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「まさか、こんなに早く生まれるなんて」


 叫び声で飛び起きさせてしまったシャルは、抱えられたひよこ?をみて大層驚いていた。


 「この子、グリフォンかしら?足がライオンのようだわ。でも、こんな毛色のグリフォンは見たことないわよ?」

 光を纏って輝く白い羽毛である。確かに、グリフォンといえば、茶色のイメージである。


 「何はともあれ孵化して良かったけど…。なんでこんなに早く生まれたんだろう?」

 「魔獣の孵化は必ず魔力が必要よ。魔力量が膨大にならないとこんなに早くは………、あ、もしかして」


 メイドのハンナさんを呼びつけると、手に乗せてきたのは昨日の紅茶である。

 そういえば、この紅茶は魔力を少しだけ補給できるとかって言ってたな?それでも、補給できる魔力は限られているはず。孵化に必要な量を賄ってくれるとは思わないが。


 「非常に考えにくいけど、これしか貴方の魔力に関係するものは考えられないんじゃないかしら?」

 「まぁ、確かに。その紅茶だけ、魔力の補給がものすごくできる品物だった………とか?」

 「考えられなくもありませんけど…」


 うーん、と2人唸る朝6時。

考えても仕方ない、と支度をして朝食を食べに行った。



⭐︎⭐︎



 食堂にて、朝食を受け取り席につく。

まだ早いのか、席を確保するのには苦労しなかった。



 「ねぇ、ナナホシ。その子の名前決めた?」

 「名前?」


 そう!とサンドイッチを食べるシャル。

名前か、考えていなかったなぁ。


 「シャルはなんてお名前にしたの?」

 「私の使い魔の名前はフロストにしたの!雪国に住む大型の熊だから、フロスト!可愛いでしょ?」


 シャルの使い魔はグレイシャルベアという、前世でいう白熊のでっかい版である。鋭い爪と、背中に氷柱が刺さったような突起が特徴だ。


 「それで?貴方はなんて名前をつけるのよ!」

 「うーーん」


 白くてふわふわなグリフォン……。そうだなぁ…。


 「アネモネ…とか?」

 「あら、お花の名前ね?綺麗じゃない」


 シャルにも太鼓判を押してもらったところで、私の使い魔はアネモネになった。



⭐︎⭐︎



 少し早めに寮を出て、ハワード先生の元へ急いだ。

使い魔が孵化したら教えるように、と半ば期待されていないように伝えられたことを思い出したために、こうして時間を作ったのだ。



 「失礼致します。1-2、ナナホシ・ウィルクスです。ハワード先生はいらっしゃいますか?」

 「おはようございます。ウィルクスさん。御用は何かしら?」

 中へ入ることを許され、応接間に通される。


 「実は………」


⭐︎



 落ち着いたところで、アネモネを召喚する。そして、事の次第を端的に説明すると、ハワード先生は動かなくなってしまった。


 「あの、ハワード先生…?」

 「貴方、この使い魔普通ではないわよ」

 「え?」


 がたりと、熟女らしからぬ所作で応接間を出ていくと、次は誰かを連れて戻って来られる。


 「あの、先生、こちらの方は?」

 「生物科の エドマンド・アリステア・ウィットモア先生です。この学園で1番モンスターなどの生態に詳しいのです」

 メガネをかけ、くたびれた様子の中年男性は人の良い笑みを浮かべて、手を差し出す。その手を取り、こちらも自己紹介をした。


 「初めまして、ご紹介に預かったエドマンドだ。よろしくね。早速だけど、ウィルクス君の使い魔を見せてくれる?」

 「あ、はい。どうぞ」


 来て早々、アネモネの観察を始める。アネモネは大人しくされるがままである。この子、賢いのかな。

 傍に抱えられた辞書を開き、アネモネと見比べていると、大きくため息をついて手をとめた。


 「ハワード先生、これは少しまずいかも」

 「え?どういうことです?」


 ばたりと重い表紙を閉じる。アネモネをゆっくりこちらに差し出し、受け取った。

 ウィットモア先生は、眉間を揉みながら私たちへ、アネモネがどういうものなのかを説明し始める。


 「この子は幼体で、不確定なことが多い…が、恐らく幻獣ジズの雛の可能性が高い」

 「幻……獣…?」

 「ウィットモア先生!そんな、冗談ではない済まされませんよ!」


 鋭い目つきで睨みつけるハワード先生に、動じない姿を見ると本当なのだろう。

 (アネモネが幻獣…?私が何でそんなに高位な存在を召喚できたの?)


 「僕も幻獣の雛なんて初めて見たよ…、大問題だ」


 2人とも頭を抱えてしまった。

この世界では、幻獣の扱いはどうなっているのか。未だに状況が飲み込めない私は問いかけた。


 「あの、具体的にはどう問題なのでしょうか」

 ハワード先生は重々しく口を開く。


 「ここで問題なのは、2つ。1つは、この従魔の力の制御、2つ、この問題を全てにおいて秘匿するかどうか」

 

 指を折りながら、説明を始める。


 「1つ目の事だが、この幻獣は成長するのかで対策が変わる。このままの幼体ならば、様子見で君に預けて良いだろう。だが、成長したならば、その強大な力を制御しなければ、国に狙われるのは君だよ」

 

 私を見つめる2人の目は、鋭く、事の重さを知る。

国を脅かすレベルのアネモネを私は躾けることができるだろうか。当の本人は、私の腕の中でスヤスヤ眠っている。


 「2つ目、幻獣の召喚は伝説レベルだ。手元にいる時点で、国に報告するべきだろう。だが、報告した時点で君は軍に引き込まれて、戦いに参加せざるを得なくなる」

 「この学園の授業では、従魔が必要です。皆の前で従魔を使う機会が必ず出てきます。3人の秘密にはできません」


 その言葉に、ウィットモア先生は大きくため息をついた。ハワード先生も、眉間に皺を寄せてしまっている。


 私も、この子を戦場に出すのには反対だ。その考えを貫くには、国に向かって嘘をつかなくてはならない。先生たちも巻き込んで、だ。


 (この子が幻獣だとわからない方法……なにか、なにか、あ!)


 「先生!いっその事、気づきませんでしたでしばらく通せませんか?」

 「え?どういうことだい?」


 いきなりの提案に、目を白黒させるウィットモア先生。ハワード先生も、どういう事かと首を傾げている。


 「力を制御できるように躾をするのです。そうすれば、強大な力を使わず、授業にも出られます。そして、万が一成長した後ですが、そこら辺のモンスターの亜種だと押し切りましょう」

 「そ、そんな無茶苦茶な!」

 「無茶でも!やらなければ狙われます」


 強く押せば、先生たちも黙り込んだ。幻獣の躾なんて、やったことも聞いたこともないだろう。完全手探り、それでも、主従の契約を結んでいるため、危険はないはず。やらなければ、やられる!

 絶対に引かない姿勢を貫く私に、先生たちは折れてくれたようだ。


 「仕方、ありませんね」

 「僕もできる限り手伝うから、一緒に頑張ろうか」

 「あ、ありがとうございます!」



 この話は、皆で秘匿する方向にまとまり、幕を閉じたのだった。






⭐︎⭐︎



 ウィットモア先生から、学園の敷地内に使っていない研究室と、広い裏庭があると教えてもらった。そこでなら、アネモネの躾がひっそりできるだろうとのことだった。


 放課後、件の施設の敷地内に足を踏み入れる。

 先生より手渡された鍵は、細かい造形が施された古めかしいものだった。蔦が生い茂る、研究室の扉には重厚な南京錠が掛けられており、鍵を刺すとピッタリと嵌ったようで解錠の音がした。



 扉を押し開けると、その衝撃だけで埃が舞い、思わず咽せ込んでしまった。


 (カビ臭いっ!!それに、暗くて何も見えないや…)

 

 まだ放課後というのに、建物に植物が絡まっているからか、中は薄暗い。

 魔法がまだ十分に扱えない私に、先生はランタンを貸してくれた。中央には光の魔法石が埋め込まれており、触ると小さな灯りが浮かび上がる。

 その灯りは、大きさとは裏腹に施設全体を見通せるほどの照明器具となった。


 (便利だな、流石魔法の世界…)



 ランプを照らしながら、この研究室の地図を取り出す。

この研究室は2階建、1フロワ4部屋ある。2階にはベランダや、仮眠室、小さなキッチンも設置されている。

 ここに住めてしまうな…、と思いながら簡単に見て回ると、どこも荒れ放題。住むには何ヶ月かかるやら。

 

 研究室という割には、やはり物置としての役割が大きいようだ。机や椅子が積まれていたり、動物の剥製やフラスコといった実験器具が押し込められている。このガラクタの山を片すには骨が折れそうだ。


 そう思いながら見ていくと、右手の甲が光出し、中からアネモネが飛び出した。


 『ぴぃ!』

 「どうしたの?あ、こら!」


 元気に鳴いたかと思うと、角部屋の教室に入っていく。その部屋は確か、剥製や薬品といった物が詰め込まれていた場所だ。

 アネモネは、古びた木箱に近寄ると、思いっきり嘴で突っついた。木箱は無惨に壊れてしまった。


 「あっ!!勝手に壊したらダメでしょ!」

 動きを止めようと、手で捕まえる。

弁償しなきゃ、と顔を青ざめて木片に成り果てたそれを見ると、木材に紛れて紫色に光るものがあった。


 『ぴ、ぴぴ!』

 「これが気になるの?」

 「ぴぃ!」


 アネモネは、その紫の物を早く取れと言わんばかりに暴れている。手に取ってみると、小さな石だった。


 「宝石みたいに綺麗だね」

 

 その石を欲しがっていたアネモネにやると、口に咥え走り出したではないか。そして、近くの窓を蹴り破り、裏庭へ出た。


 追いかけた途端、突風が巻き上がる。目も開けていられないほどの強さに、何とか体に力を入れて持ち堪える。

 

 (あ、アネモネは!どこ⁈)

 先ほどの突風に連れ去られてしまったのでは、と急いで窓に近寄る。


 「アネモネ!アネモネ!何処⁈……え、なに、あれ…」


 目の前に、白い毛が一面を埋め尽くしている。さっきまで、緑が生えていたはず。恐る恐る見上げると、そこにはライオンの獅子に鷲のような分厚い翼の生えた何かがいた。


 『きゅーん』


 私の目線に合わせるように、顔を落としてくる。その瞳は私が手を広げた位に大きかった。


 「も、もしかして……アネモネ?」

 『きゅんきゅーん!』


 体格に似合わない、可愛い声で肯定の意思を伝えてくる。


 成長………早くないっすか?



 頭が考えることを辞めたように、その光景を呆然としか見られなかった。

 大きな鳥頭は、撫でろと言わんばかりに体に擦り寄ってくる。仕方がないので撫でてやる。


 (躾………できるのかな)


 取り敢えず、先生を呼ぶか……。


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