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Re, DS  作者: SIOYAKI
第四章 死して後已む
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第50話


 東国六武衆の侵攻開始から既に一時間。月明りに照らされた港に佇む船はまだ、海原へと出航することが出来ずに居た。


 沖合の強風が収まらないのだ。観測員は見張り台に張り付いていて、船長も荒い口調で何処かと連絡を取り合っている。それでも分かるのは、乗員たちにとって不都合な事実ばかり。


 船室に居た筈の少女が一人、そんな船の甲板へと飛び出す。怒鳴り声が響く中に飛び出したのは、彼女の技量不足が故。船の中では、遠い気配を捉えることが出来なかったから。


 胸を突く焦燥感。潮を孕んだ冷たい夜風に触れながら、稚拙な技量で不慣れな闘気の探知を行う。


 拾える音も、感じる気配も、断片的だ。それでも、青い瞳が不安に揺れる。それ程に、状況は危機的だった。


 姉のように思っている女性の気配が、今にも息を引き取りそうな程に弱っている。父の一人と慕っている人が、限界を超えて尚も抵抗を続けている。関わりは深くなかったが、先人として敬意を抱いていた人が命を落とした。


 理屈で言えば妥当であって、しかし感情的には認めたくない現実。その冷たさに一瞬忘我し、少女の動きは僅かに遅れた。


 だから、だろう。我慢がならずに船縁を乗り越えようとしていたアンジュは、後から追い掛けていたミュシャに捕まっていた。


「抑えて! アンタが行っても、何も出来ないわよ!」


 背後から羽交い絞めにして、飛び出そうとするアンジュを必死に抑えるミュシャ。斜に構えて冷酷を気取った所で、少女の根っこは善良だ。


 だから行かせる訳にはいかない。だって、このまま行けば死ぬだけだ。必ず死ぬと分かっている場所へ、これだけ深く関わった仲間を行かせたいと何故思える。


「分かってる! 分かってるけど! けど――家族なのよ、あそこにいるのは!」


 けれどそんな事実、アンジュにだって分かっている。行っても死ぬだけ。何の役にも立てはしない。だがどうして、家族が傷付く姿を見過ごしていられるか。


 理屈じゃないのだ。感情だ。非合理で、無様で、愚かしくて、けれど必死に生きてる証。そうであるが故に、ミュシャも掛ける言葉に迷う。今の彼女に、一体何が言えると言う。


(これが、狙い。なし崩し的に、私達を巻き込む先生の狙い。だって、分かってるのに)


 飛び出そうとする少女を必死に抑え付けながら、嘗ての師の姿を思い浮かべて悪態を吐く。恨みの言葉を掛けたのならば、嘲笑の一つも返されたろうか。全く以って、性格の悪い話である。


 けれどだからこそ、その見立ては正確だ。アンジュがここで飛び出せば当然、彼女は命の危険に晒されるであろう。追い詰められた少女を見て、先ず間違いなく次にはヒビキが飛び出してしまう。


 となれば後はなし崩し。東国六武衆との交戦は避けられず、ヒビキは焔の王に負けるだろう。あの怪物の手によって、少年少女らは壊滅する。その後は、さて一体どうなるか。


 故に止めねばならない。故に止めてはいる。だが、しかしその手も緩み出していた。


 家族と言う単語。その言葉は、ミュシャにとっては重いから。それを理由にされてしまえば、後が破滅と分かっていても、強くは言えなくなってしまう。


 それにアンジュが本気になれば、力の差でミュシャなど軽く振り解かれる。本人が動揺しているのと、必要以上に傷付けまいとしているから抑えられているだけなのだ。


 もっと切羽詰まったならば、彼女の家族が命を落としたのならば、ミュシャを傷付けてでもアンジュはこの拘束を解くであろう。


 故に結局、時間の問題でしかない。その破綻は、もう避けられないものに思えた。


(これ以上、私には止められない。家族を理由にされたら、私は止めたいなんて思えないっ。けど、この手を離して、このまま行かせても、アンジュだけじゃ無駄死にに終わる。なら――)


「ミュシャ? アンジュ、大丈、夫?」


「――っ。大丈夫、だよ。ヒビキ。大丈夫、だからっ」


 船縁に手を置いたアンジュを如何にか抑えているミュシャは、追い掛けて来たヒビキに向かってぎこちなく微笑む。


 常の無表情ながらも、何処か仄かに不安そうな色も見える少年。そんな彼に対し、濁すような言葉を吐いて自責する。


 余りにも、弱い自分がミュシャは情けなかった。だってそうだろう。この状況が破綻すれば、ミュシャには彼を行かせるしか手段がなくなるのだから。


 ならば最初から、この子をアンジュと共に行かせるべきだ。己の冷静な部分がそう判断し、ミュシャは顔を俯け歯噛みする。


(この子を行かせる。それしかないのだとしても、それでも、それは――っ)


 何も為せないのだとしても、守るべき相手を危険な場所に追いやる道など選びたくはない。選ばないまま、選ばなくても良いように、そんな風に終わってくれれば、一体どれ程に救われただろう。


 何となく、思う。あの時と同じ、だと。世界崩壊の引き金を引いた、カシェテーレ遺跡の時と同じように。


 吸血鬼の策に踊らされ、選ぶべき道から目を反らし、都合の良い答えを探している。


 そんなもの、何処にもないと分かっているのに。


(天空王の瞳を使う? ううん、まだ。今使って、どうしようもないって分かったら、それこそもうどうしようもない。けど、なら、どうすればっ!?)


 思考をしている合間にも、腕の中に抑える少女の動きは激しさを増す。それは単純に拘束から逃れようとしているからか、それとも戦場での被害が増えたからか、ミュシャには判断すら付かない。


 けれど分かる。優れた頭脳を持つ少女には、過程が分からずとも結果が既に見えている。


 炎王には誰も勝てない。ならば当然、残った者らは全滅するのだ。罠師と師団長が順に落ち、最後に雷将が倒れて北は滅ぶ。


 その未来は最早避けられぬものであり、その失われる者の中にもう一人が今増えようとしており、もうこれ以上は止められないと理解する前に腕が解かれる。


 振り払われたミュシャが浮かべた表情に、振り向いたアンジュは一瞬戸惑い歯噛みする。


 それでも覚悟を決めた色を瞳に宿すと、港に向かって一歩を踏み込む――直前に、極寒の風が吹き抜けた。


〈ふん、馬鹿者が。お前が行って、どうなると言う〉


「え?」


 声が聞こえる。六武の布告と同じく、距離を無視した誰かの声。それはヒビキもミュシャも知らない声で、しかしアンジュは確かに良く知る女の声。


 だから銀の鎧を纏った少女は、飛び出す直前で立ち止まる。目を輝かせて振り返ると、今も遠い海の向こう。その先に居るであろうその人の名を、大きな声で呼んでいた。


「ドー姉っ!!」


 花開くような笑みを浮かべて、その声の主を歓迎するアンジュ。そんな少女に釣られるように、ヒビキとミュシャも背後を振り返る。


 そこで、あり得ない光景を見た。少年少女は揃って驚愕し、我が目を疑う羽目になる。


 暗く染まった月夜の海原は、地平線の果てまでも凍り付いていた。


「海、凍っ、た」


「へ? いや、北だからって、嘘でしょ? 何でいきなり、海面が氷に閉ざされてるの!?」


 どこまでも続くように広がる氷の大地。広い海に突如現れたその大陸は、ある一人の女が作り出した物。


 どこまでも続くように見える凍てつく道は、その実海の途中で途切れてはいる。当然だ。女は途中までは、船で移動していたのだから。


 そう。船が動かなくなったから、仕方なしに途中から海を凍らせて歩いて来たのだ。そんな理屈で言えば理解は出来るが、常識で考えればあり得ない行い。


 それを平然と為せるのが、英雄級と称される人類種の頂点なのである。


「ドー姉! 来てくれた! 来てくれたんだっ!」


 歓喜に叫ぶ少女の視界の端に、三つの人影が映る。遠く、されど確かに近付いて来る三人組。十字を背負った彼らの姿を、少年少女らは三者三葉の様で見る。


 ゆっくりと大きくなる人影。内の一つが、消えた。そう思った直後、凍てつく風と共にその女は船上に居た。ヒビキの目ですら追えない速度で現れた女は、呆れたように息を吐く。


「当然だろう。何だ、私が来ないと思っていたか?」


 後頭部で一つに束ねた青い髪を靡かせて、大きな刀傷を顔に刻んだ美女。燻る煙草の臭いを薄く纏わせた指先で、アンジュの頭を軽く叩く。


 そうして道を開けさせると、船縁の上へと一歩を踏み出す。その姿はまるで、先に飛び出そうとした少女の焼き直し。されど纏う余裕が、まるで違っている。


「ではな、アンジュビュルジュ。私は行く。未熟者の貴様は、この場で待て。己が未熟を自省しながら、指でも咥えて見てるが良い」


 背を向けたまま振り返りもせず、口にした言葉は乱暴なもの。だが言葉の割に、態度の割に、その声音には冷たさなどは感じない。侮蔑の色など、欠片もなかった。


 だから子供のように、にこやかに答えるアンジュ。その返答を聞いてから、女は少しだけ笑みを浮かべる。それで良いと言わんばかりに頷いて、その直後には姿を消していた。


 冷たい風が吹き抜けて、師である雷将すらも超えたと称される女傑は姿を消した。そして時同じく、彼女と共に現れた二つの影も姿を消す。


 間違いなく、戦場に向かったのだろう。飛び出すことを止めた少女は、あの人ならばと期待を抱いて戦地を見詰める。北の増援がやってきた。絶望するには、まだ早いのだと。






 今、一つの戦場で、決着が付かんとしている。城下を前にしたその場所で、散ろうとしているのは雷の後継。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「しぶとい。最早四肢も真面に動かぬだろうに、まだ私の邪魔をするか」


 見るも無残な程に傷付きながらも、それでも五体は満足なまま。罅割れた細剣を手に抗い続けているシャルロット。


 圧倒的な実力差がある格下に、これ程に食い付かれて苛立ちを隠せぬ公方姫乃。


 城門を背にした戦いは、大勢は決しながらもまだ終わっていなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「言葉を紡ぐ余裕も既に無い癖にっ」


 それでも、もうじきに終わる。一方的に攻められるようになったのが数分は前のこと、今になっては防御も回避もする余裕が残っていない。


 小さな刀が振るわれて、それに合わせる形で少し上体を流して躱そうとする。されど回避し切れずに、深い切り傷をその身に負う。そんなシャルロットが、まだ生きている理由は二つ。


 一つは、単純に姫乃の刀が短いから。直撃を受けても致命傷にはなりにくいから、まだ耐えることが出来ている。


 そしてもう一つは、炎王が下した命令だ。強者はなるべく殺すな。その命に逆らえぬが故、慣れない不殺を強いられている。


 その二つの要因、どちらか片方でも欠けていれば、シャルロットの命はとうの昔になかっただろう。だが、だからと言ってこの後も生きていられる訳ではない。


 既に姫乃の苛立ちは限界であり、彼女の忠誠心は他の者らに比べて低い。王への執着はあっても、それは忠義には成り得ない。


 となれば自然、姫乃の意識は切り替わる。この女はもう殺そう、と。


「お前はもう、此処で死ねっ!」


「まだ、です。まだ、私は――っ!」


 姫乃が刀を振り上げる。其処に闘気が集まって、非実体の刃を形成する。

 闘気で出来た半透明のその刃は、人の肉など容易く切り裂き捨てるだろう。


「これで終わりだ。この私の手に掛かって死ぬこと、せめて誇って逝くが良いっ!」


 意識が朦朧とし始めているシャルロットに、これを防ぐ術はなく。


 ならば、それを防いだのはこの地に漸く辿り着いた増援だ。


「いいや、終わらんよ。これから終わるのは、貴様の方だ。東の化外め」


「な――っ!?」


 大地より溢れ出すように現れた氷塊が、姫乃の挙動を妨害する。


 足元に突然現れ、己を貫かんとする大氷壁。その切っ先が刺さる前に、気付いた姫乃は氷を蹴り上げ後退する。


 遠ざかる死の刃を戸惑いながら見ていたシャルロットは、ふと抱き寄せる人肌の熱を感じて振り向いた。


「え?」


「無様だなぁ、シャルロット。情けないぞ。それでも貴様、雷将の後継か?」


 シャルロットを片手に抱いて、姫乃と同じく後退して距離を取る女。その名を、シャルロットはよく知っている。同じ人を師と仰ぎ、同じ教えを受けて育った姉弟子だ。


 嘗てはシャルロットの前に、雷将の後継者と呼ばれていた女。軍における最上位の地位を約束されていながら、家の都合で聖教会へと移籍することになった人。


 それでも腐らず、歩き続けたその人を確かによく知っている。


「あ、あぁ」


「だが、まあ良い。お前にしては、良く頑張った。後は私に任せておけ」


 青い髪に、顔に大きな刀傷のある女。彼女は小さく微笑むと、シャルロットの髪を軽く叩くように撫でる。


 疲労と安心から意識を失った女の体を横たえると、ゆっくりと立ち上がって振り返った。


「何者だ。貴様っ!」


「敵だよ、貴様の。貴様ら、六武衆の敵だとも」


 刀を構え、誰何の言葉を投げる姫乃。それに相対しながら自然体の女は、腕を組みながら答えを返す。


 己はお前達の敵なのだと、余りにも簡潔に過ぎる答えを。


「騎士の作法だ。先ずは名乗ろう」


 後頭部で一つ結びとした長い総髪が、冷たい風に揺れて靡く。深い刀傷が顔に刻まれながらも、美しいと感じさせる程に整った容姿を冷たく歪める。


 王国騎士団に正式採用されている詰襟の軍服、それから階級章を外した物を女が身に纏うのは言葉にしない宣言か。


 本来階級章がある場所を隠すように、風に流れるのはペリースと呼ばれる肩マント。白地に金の十字が刻まれたそれは、彼女の今の所属を示す物である。


「聖教会十三使徒、第二聖典。オードレ・アルマ・カイ・ダグラス=サングフワー枢機卿だ。覚えろ、とは言わんがね」






 援軍が来たのは、城壁付近だけではない。もう一つ、こちらは決着には間に合わず、その直後に彼らは現れた。


「おっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 無数の家屋が並んだ路地の裏、周囲の建物を砕きながら姿を見せるは一人の男。逆立った金髪に、野性味のある顔立ち。青のカソックでは隠し切れない程に、鍛え抜かれたその五体。


 振り下ろした拳一つで煉瓦の壁を水に濡れた紙のように吹き飛ばし、それでも減衰しない威力を以って男二人に襲い掛かる。


 その奇襲を受けたリアムと子龍は、咄嗟に左右に分かれて跳んだ。


「ちっ」


「へぇ」


 大地に突き刺さった拳が轟音を立て、その先に巨大なクレーターを作り上げる。


 その威力に警戒を深めながら、リアムと子龍は男を見る。金髪の男は、ニヤリと嗤った。


「カソックに、腰に巻いた白い布っ! テメェっっ!!」


「っ! リアム君、後ろや!」


「な――っ!?」


 直後、粉塵の向こうから迫る刃。狙われたのは亜人の男の首筋。迫る刃を紙一重で回避して、距離を取ったリアムは自身の首に手で触れる。


 掠めた刃が、薄皮を一枚以上奪っていたのだろう。僅かに流れた血が指に付着したのを見て、肝を冷やしながらも睨み付ける。


 その煙の向こうには、見知らぬ男がもう一人。


「……外した、か」


「くそがっ、聖教の、くそがっ! その気配を、俺が、読めなかった、だとっ!? くそがぁぁぁっ!!」


 白髪に赤目。アルビノの男が剣を片手に、小さく呟く。黒いカソックに、両の腰には二つの鞘。大きなベルトを身に着けており、其処には試験管が幾つか仕込まれているのが垣間見える。


 白地に金十字のペリースを風に靡かせながら、男は手にしたナイトリーソードを鞘に納める。初撃に失敗したと悟ると慌てることもなく、その場から後退して金髪の男と合流する。


 並び立つ二人の男。聖教の関係者だと示すカソックに、彼らの階級を示す白い肩マント。何度憎悪を込めて、その姿を呪ったことか。リアムは歯噛みし、激情のままに拳を握り締める。


「リアム君、代わろか?」


「舐めんな、やれるに決まってんだろ! ああ、そうさ。あの連中にだけは、負けられねぇっ!」


「そか。……悪いけど、始まったら、僕もフォローは出来そうにあらへんわ」


 十字を背負った二人の男。彼らこそは、リアムにとっては決して許せぬ怨敵たち。


 特に舐めた真似をしてくれた白髪の男は己の敵だと、リアムがそう定めたことに気付いたか。子龍が近付き小さく声を掛ける。


 気の総量と細かい所作。其処から目算した実力は、どちらも自分達に勝るとも劣らぬ域。両者共に英雄級。


 確実に六武衆と五分に戦える聖教の切り札。特にアルビノの男の方が厄介だ。或いは自分たちより、僅かに勝るかもしれないと。


「あいつら、強いで」


「上等っ!!」


 リアムでも子龍でも、死の危険がある相手。確実に勝てそうなのは、武鋼より上の三人か。だが、だからと言って臆病風に吹かれるような輩は東国六武衆に相応しくはない。


 強敵だからこそ、やりがいがあるのだろう。怨敵が弱いなど、それこそ泣きたくなる話だ。そんな風に憎悪の籠った瞳で笑うリアムの言葉に、子龍も笑みを深めて敵を見る。


 修羅の血が、歓喜に沸き立つ。こうでなくてはならないと、まるでそう語るように。


「さあ、名乗れよ。クソッタレの枢機卿共っ! ぶち殺す前に、テメェらの名を刻んでやるからよぉっ!!」


 嘗て中央大陸で、聖教と敵対していたリアムは知っている。


 アルビノの男が左肩に纏い、金髪の男が腰巻代わりに使っている、その白いマントは十三使徒の証。


 神が齎した聖典と言う奇跡に選ばれ、教皇に次ぐ地位を得た教会の最高戦力に他ならないと。


「はっ、獣風情が、きゃんきゃん鳴きやがる。名乗れだなんて、不敬だぜ。亜人」


「そんなん言うたら、僕らだって人間風情やん。ワンコを舐めたらあかんよ」


「……おい、フォローしてんのか、煽ってんのか。どっちだ、子龍!」


「両方」


 金髪の男の返しを受けて、子龍が茶々を入れるように笑う。そんなやり取りに突っ込みを入れるリアムに、にこやかに返す子龍は大物か。


 まるで漫才のように力が抜けるやり取りを始めた六武衆の二人を、金髪の男は鼻で嗤う。人間擬きが、一丁前に人間の振りをしやがって、と。


「一緒にすんな。テメェら修羅も人じゃねぇだろ。修羅も亜人も、どっちも穢れだ。生きてる価値がねぇゴミだ。穢れ同士で舐め合いやがって、だが纏まってんのは丁度良い。どうせテメェらなんざ、掃除した方が世の為、人の為。これから掃除してやるから、少しでも罪を感じる心があるなら黙って従え、害悪ども」


「……修羅については、反論出来ひんな」


「おいこら、子龍」


「そやけど、リアム君まで含めたらあかんえ。救いがあらへんのんは、僕ら修羅や、君みたいな奴だけや」

 

「はっ、お友達は大切だ、ってか。ゴミ屑が、いっちょ前に人の振りをしやがって。そんな資格はテメェらにはねぇ。身の程ってもんを教えてやるよ」


 余りにも傲慢。余りにも身勝手な男の言葉。それを受けて子龍は、しかし半分だけ受け入れる。彼は誰より、修羅と言う存在が嫌いであるから。救いなんてないと分かっているから。


 だが、だからこそ、そうでない友を否定されるのは気に食わない。救いのない修羅と言う害悪と違って、彼は真っ当な人間だから。


 獣の血が混じっただけで、蔑視してくる宗教家。そんな輩、切り捨てたとて心は全く痛まない。


 ある意味都合が良いだろう。友は殺されかけたことで、アルビノの男を敵視している。ならばこの傲岸不遜な男を狩るのは、修羅と言う穢れである己の役目だ。子龍はそう決め、剣を取る。


「東国六武衆、第四席、子龍」


「惜しいな、一つ違い。俺は五番だ。聖教会十三使徒、第五聖典。カルヴィン・ベルタン=クールドリヨン。冥土の土産に覚えて逝けやっ!」


 此処に、第二の戦場は幕を上げる。東国六武衆対十三使徒、その二枚目のカードはこの二人。子龍とカルヴィンの戦いだ。


 故に残るは最後の戦場。奇襲を外した時の呟き以降、一切口を開かず隙を探り続けていたアルビノの男。その姿を睨み付けながら、拳を構えたリアムが問う。


「んで、テメェは何番だよ。むっつり野郎」


 問い掛けに、答えは直ぐに返らない。数秒程、無音の時間が続いてから、一体何を思ったのか。アルビノの男は、静かにその口を開いた。


「……聖教会十三使徒、第十三聖典。デュラン・カルリエ=ラ・モール」


「東国六武衆、第五席、リアム・ファミーユだ! テメェは此処で叩きのめすぜ、糞ったれな聖教徒っ!」


 無音の時間に苛立ちながらも、返ってきた言葉に笑みを浮かべる。


 因縁のある聖教会。宿敵と見做した十三使途。王の覇道を妨げる敵として、それを打ち払う臣下として、これ以上はないだろう。


 そうと知るが故にリアムは、高らかに笑って大地を蹴る。闘気を纏ったリアムの拳とデュランの剣がぶつかり合って、甲高い音が周囲に響いた。






ドーねえ「徒歩で参った!」


そんな訳で数十~数百キロの海を凍らせて、朝から歩いていた十三使徒の三名が到着・参戦です。

メンバーは上位陣。切り札として動けぬオスカーと座して動かぬ七番目を除いて、上から順の三人。


折角のリメイク版なので、人類最上位の実力者を北に集めてみました。

A級冒険者ですら下限値となる戦い。恐らく本作Re,DSの中でもこれが最大、と言える戦場となるでしょう。

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