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救われないラスボスに転生したので運命を変えて幸せになります  作者: まにゅまにゅ
第2章 光に触れて

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11 風の旅人 1

「あった、これだ」


 印をつけた木の根元を掘り、魔石を取り出す。


 手のひらに乗せると、ずしりとした重みが伝わってきた。


「……でも、お肉はもう無理だね」


 ぽつりと呟く。


 ふと、視界の端に村の門が入った。

 壊された門。その向こう側を見ようと思えば、見える。


 けれど――視線を向けることができなかった。


「マエルさん……、ジル……」


 無意識に、名前がこぼれる。

 もう二度と会えない名前だ。

 あの家も、あの食卓も――全部、終わった。


 小さく頭を振る。


「……行こう」


 言い聞かせるように呟き、私は手に乗る。

 逃げるように、村から離れた。

 あぜ道を抜け、林道へ。

 そのまま真っ直ぐ進む。


 ――そのときだった。


 耳に入る金属音。

 重い衝撃音と、魔物の咆哮。


 誰かが戦っている。


 速度を落とし、低空で慎重に進む。

 木々の隙間から覗き込むと、三人の男女が魔物と対峙していた。


 熊……に見える。

 だが違う。

 前足は二本のはずなのに、その魔物は四本の腕を持っていた。


 四本の腕を自在に振るい、戦士風の男を追い詰めている。


 ――強い。


 少なくとも、私が関わる必要はない。

 高度を上げ、このまま通り過ぎればいい。

 そう判断して、手を浮かせる。


「カイン!」


 女性の叫び声。


 ――動きが止まった。


 もう一度、戦士の男を見る。

 肩当ては砕け、右腕から血が流れていた。

 あれでは、もう剣は振れない。


「……ダメ」


 口から言葉がこぼれる。

 手に命令を出そうとして――止まる。

 怖い。

 怖いのは、魔物じゃない。

 私じゃない、私。


「また……あんな風に、全部壊したら……」


 あのときの光景が、脳裏をよぎる。

 だから、足がすくむ。


「ああっ!」


 女性の悲鳴。

 剣が折れ、体が木へと叩きつけられた。

 ――このままだと、死ぬ。

 気づいたときには、もう命令していた。


「行け!」


 黒い手が、音もなく現れる。

 次の瞬間――

 女性を襲っていた魔物の頭を、横から殴り飛ばした。


「今だ! 雷撃(ライトニングボルト)!」


 魔術師の男が杖を振る。

 放たれた雷光が、魔物の全身を貫いた。

 バチィッ、と炸裂音。

 巨体が震え、やがて動かなくなる。


 沈黙。


 男は大きく息を吐いた。


「……助かった」


 その言葉を聞いて、私は小さく息をつく。


「……やっちゃった」


 少しだけ考える。

 でも、後悔はしていない。

 悪いことをしたわけじゃない。

 ――だから、大丈夫。

 意を決して、私は彼らに近づいた。


「あの……」


 手に乗ったまま、恐る恐る声をかける。


「う、浮いてる!?」

「な、なんでこんなところに子供が……」

「まさか……君が?」


 三人の視線が、一斉に集まる。

 魔術師の男が一歩前に出た。


「君は……何者だ?」


 問われる。

 けれど、答えられない。


「助けてくれたことには感謝する。だが……さっきのは何だ? ツインアームベアが、いきなり吹き飛んだ」


 静かな声だったが、警戒がにじんでいた。


「どう考えても普通じゃない。何をした?」

「……」


 やはり、視えていない。

 私の“手”は。


「……どうした? 何か事情があるのか?」


 問い詰める、というよりは探るような声音。


「やめなさい、アルスター」


 女性が間に入る。


「この子は私たちを助けてくれたのよ。それよりカインの腕よ。出血が酷いわ」


 言われて、私は男の腕を見る。

 肉が抉れ、血が止まっていない。

 このままでは危ない。


「あの……私、治せます」


 言葉にすると、三人の視線が再び集まる。


「……いいだろう。だが妙な真似はするな」


 警戒は解かれないまま、許可が下りた。

 私は頷き、手を伸ばす。


「癒せ」


 白い手が現れ、傷口に触れる。

 みるみるうちに血が止まり、裂けた肉が繋がっていく。

 やがて、傷は完全に消えた。


「……なっ」

「うそ……」

「これが……治癒魔法?」


 三人が言葉を失う。


「これで……大丈夫だと思います」


 そう言うと、空気がわずかに変わった。

 警戒が、驚きへと変わる。


「すごいな……。これだけの腕があれば――」


 男が呟く。


「ルーセル辺境伯領なら、間違いなく歓迎されるだろう」

「ええ。あそこは今、魔物との戦いが激しいもの」

「優秀な治癒師は、喉から手が出るほど欲しがっているはずだ」

「……あの人なら、なおさらな」


 ――ルーセル辺境伯領。

 レオン様のいる場所。


「あの……!」


 気づけば、身を乗り出していた。


「そこに行くには、どうすれば……?」


 三人が顔を見合わせる。

 そして、わずかに間を置いた。


「……悪いことは言わない。やめておけ」

「そうね。あなたみたいな子が、その力を持っていると知られたら……」

「利用されるか、売られるかだ」

「……っ」


 言葉が詰まる。

 正しい。

 きっと、その通りだ。


「君はまだ幼い。世の中のことも、よく知らないはずだ」


 アルスターが言う。


「助けてくれた礼だ。まずは生活基盤を作れ。話はそれからだ」

「治癒院なら人手不足よ。あなたなら、きっとやっていけるわ」


 三人が、道を示す。

 遠回りだ。

 でも――


「……はい。お願いします」


 私は頷いた。

 本当は、今すぐ会いに行きたい。

 それでも。

 ――遠回りでもいい。

 必ず、辿り着く。


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