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気づけば、寮に戻っていた。
暗い部屋で1人、枕元にある2つの卵を見つめる。
(先生にも呆れられちゃったな)
召喚で卵が出たのは、学園始まって以来前例がないとのこと。当たり前だ、召喚は本来魔獣を召喚するんだから。
クラスメイトの視線は、嘲笑、呆れ、興味。ホームルームが終わった途端、走って戻ってきてしまった。
本来2人一部屋なのだが、相方は明日にやってくるそうだ。今の心理状況で、クラスメイトと2人きりになるのはごめん被りたい。
(しかしこれ、なんの卵だろう)
二つを抱えてみると、ほのかに温かい。ちゃんと、生きているみたい。もしかして、孵化できるのだろうか?
前世はペットを飼っていたが、犬や猫が中心で、爬虫類や鳥、魚はせいぜい小学生の時にしか育てたことはない。だが、元々保護された動物を引き取るくらいには、生き物は好きだ。本を読んだり、先生に聞きながら育てていこうと思う。
(とりあえず、卵なのだから温めれば良いのよね)
図書館に行こうにも、もう閉館時間を過ぎているため今日は無理だ。大雑把な知識で、卵をタオルで丸めていく。布団も掛けて、抱きしめてやるとカイロみたいで温かい。
「早く、出てきてね。待ってるから」
⭐︎⭐︎
今日から本格的に学園生活が始まる。
授業内容は、1番最初のためかオリエンテーションが主で、各教科の先生の紹介や施設案内、在校生との顔合わせといったところだ。
制服に身を包み、教室に向かう足取りはとても重い。昨日の皆の態度、私は歓迎されていないことくらいわかっている。
残酷にも、すぐに教室前に着いてしまった。震える手でドアを引けば、一斉に注目が集まる。先ほどまで賑やかだった様子は打って変わり、気まずい空気となる。
【来たわよ、卵の魔術師】
【卵の魔術師、とか笑わせるなよ!】
【ただの落ちこぼれ、だろ?】
けらけらと笑う声を一身に受けながら、1番後ろの端っこに鞄を置いた。顔を上げる気にもならず、手の甲の魔法陣を撫でる。いつでも、相棒を呼び出せる魔法陣。私のものは、ただの絵だなぁと摩った。
⭐︎⭐︎
あっという間に放課後となった。逃げ込んだ先は図書館だ。
司書に動物の生育に関する本を探してもらい、何冊か借りてきた。隅の机に向かい、分厚い本を捲る。
「なになに?魔獣の卵は、魔力を吸うことで成長し孵化する。自分の魔力を餌にすれば、召喚獣は扱いやすく、魔法が馴染みやすい。…、つまりめちゃくちゃ懐くというわけかな」
孵化は与える魔力量によって、早めたり遅めたりできるそうだ。沢山あげればすぐに生まれてくるらしい。
(私の魔力だと……いつ産まれるやら)
今日のオリエンテーションで見た、同級生の実力。簡単に火の槍を降らせたり、水を飛ばしたりできているのを見ると自分との実力差を思い知らされた。
孵化は絶望的なのかも…冷や冷やしながらページを巡っていくと更に目を引く項目が。
「魔獣の強さは、その魔力の質で決まる…」
正直、質の良さというものは、何を良しとしているのか、見当がつかない。自分の魔力の質も調べる術が今のところ無し。
(調べる方法があるのかな、分からないことが多すぎる)
庶民のナナホシは、学校には行っていたがその内容は算数国語、といった簡単なもの。本格的な魔法についての知識は学んでいない。
(授業に追いつけない可能性も出てきたな…)
孵化の他に、自主勉強もタスクに追加された。寝る暇、無いかも。
卵は抱えていれば魔力供給が可能らしいので、とにかく隙あらば抱きしめよう。
今日はここまで。借りた本をなんとか持ち上げて、部屋まで運んだ。
ガチャ
「着いた、重い…」
どすん、と床に置くと、うわぁ!!と素っ頓狂な声が聞こえた。慌てて前を向くと、驚いて固まる女の子と目が合う。
「だ、誰⁈」
「ひどい!貴方のルームメイトよ!」
「ルーム、メイト…?あっ!!」
そうだ、今日から一緒に誰かと生活するのを忘れていた。ルームメイトは、同じクラスのものと組むことが決まっている。つまり、私のことをよく思っていない可能性がある。一歩引いて警戒体制をとると、女の子は両手を上げた。
「あ、待って!私、別に貴方のこと馬鹿にしていないわ。私の名前は、「お嬢様、おやめください」、ハンナ、何よ」
ぬっ、と横から出てきたメイドが、女の子を止める。というか、何処からメイドが出てきた⁈存在に気づかなかった…。
「お嬢様。無闇に名を名乗りませんよう。おい、お前、先に名乗りなさい。お貴族様の手前です」
メガネの奥の鋭い眼光がこちらを睨む。その態度に少し腹が立つが、確かに。この国は貴族社会だ。ここは指示に従おう。
「失礼、いたしました。ナナホシ・ウィルクスと申します。本日よりご一緒に生活させていただくことになりました。何卒よろしくお願い申し上げます」
足を一歩引いて、ぎこちなくカーテシーをする。こういう行儀作法も学んでおいた方が良さそうだ。前世の知識が役に立って何より。
私が名乗ると、女の子も前に出て、洗練された仕草でカーテシーを返す。
「シャルロット・アンナ・モンフォートよ。メイドが失礼な態度をしたわ、ごめんなさい。私、貴方と友達になりたいの」
琥珀色の瞳を伏せるシャルロット様の表情は、嘘を言っているとは思えなかった。
庶民であり、落ちこぼれの私と友達に?貴族の気まぐれだろうか。その考えとは裏腹に、シャルロット様は私に手を差し伸べた。
「ありがたきお言葉。よろしくお願いします、シャルロット様」
差し出された手を握る。学校に来て初めての友達…?ができた。内心嬉しい私とは違って、シャルロット様は、眉を下げて言った。
「ナナホシ、これからルームメイトになるんだもの。シャルと呼んで?敬語もいらないわ」
「シャル…様?」
「様もいい。私もナナホシって呼ぶからさ」
貴族を愛称で呼ぶなど、本人が良くても遠慮したい。現に隣のメイドは真っ青では無いか。呼びあぐねていると、またもや手を取られ、ぐっと顔を近づけてきた。
「お願いよ!友達なんだから!」
お願いお願いー!と可愛らしくおねだりされては、折れないこちらが悪者だ。腹を決めて、渋々頷いた。
「…よろしくね、シャル」
「よろしく!ナナホシ!」
⭐︎⭐︎
夕食後、部屋では静かにお茶会が開かれた。華やかな茶葉の香りの紅茶と、カラフルなマカロンがテーブルを彩る。
「この紅茶とても美味しい」
「でしょ!私の領地で取れた花をブレンドしているの。エルファーという花で、とても希少なのよ?」
味はほのかに甘味が感じられ、スッキリ飲みやすい。食後にぴったりだ。
(お茶会に誘われた時は、作法を知らないから慌てて断ってしまったけど、シャルが明るい子で助かったわ)
目の前の彼女は、マカロンを口に運ぶ私をなぜか微笑ましそうに見つめてくる。私は恥ずかしさから話題を振った。
「エルファー、ってどういうお花なの?」
「エルファーは、白くて小さな花がたくさん集まって咲く巨木なの。管理が大変で、少しでも飼育を間違えると花が咲かないのよ」
やれやれ、とピンクのマカロンを頬張る。釣られて私も黄色のマカロンを頂いた。
「だけどね、咲くと甘い香りが広がってそれは幻想的なの。あと、エルファーの花は、魔力を少しだけ補給してくれる役割もあるのよ」
「魔力の補給…?」
口元に手を当てて、そう小声で話す。
やはり魔法の世界だな。こんな紅茶一つも回復薬になるなんて。ほぉ、と感心して聞いていると、シャルも満足そうだ。
「だからこの紅茶は貴重なのよ。貴族だって、そう簡単には手に入らないんだから」
「そんなに高価なもの、私が頂いていいの?」
「当たり前よ!こうして、友達とお茶会を開くために持ってきたものなんだから!」
花が咲くようにそう笑う彼女が眩しい。この子の素直で優しい部分に、メイドのハンナさんは冷や冷やしているんだろうな。
「ありがとう、シャル。私も今度お礼をさせて?」
「本当!嬉しいわ、楽しみにしてる!」
庶民の私があげられる物なんて限られている。そんな事は承知の上で、そう言ってくれる彼女に頭が上がらない。
一つ、マカロンを放る。チョコ味だ。
「ところで、卵、あれからどうなの?」
シャルがお茶会を開いたのは、1番聴きたかったのであろうこのためだろうか。隠すつもりは無いので、魔法陣から2つ卵を取り出した。
「まだ、こんな状態なの。孵化について調べたら、魔力が必要だって書いてあったの。だから、暇を見つけて抱いているんだけど…」
シャルが顎に手を当て考え始める。そして、申し訳なさそうに口を開いた。
「あの、とても失礼なことを言うようだけど」
「いいよ」
「貴方の魔力量は、そんなに多く無いわよね?むしろ少ないと言うか」
「え?わかるの?」
なんとなく、と目線を下げて言う彼女。
曰く、魔法の勉強をしていると相手の魔力量がオーラでわかるようだ。そして、そのオーラの色は相手の属性の色。火属性の魔法使いなら赤、といったように。
それならこちらも聴きたいことがある。質のことだ。
「シャルは魔力の質って、見えるの?」
その問いにシャルは首を振った。
「魔力の質は、私だけではなくてほとんどの人が見えないわ。魔力の質の確認方法は、使った魔法の威力や性質を見てなんとなく判断する物なの」
ぽかんとして、話に若干ついて行けてない私にシャルは一つ笑って砕いて説明してくれる。
「魔力の質っていうのは、例えば1の魔力量で、10の威力が手に入るような物。質が悪ければ1の魔力量で0.5の威力とか。質が良ければ良いほど、燃費が良くなるのよ」
「な、なるほど!」
「でも、それも正直判断が難しい。正確に1の魔力量で1の威力と測る道具は普及していないわ。まぁ、ここの学園にはあるはあると思うけど」
一呼吸おいて、紅茶を含む。
話はわかった。が、そもそも私の魔力量どのくらいなんだろうか。放課後、最初の授業で教えてもらった光の魔法を唱えてみたけど、蛍の光レベルですぐ消えた。……測る前から結果は見えている。これはマジで少ないやつだ。
シャルについでに魔力量も聞いてみると、じっと、見つめてくる。
「貴方の魔力量は、そうね5とかかしら」
「5?10点中?」
「…………100点中ね」
雷が全身を駆け抜けたような衝撃が走る。そんな虫ケラだったとは!!
卵が孵るの、10年後とかじゃ無いの⁈割と本気で!
「た、卵…」
「そうね、何十年、下手したら一生かかっても生まれないかも」
私、この子達に会えないで死ぬの⁈卵を抱きしめて、嫌々と首を振ると、シャルがでも!と口を挟む。
「孵化させる手段はある!孵卵器を使えば、孵るんじゃ無いかしら」
「孵卵器?あるの?」
「かなり、高価だけどね」
がっくし。私に買えるわけない。シャルも、こればかりはどうしようもできないと残念そうに卵を見つめている。
仕方がない。もう少し、様子をみよう。今日のお茶会は、色々なことを聞けて助かった。
「今日はありがとう、シャル。いろいろ教えてくれて助かったよ」
「そんな大層なことはしてないわ。私も出来る限り手伝うから、なんでも言って?」
上品に笑みを湛える友達。この子と友達になれて良かった、と心から思うのだった。
⭐︎⭐︎
グサ、
「あいてっ、痛い…」
グサ、ツンツン、
「な、なに……??ん?ふわふわ、なんだ、ん?なんだこれ、なんだこれ⁈」
光が差し込んで目を刺す中、慌てて重たい瞼をこじ開ける。枕元をみると、白いふわふわのデカめのひよこがこちらを見つめている。
え?もしかして……、慌ててベッドの中を見ると、大きな卵の一つが割れていた。
「え、えぇええええ⁈⁈⁈」




