない。
「で、それも売るのか?」
解体師が、私の手元の魔石を見る。
「はい、お願いします」
私が差し出すと解体師は真剣な眼差しで凝視した。
「……ほぅ」
男の目が変わる。
「これは上物だ。かなり強い個体の魔石だな」
「……たまたま見つけました」
もちろん嘘だ。
本当のことを言えば、面倒になる。
「……まあいい。80万リルで買い取ろう」
「はちじゅう……!?」
アルスターが絶句する。
「ちょっと。これはこの子の分よ」
アーネスが即座に釘を刺した。
「それに、さっきの分配もあるでしょ」
「わかってるって……」
軽口を叩きつつも、空気は少しだけ引き締まる。
「さて、嬢ちゃんの取り分だが――」
「……いりません」
言葉を重ねられる前に、そう告げた。
三人が目を見開く。
「いや、それは――」
「いいんです」
言葉を遮る。
「その代わり、お願いがあります」
視線を上げる。
「生活基盤を作る手伝いを、してほしいんです」
沈黙。
数秒。
「……なるほどな」
カインが小さく笑う。
「いいだろう。全面的に協力する」
差し出された手。
迷わず、握る。
「それでも借りは返しきれないけどな」
その言葉に、私は首を横に振る。
「……十分です」
小さく、でも確かに答えた。
大きな手の温もりが、伝わってくる。
――ここから、始める。




