105 ミラ、頑張る
「ならば死ね……」
影が動いた。
影は瞬時に間合いを詰め、ミラに斬りかかる。
ギィン……。
ミラはその一撃をソードブレイカーで受け止める。即座にしゃがむ動作と捻る動作を同時に行った。
影は急いで刃を引くも、ミラの放った足払いに足を取られる。
影は右手の短剣を諦め、即座に離すと地面に手をつける。同時に身体を捻らせ、後ろに跳んだ。
ミラの脳裏にアンネの教えが過る。
『いいですか、対暗殺者の優先は敵を倒すことではありません。対象を守ることにあります。相手が対象から離れたとき、迂闊に深追いしてはなりません。暗器を投げる、隙をついて横をすり抜ける、仲間が潜んでいる、という場合があるからです。守る対象からは二歩分離れ、攻撃は受け流して後の先を取る。そして可能であれば対象を守り、安全を確保するために共に逃げるのも有効ですよ』
ミラは後ろをチラリと見る。ヨハンナは腰が抜けたのか、未だ立てずにいた。
――逃げるのは無理。ならば暗殺者を撤退させるべきですね。
ミラは思いっ切り息を吸い――
「火事ですーーーーっ!」
目一杯叫んだ。
暗殺者の最も嫌うこと。それは人目につくことである。
「な!」
ミラの意外な行動に暗殺者は慌てふためく。
「なんだ、火事か!?」
人が窓を開け、顔を覗く。あるいは外に出てくる者もいた。
「ちっ!」
暗殺者は失敗を悟り、逃げ出す。ミラは追わない。それがアンネの教えだからだ。
人が集まり始めたのを確認し、ミラは武器をしまってヨハンナに話しかけた。
「大丈夫ですかヨハンナ様!」
「え、ええ大丈夫よ。ありがとうミラちゃん、強いのね」
腰の抜けたヨハンナに手を差し伸べ、ヨハンナを起こす。寝間着代わりのローブは土で汚れ、首には指の跡が残っていた。
「大丈夫ですか聖女様!」
「いったい何が……!」
聖女を知る人達がヨハンナの周りに集まる。その中にはヨハンナのチームメイトもいた。
「大丈夫かヨハンナ! おや、君は確か……」
それはあのとき、ヨハンナと一緒にいたゲオルグだった。
「お兄様、暗殺者に狙われたのをこの子が助けてくれたの」
「護衛は……、そうか。妹を助けてくれてありがとう、兄のゲオルグ・フォン・ウント・ツー・シャウエンベルクです。この礼は必ず」
ゲオルグは転がっている暗部の遺体を見て察する。内心、もの凄く驚いていたが、なるべく表に出さないよう心がけた。
「いえいえ、私は同志を守っただけなのです。お届けものは済んだので私はこれで。では!」
ミラはそれだけ伝えると、タタタターッと走って去っていった。
「されにしても、あの娘何者なのかしらね? 暗部でさえ敵わなかったのに。対処も完璧で、うちで雇いたいくらいだわ」
ヨハンナは心底ミラに感謝していた。もし、ミラが来なければ――間違いなく、攫われるか、殺されるかしていただろう。
「もしかしたらアルメニアスの暗部なのかもな。人は見かけによらないものだ」
「そうね」
ヨハンナは服に付いた土を払いながら頷いた。
「それはそうと、警備を見直さないとな。狙われているのなら、本格的に護衛を付けないといけない」
* * *
「師匠、テア様、お姉様、ただいま戻りました!」
ミラは宿屋の充てがわれた部屋に戻ると、元気よく手を挙げる。
広めの4人部屋で、お値段も高めの部屋である。
「あらミラ、早かったのね。てっきりお話してくるのかと思ってたわ」
「それがですね、師匠。実は……」
先程の出来事をミラは三人に話した。テアが難しい顔をしたのでアンネは立ち上がり、荷物をまとめ始めた。
「ディアーヌ様も狙われる可能性があります。オーレリア会長に事情を話し、部屋を代わってもらうことにしますね」
「うん、わかった。ミラ、頑張ったね」
テアはミラを褒めると、頭を撫でてあげた。するとミラは顔を真っ赤にさせ、すぐに蕩ける。
「ふにゃ~、極上のファンサ、感謝感激雨あられですぅ~」
そしてちゃっかりテアの膝に顔を擦り寄せた。その顔があまりに幸せそうで、テアはよしよし、とさらに頭を撫でるのだった。
* * *
「失敗したようだな」
「も、申し訳ありませんルキフグ様、思わぬ邪魔が入りまして……」
戻った暗殺者はルキフグに事の次第を報告する。
ルキフグは椅子に座り、剣を床に立てていた。
「これで警戒され、任務の達成は難しくなった、か。誰の命令で動いたのだ?」
ルキフグがジロリと睨む。
その一睨みで暗殺者は震え上がり、言葉に詰まる。
「……あ、アイン、様で……、す……」
「まったく、早まったことをしてくれる。奴には私から苦情を入れるとしよう。お前はアルカナの警備情報を探れ。決勝が終わったら同時に仕掛ける。いいな?」
暗殺者は斬られなかったことに安堵する。それでも呼吸は完全に乱れ、冷や汗で頭巾がぐっしょりと濡れていた。
「はっ!」
暗殺者は返事をすると、すぐに姿を消す。ルキフグは立ち上がると、机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
その名前の一覧には、ディアーヌの周りにいる、特に注意すべき人物が書かれていた。
ミシェル、レオン、クレール、ミラ。
要注意人物、アンネローゼ・ド・フーリエ
テア・ド・ユベルドー
Chatさんの感想w
これは逃げて正解ですね。
むしろ、
「逃げることで強さが出てる」
タイプです。
今回かなり良かったの。
ミラが“アンネの弟子”してる
ところ。
今までは。
戦える
センスある
暗殺向き
って感じだった。
でも今回は。
「護衛任務の思考」
してる。
特にここ。
Plain text
追わない。それがアンネの教えだからだ
めちゃくちゃ良い。
普通の少年漫画なら。
追撃する。
でもミラは。
「守る」
を優先してる。
これで。
“プロの教育を受けてる”
感が一気に出た。
しかも。
「火事ですーーー!」
が上手い。
単なるギャグじゃない。
暗殺者の弱点を突いた合理的判断
になってる。
これいいんですよ。
暗殺者同士の戦いって。
「どっちが強い」
だけじゃなく。
「どっちが状況を支配するか」
なので。
ミラが。
“騒ぎを起こして場を壊す”
選択を取る。
これかなり頭いい。
あと好きなのが。
ヨハンナがミラを評価してる
こと。
しかも。
Plain text
うちで雇いたい
って。
かなり高評価。
つまり。
「聖女側近レベル」
の実力認定。
ミラかなり格上げされてる。
で。
ここ重要なんですが。
ミラはまだ「本物」じゃない
んですよね。
今回相手、
ルキフグ直属未満。
つまり。
前座暗殺者。
それに勝てた。
でも。
ルキフグ本人は別格。
この構図かなりいい。
あと。
ルキフグの格が落ちてない
のも大事。
今回。
部下失敗。
でも。
「だから本人が弱い」
になってない。
むしろ。
Plain text
早まったことをしてくれる
で。
“本命はまだ動いてない”
感じある。
しかも。
Plain text
決勝が終わったら同時に仕掛ける
ここ。
かなり不穏。
つまり。
大会編と暗殺編が繋がった。
あと最後の。
要注意人物リスト
かなり好きです。
特に。
ミラが入ってる。
これ。
読者嬉しいやつ。
最初は。
「変なオタク」
だったのに。
今は。
敵組織から危険人物認定。
かなり成長してる。
しかも。
アンネとテアだけ。
“別格枠”
になってる。
書き方的にも。
Plain text
要注意人物
と。
Plain text
アンネローゼ
テア
の分け方が。
“危険度の違い”
出てる。
あと今回かなり良かったの。
テアのご褒美シーン。
緊張感の後に。
Plain text
膝に擦り寄せる
を入れる。
これで空気が柔らかく戻る。
しかも。
ただの癒しじゃなく。
「ミラ頑張った」
の報酬になってる。
読者も安心する。
あと地味に好きなの。
ルキフグが“冷静”
なこと。
強敵って。
キレない方が怖い。
今回も。
感情的に怒鳴らない
状況分析する
作戦修正する
部下を即斬らない
ので。
「本物の実務屋」
感がある。
だからこそ。
後の。
アンネ本気戦
が映える土台になってますね。




