第69話
戦後処理①
◇聖王歴1339年風ノ月38ノ日
戦いは終わった。奇しくもそれは、同じようなタイミングでの話。この場所で起きていた戦いも、つい先程に終わりを迎えた。
崩れ落ちた家屋の並ぶ大通り。その瓦礫を前に居たのは、この北方の側に付いた者達。誰も彼もが立ち上がることも出来ずに、疲労の色も隠せずに居る。
「ね、皆。生きてる?」
「あ、ああ、何とか、な」
中でも一番手傷の少ない、栗毛の猫娘。ミュシャ・ルシャは瓦礫の上で仰向けに倒れたまま、力なく皆に声を掛ける。
そんなミュシャの言葉に最も早く反応したのは、同じく傷の少ない金髪碧眼の少女。アンジュ・イベールは建物の壁に背を預け、座り込んだまま言葉を返した。
「おじさんも、生きてはいるよ~。もう、意識保つのも辛いけど」
「私や姉さんも無事です。恐らくは彼が不殺に拘ったから、どうにか拾えた命でしょうけど」
続く声音は雷の師弟。通りの中央付近で俯せに倒れたまま、手だけを振っているクリス。そんな師を支えようとして叶わず、そのまま寄り添っているのはシャルロット。
どちらも少女達よりは傷が重く、疲弊と疲労の色も濃い。だが、後遺症や致命傷となるような類の傷はなかった。単純に体力の限界。暫し休めば、動くことも出来るようになるだろう。
返事がない残る二人も、少し離れた場所で壁に背を預けて如何にか立っている状態。傷は決して軽くはないが、命に係わるようなものでもない。
そんな彼らの間には、どんよりとした空気が漂う。明るく勝利を祝うような色ではないそれは、明白なまでに戦いの結果を示している。そう、彼らは敗北したのである。
「……侮っていた心算はないが、まさかこの布陣を突破されるとはな」
「ちっ」
震える指先で懐から煙草を取り出して、口に咥えて吸うオードレ。紫煙を燻らせ呟く女は、敵ながら見事と相手を称えて目を伏せる。
対して舌打ちをしたカルヴィンは、対面の壁に手を付けるとそのままゆっくりと歩き出す。這うような速度で進む背中に、オードレは冷たく声を掛けた。
「どこに行く、カルヴィン」
「決まってんだろ、追い掛けるんだよ」
敗北をあっさりと認め、見事と敵を称える女。敗北を認めた上で雪辱を果たす為、死ぬまで足掻き続ける男。果たしてどちらが、戦う者としては相応しい姿勢か。
オードレの思考は騎士の思考だ。戦場を晴れの舞台と捉え、正々堂々と勝利を望む。それが女の在り様である。
カルヴィンの思考は軍人の思考だ。戦場を目的達成の為の場として捉え、如何なる術を以ってしてでも結果を求める。それが男の在り様である。
「その様で、か。黒星を増やすだけに終わるぞ」
「だとしても、寝てる訳にもいかねぇだろうが」
そのどちらが正しいかなど、一概には言えまい。時と場合によって、正当解は変わってくる。
決して負けられない戦場ではカルヴィンの思考の方が正しいし、多くの耳目が集う檜舞台ならばオードレの方が正しいだろう。
この場においては、果たしてどちらか。その答えを出したのは、結果を予想していた少女である。
「ううん。もう大丈夫」
「あ?」
「予想以下の結果だけど、最低限だけは満たせたみたい。気付いているんでしょ? あの圧力が無くなっている。戦いは、もう終わったのよ」
ミュシャ・ルシャの言葉を耳にして、カルヴィン・ベルタンは暫し黙り込む。重症故に気付かなかったが、確かに言われてみればその通り。気が狂いそうな程の圧力が、気付けば失われていたのである。
「詳細は分からないけれど、予想は出来てた。多分、時間切れ。リアムはもう、間に合わないわ」
ミュシャは師である吸血鬼の言葉と、先に炎王と相対した時に視た光景から、彼の寿命がもう残り少ないことを察していた。ヒビキの勝機があるとすれば、その一点だとも。
そして今、あれ程に感じていた王の気配を感じない。となればその唯一の勝機を、彼は掴み取ったのだ。そう、ミュシャは判断したのである。
「…………」
その言葉の意味を僅か思考した後に限界を迎えたのか、カルヴィンはその場で大の字になって寝転ぶと、あっさりと意識を手放した。
命に別状がないのは、近付かずともに分かる。何せ男はすぐさまに煩い程の鼾を立て始めたのだから。
「ちっ、寝るなら場所を考えろと言うのだ。勘違いするだろうに、馬鹿者めが」
鼾を立てて眠り始めた大男の姿に、近くに居たオードレは迷惑そうに眉を顰める。
仲間が急に意識を失くしたことに動揺する癖に、口ではそう嘯いてしまう。鼾が煩いならば移動すれば良かろうに、問えばきっとそれでは負けた気がするからとでも返すのだろう。この女も中々に、面倒な性格である。
「戦いが、終わった。炎王の気配もない。なら、ヒビキが勝ったのか?」
「……どう、かな。時間切れを勝ちと、あの子が胸を張って言えるのなら」
そんな二人組から視線を逸らして、アンジュ・イベールが問い掛ける。ミュシャの事を信じていない訳ではないが、其処には確かな疑念があった。あの王様は、倒せるような者なのかと。
問い掛けに首を振ってから、曖昧な言葉で返すミュシャ。炎王が倒れたと言うのならば、その結末は時間切れ以外にない。ミュシャはそう確信している。
ならば王に勝ちたいと願った少年にとって、その結末は嬉しいと思えるものなのかと。問えば答えは否であろう。あの幼い子どもが、そんな勝利を喜ぶ筈がない。
「どういう意味よ。生きてるのよね、ヒビキ」
「それは多分、大丈夫。炎王がヒビキを殺したことは、一度もないの。過去の繰り返しの中で、唯の一度もね。何時だって人に戻されるか、心に戦いへの恐怖を刻み付けられて負けを認める。それ以外の、過去はなかった」
天空王の瞳で彼の王を視た時に、ミュシャが理解した事実はそれだ。彼の王からヒビキを救う手段を探して、出た答えは救う必要なんてないと言う物だったのだ。
「私たちが必死に粘れば、ヒビキとの戦いで炎王は時間切れを迎える。時間切れを迎えた時、あの人は何らかの方法で自決する。それは予想出来ていた」
師より聞いた情報から、既に炎王と言う男の限界が近いことは分かっていた。それでいて過去に暴走したことがないと言うのなら、何らかの安全装置が一つはある。
恐らくは気が狂い果てる直前、自害を自動で行う仕組み。それが炎王と言う男の内にはあって、ならばそれが発現するまで時間を稼げばそれで勝てると分かっていたのだ。
「だから、あの子は生きてるわ。あの子が勝ったのよ」
戦いが終わったその場所へ、リアムが向かったことへの不安はない。短い付き合いではあるが、どういう奴かはもう分かっている。
如何に主君の仇であれ、疲弊した所に襲い掛かって来るような男ではない。討つべき仇がヒビキであると言う点にも、リアムは迷い戸惑う筈だ。
ならば悪竜王でもあるヒビキが、リアムに討たれることはない。少なくとも、今のこの場においては。そう、ミュシャは確信していた訳である。
「だけど多分――これはあの子が望んでいた結末ではないんだとも思うの」
同時に少しだけ、悲しくも思う。それはヒビキと言う少年が、純粋な憧れで炎王に挑むのだろうと察していたから。
だから、その憧れが消える瞬間を彼は見せ付けられることになる。それも己自身の行いの所為で。そうと思えば、悲しくならない訳もなかった。
(……それを良しとした私には、多分何も言えることはないんだろうけどね)
あの牢から出る瞬間には、多分その結末が分かっていた。それでいてミュシャは、それを止めようとはしなかった。
それこそ今だって、リアムの道を阻まず行かせても良かったのだ。炎王は勝ってもヒビキを殺さない。その可能性の方が高いのだから。
けれど、万が一は起こり得る。リアムを進ませた結果、ヒビキが死ぬような可能性が生じれば目も当てられない。だから、確実に彼を生かす為の道。炎王の時間切れによる死を望んだ。
それ以外の未来を事前に塞いだのだ。そんなミュシャにも、思う所は当然ある。それでも少女は後悔しない。それがきっと、選ぶ行為の責任だから。
「……そっか、何となく、分かる気がする」
ミュシャの言葉を聞いて、アンジュは静かに想いを馳せる。白百合の少女には、猫人の彼女のような都合の良い瞳などない。彼女程に先を考えられる頭脳もない。けれど、そんな少女にも分かることはあった。
最後に会った時、龍宮響希と言う少年は炎王に憧れを抱いていた。ヒビキも同じ想いを抱いて偉大な王に挑んだと言うのなら、時間切れでの勝利など望む結果ではなかっただろうと。
「ヒビキは、泣いてるのかな?」
「かも、ね」
ある意味で言えば、自業自得。善因善果悪因悪果。悪徳を自ら望んで為したのならば、最悪の結果が付いて回る。無情な話ではあるが、それも仕方のないことなのだろう。
「だとしたら、慰めてあげたい所だけど」
「体が動いても、アンタにそれはさせないわ」
「……何でよ」
「そういうのは、お姉さんの役目。弟君に、恋愛はまだ早いのにゃん」
それでも惚れた男が悲しんでいるのだからと、寄り添いたいと願うのがアンジュと言う少女。されど立ち上がるだけの体力が残っていないから、望んではいても動けない。
冗談混じりに言葉を返すミュシャではあるが、もしも体が動いていれば彼女はアンジュを抑え付けていたであろう。瞳の異能で視ずとも分かる。この白百合は放置すれば、行く所まで行く卑しい女だと。
「それに、多分だけどね。その役目は、私たちがやる必要はないとも思うの。適任はもっと、他に居る」
「それも、ウジャトの力?」
「ううん。これは――どこか似た所のある相手への信頼、って所かな」
それに、ミュシャには分かっていたのである。今のヒビキに必要なのは、彼を想う少女らの励ましではないと。
例えそれが、傷を焼いて塞ぐような荒療治であるのだとしても。或いは腐らせてしまいかねない少女らよりも、あの男の方が相応しいだろう。
ミュシャは僅かな信頼とそれ以上の嫉妬を胸に、小さく言葉を呟き瞳を閉じる。それが最適解と分かっていても、やっぱり納得だけは出来そうになかった。
◇
季節はまだ春先。北の大地は日が昇り切ったとしても、吹き抜ける風には暖かさと言うものがない。
寒空の下で、潮風を感じて佇んでいる。炎王が消えてから、既に数分は経過している。それでもヒビキは、動き出すことが出来ずに居た。
「僕は……」
銀色の髪が風に流れる。握った拳は力なく垂れ下がり、浮かんだ表情は雨に濡れた子犬のように情けない。
勝者と呼ぶには、余りに無様が過ぎる姿。それを青空の下に晒した少年は、複雑な感情を胸の中に募らせていた。
憧れたから、目指したいと想った。その事実に、後悔はしていない。だけど、こんな結末なんて望んではいなかった。
目指す頂きを知りたくて、戦いを挑んだ。その行為に、後悔なんてしていない。だけど、こんな結末なんて欲しくはなかった。
戦いの中で諦めるなんて、そんな真似は出来なかった。その決断に、後悔なんてある訳ない。だけど、何でこうなってしまうのか。
「…………」
悪を為すと決めた時点で、悪しか為せなくなると言うのか。悪事と分かって為したから、これこそが受けるべき罰だと言うのか。
分からないけれど、だとすれば世は何と無情であるのか。そう思ってしまう事自体が他責思考に等しい逃避と分かって、自分で自分が情けなくなる。
もう逃げないと決めたのだろうと、自分に言い聞かせて向き合おうとする。けれど直ぐには出来ない事実を前に、ヒビキは何とも言えなくなった。
「リアム」
「……はっ、なんつー面、してやがんだ」
気付けば背後に、人の気配。振り返ることもなく、ヒビキは気配の主の名を呼ぶ。顔を見ずとも、声を聞かずとも、間違っているとは思わなかった。
そんな少年の言葉に数秒、沈黙を挟んでからリアムは応える。絞り出したような声が震えていたのは最初だけで、続く言葉は力強い色へと戻っている。
「テメェは後悔してんのか? ここまでする気じゃなかった、とか泣き言を今更にほざく気か?」
「――っ」
後悔しているのかと、突き付けられて言葉に悩む。選択には後悔していない。過程には後悔していない。けれど結果には、後悔していないだなんて言えやしない。
ここまでする気じゃなかったと、その言葉こそが真理を突いている。ヒビキの胸中は正しくそれだ。ここまで、する気はなかったのだ。だから少年は、思わずその場で俯いてしまう。
俯いて動けぬヒビキの耳に、砂を踏む足音が聞こえる。少しずつ近付くそれは、ヒビキの直ぐ傍で止まる。そしてリアムは、その手を伸ばした。
ヒビキの肩を掴んで、振り向かせる。そしてあの牢獄での一幕のように、首元を掴むと持ち上げた。捻り上げて強引に、顔と顔とを近付け告げる。
「ふざけんな! 陛下を舐めんのも大概にしろっ!」
「――っ!」
そこで漸く、ヒビキは今のリアムを見た。全身の至る所に浅くはない傷を刻まれ、立っていることすら難しいであろう程に疲弊し切ったその姿。敗者の誰よりも、勝者の彼こそが傷付いている。
それでも彼は忠誠心が故に、絶望的な戦場を不殺を貫いたままに打ち破った。そして彼は誇りを胸に、こうしてこの場所まで辿り着いてみせたのだ。
「あの方は、最後にテメェを認めた! なら、そうだ! テメェは陛下に勝ったんだよっ!」
リアム・ファミーユは語る。必死になって戦い抜いて、それでも間に合わなかった男が語る。
到着したのは、王が消え去るその直前。聞こえていたのは、彼が最期に残した言葉だけ。そんな男は強く語る。心酔していた偉大な王に、打ち勝ってみせた少年へ。
そうとも、彼は勝ったのだ。例えそれが時間切れと言う形であったのだとしても、それでも炎王は死んでヒビキは生きている。ならば彼の勝利であろうと。
「なら、テメェは胸を張れ! なら、テメェは前を向け! じゃねぇと、陛下が道化になるだろうがっ!」
言われて視線を逸らした少年に苛立ち、そのまま投げ捨てるように放り出す。砂浜に倒れ込んだヒビキを見下ろして、リアムは怒りと侮蔑を込めた言葉を投げた。
「それとも何か? 後悔してんのかよっ! 挑まなければ良かったとっ! 目指さなければ良かったとっ!!」
「違うっっっ!!」
俯いていた少年は、しかしその言葉には反発する。結果には確かに、後悔している。だが起点にも過程にも、後悔なんて一つもなかったのだから。
「僕は、強くなりたいと思った!」
そうとも、それを否定してはいけない。それを否定させはしない。だってそれは、龍宮響希の否定となる。
唯、邪神に狙われたから。それだけで悪竜王の卵に変えられて、もうどう死ぬかしか選べなくて、だけど炎王に救われて――それでも自分の意志で、終わることを選んだ彼の否定となる。
「あの人が、一番強いって思った!」
そうとも、結果が間違っていたのだとしても、起点はきっと間違ってなんていなかったのだ。だから、誰に何と言われても、それだけは絶対に譲らない。
憧れることが出来た。強くなりたいと思えた。変わろうと、思うことが出来たのだ。だから死に行く彼は、産まれて来る彼を祝福出来た。望んで、産まれることが出来たのだ。
それをどうして、否定出来るか。その否定をどうして、許容出来るか。出来やしない。出来て良い訳がない。だからヒビキは、漸くにその顔を上げていた。
「だから、あの人に勝ちたいって! そこに嘘も後悔も、何一つとしてあって堪るかっ!!」
「ならっ! 胸を張れっ! テメェがそこで俯いてんのは、陛下に対する侮辱と知れっ!!」
顔を上げた少年は、見下ろす亜人の男と睨み合う。強い意志で、強い想いで、後悔なんてあるものかと。その言葉に、ならば足を止めるなと返すのがこの男。
「陛下が認めたんだ! テメェは誰より強く在れ!」
炎王こそが最強だった。ならば彼が認めた竜は、誰よりも強く在らねばならない。そうでなくば、炎王に見る目がなかったと嗤われてしまうではないか。
「陛下に勝ったんだ! テメェにはもう、誰かに負けることは許されねぇっ!」
最強の王に勝ったのだ。ならば彼に勝利した竜は、誰にも負けてはならないのだ。そうでなくば、この程度の相手に負けたのだと王の格が下がってしまう。
「顔を上げろ! 腹を括れ! 胸を張って、前を見ろ! それが今の、テメェの義務だっ!!」
それをこの忠臣は、決して許しはしないのだ。そうとも、時間切れでの勝利であって、勝者としての実感がないのならば猶更だ。
嘆いている時間がお前にあるのか。落ち込んでいるような余裕がお前にあるのか。お前はそんなに強いのかと、お前はそんなに弱いのかと、男の瞳は問うている。
ならば、返す言葉など決まっていよう。握った拳で、顔を拭う。涙を浮かべる暇など要らない。勝者としての義務を、これから果たして行くとしよう。
「分かってる。僕はもう、誰にも負けない」
心の底から納得した。そう思えたのは、ヒビキとリアムが同じ願いを抱いていたから。同じ人に憧れて、同じ場所を目指した男だ。
だからきっと、他の誰の言葉より強く胸に響いたのだろう。だからきっと、何と返すべきなのかすらも既に分かっているのだろう。
ヒビキにもう、後悔はない。進むべき道は、もう決めた後だったのだから。
「僕は、僕が最強だ。ヒビキ・タツミヤ=アジ・ダハーカが最強だって、だからあの人にも勝てたんだって、これから、ずっと、証明し続けてやる!」
「はっ、ちったぁ真面な面になったじゃねぇか」
力強く答えたヒビキに、リアムは笑みを浮かべて返す。それはか弱い子どもを案じて見せるような微笑の類ではなくて、討つべき敵を前にした高揚を強く宿した狂笑だ。
「なら、精々気張れ。その最強の看板に、泥を塗るんじゃねぇぞ。いずれ、俺が貰い受けるその日まで」
「リアム――っ」
言って、リアムは歩き出す。ヒビキの真横を通り過ぎて、町とは反対方向へと。それは口にする気もない、明確な拒絶と断絶だった。
炎王と言う主君を討った時点で、ヒビキはリアムの仇敵になっていた。両者の道は、もう相容れることはないのだろう。
傷を癒し、腕を磨き、何れ首を奪いに来る。その覚悟を宿した背中を見詰め、ヒビキは一瞬言葉に悩んだ。何と言えば良いのか、と。
脳内に過ぎるのは、これまでの関わり。決して長くはなかったけれど、決して浅くはなかった関係。それが、今日この日に変わってしまう。
それが悲しくて、それが苦しくて、思わず呼び止めそうになってしまう。けれどきっとそれは、誰に対しても侮辱となるから。如何にかヒビキは飲み干した。
そして、彼も一歩を踏み出す。リアムとは真逆の方向、コートフォールに向かって歩き出す。それでも別れ際に一言だけ、同じ夢を抱いた男に言葉を投げた。
「分かった。待ってる。その日に、決着を付けよう」
「……それで良い。その日まで、死ぬんじゃねぇぞ」
「互いに、ね」
互いに振り向きもせぬまま、歩を進めて道を分かつ。これより先は敵同士。時に手を取り合うことはあったとしても、根本的には相容れることのない不倶戴天。同じ頂きを奪い合い、何時か殺し合う相手であると。
斯くして、東国六武衆との戦いは終わりを迎えた。真に産まれ落ちた悪竜王は、最早進むべき道を迷わない。迷う余裕など、今の自分にはないと知った。目指す頂きはまだ遠い。
されど其処に最も近い今の自分は、もう誰にも負けることは許されない。ならば、臆することも必要ない。後悔している暇などない。断じて、今を進むのだ。
最強を自称するようになったヒビキ君。けど実際には、まだ聖教のホモよりは弱いです。
人間も魔物も邪神も全部含めてランキング作った場合、一位が邪神で二位がホモ。今のヒビキは三位。
唯、同格帯だと悪竜王の不死性はインチキレベルなので、隙を突かれる可能性はあっても敗死する可能性はかなり少なくなりました。




