第41話
久し振りのヒビキ君サイド
◇聖王歴1339年風ノ月18ノ日
最北の臨海都市、コートフォールの上空にそれは現れる。踊るように、遊ぶように、くるりくるりと回って天高く。
頭を下に、足先を上に、逆さに浮かんだまま見様見真似のカーテシー。不格好な挨拶を誰にともなくした後に、鈴のように高い声音で歌い出す。気分は劇場の演壇に登った名歌手だ。
「London Bridge is falling down, Falling down, Falling down. London Bridge is falling down, My fair lady♪ Take a key and lock her up, Lock her up, Lock her up. Take a key and lock her up, My fair lady♪」
ニコニコ笑って嘘を吐く。あり得ぬ現実を此処に紡ぐ。起こり得ぬと言う真実は覆されて、起こった嘘は隕石出現。突如地球の重力圏内に、出現したのは直径10キロの巨岩であった。
「How will we build it up, Build it up, Build it up? How will we build it up, My fair lady♪ Build it up with silver and gold, Silver and gold, Silver and gold. Build it up with silver and gold, My fair lady♪」
「こいつっ! 魔王の縛りはどうしたっ!?」
赤い童女に一手遅れて、追い掛けていたヒビキが顔色を変える。空を蹴り付けた姿勢で硬直した視線の先には、たった今落下を始めた巨大な隕石が。
物理的な知識がない彼にも分かる。こんな物が地表に落下したのなら、現行人類は唯では済まない。一部の強者は生き残るのかもしれないが、文明なんて崩壊すると。
五大魔王は須らく、その行動が制限されている。人類に対する試練であれと設定された彼らは、抵抗の余地すらなく滅びを齎すことが出来ない。
能力的に可能であっても、実行しようとした際に制限を受け出来なくなるのだ。それは魔王の誰もが本能的に自覚している筈のこと。産まれる途中のヒビキですら、そういう縛りがあるとは知っている。だと言うのに、これは何だ。
「Gold and silver I have none, I have none, I have none. Gold and silver I have none, My fair lady♪ Build it up with needles and pins, Needles and pins, Needles and pins. Build it up with needles and pins, My fair lady♪ Pins and needles bend and break, Bend and break, Bend and break. Pins and needles bend and break, My fair lady♪」
赤熱化しながら落ちて来る巨塊は、一手で人類滅亡にも繋がる禁じ手だ。隕石衝突から起きる地球環境の激変は、一部の英雄以外を全滅させよう。
そんな環境で、残る一部の英雄英傑が生き延びれるかと言えば、確実に否。これは、どう考えても、抗う余地もない手段で人を絶滅させる方法に他ならない。ならば魔王の縛りによって、発動を阻害される筈なのだ。
だと言うのに、発動している。その異常が此処に成立したのは、相対する悪竜王の存在が故に。その拳で星さえ砕く事が叶う怪物ならば、そして権能によって生じる副次作用を封殺出来る彼ならば、人間社会への被害を最小限に出来るから。
そこまで考えて、アリス・キテラは隕石を落とした――訳がない。
「Build it up with wood and clay, Wood and clay, Wood and clay. Build it up with wood and clay, My fair lady♪ Wood and clay will wash away, Wash away, Wash away. Wood and clay will wash away, My fair lady♪ Build it up with stone so strong, Stone so strong, Stone so strong. Build it up with stone so strong, My fair lady♪」
狂って壊れたままの童女に、そんな複雑な思考など出来ない。彼女にそんな深慮遠謀などはなく、脊髄反射で何となく隕石を落としてみようとしたら何か出来たと言うだけの話。
アリス・キテラ=ドゥルジ・ナスの行動には、そんな反射的な思い付きが多い。それ故に常日頃から魔王の縛りが彼女の行動言動全てに反応していて、定期的に彼女の動きは制限される。
ニコニコと笑ったまま彼女が動かぬ時は大抵、縛りによって行動をキャンセルされているのである。そんな状況を判断出来ぬと言う性質が足を引き、対人戦においては撃退されることの多いアリス・キテラ。
されどそれでも、童女は魔王の一角だ。単一惑星程度は軽々と滅ぼせるだけの力を持ち、相対している側もまた同様の存在なれば、その力の全てが現在は制限されていない。彼女の思い付き一つで、世界は幾度も滅亡の危機に晒されよう。
「けどっ、たかが石ころ一つでぇっ! 僕を、舐めるなぁっ!!」
少年は拳を握り、その右腕に力を纏う。今にも地表にぶつかろうとする隕石に向けて、一歩踏み込み飛翔するとその拳を叩き込んだ。直後、轟音と共に途轍もない衝撃波が発生する。
悪竜の拳によって粉々に砕けた隕石。それが齎す破壊のエネルギーは、それだけでも無差別に地表を蹂躙するであろう。故に空中で制止した少年は、その左手を開いて向ける。黒き力が其処に宿って、竜の権能が発動した。
「発動――――無価値に終われ!」
詠唱を破棄して発現したのは、第九小節に位置する大魔術。その力の波動を受け、広がり始めていた破壊のエネルギーは停止する。まるでビデオの停止ボタンを押した時のように、硬直した現実は今度は逆回転を始めて戻っていく。
破壊された直後、衝撃波が発生した瞬間へと。巻き戻すように収束した被害は、そのまま小さく萎んで終息した。
これは発生した被害、因より生じた果のみを消し去る大魔術。それを以って惑星への被害を消滅させたヒビキは、一呼吸を置いて周囲を見やる。
「Stone so strong will last so long, Last so long, Last so long. Stone so strong will last so long, My fair lady♪」
「……いない。端からこれは、目晦ましか」
歌う童女の声は聞こえど姿は見えず、苛立ちと共に舌打ちする。一体何処に逃げたと言うのか、目視だけでは直ぐに見つかりそうもない。故に権能を、この場に見合った魔術を検索し発動する。
その時間は数分にも満たぬ僅かな物ではあったが、それでも数分近くの遅れを彼に強いた。それだけの時間、アリス・キテラは野放しと成っていたのだと。気付いた所で、何が出来る訳でもない。
忌々しいと再度舌打ちをしてから、反応のあった地点に向かってヒビキは空を踏み締め駆けた。
◇
月明りもない深夜。夜の暗闇に満ちた中では、遥か上空でそのようなやり取りがあったのだとしてもそう簡単には気付けない。
コートフォールで思い思いに過ごす者らが、その異変に気付けたのは隕石破壊の際に起きた轟音によって。
暗黒天体ですら暴風程度の被害で済んでしまったが故に、その時になって漸く町は騒然と動き出す。
「な、何だっ、今の音?」
「……勘弁してよ。もう直ぐ、夜警も終わりそうだったじゃないか」
鉢巻だけが特徴的な、赤髪の男が肩を跳ね上げ左右を見回す。慌てた様子で周囲の確認を始めた没個性な戦士の背後で、目元を隠した魔術師の青年は息を吐いた。
Dランク冒険者パーティのトゥリコロール。その三人組は人の少なくなった今も、この最北端の都市に残っていた。細かな理由は多々あれど、最も大きな理由は一つ。情けないことに金欠だ。
「くっそ、楽に稼げるって思ってたのに。騎士団の連中に協力して、ちょっと人の足りない時間に軽い見回りするだけで、討伐依頼の数倍の金が出るって話だったろ」
「ぐちぐち煩いね、ウルソンは。上手い話には、裏があるってことだろう」
「あと、どうでも良いけど依頼主は王国軍だよ。騎士団ってのは俗称なんだから。口煩い人に聞かれると面倒だし、普段から直しといた方が言い間違いとかなくて楽だと思うよ」
「平民出にとっちゃ、騎士団呼びの方が馴染み深いんだよ。相手次第じゃ、王国軍って言っても通じねぇ時あるし」
ライトを片手に見回り警備。本来は領主の部下か王国軍か、どちらにせよ正規の騎士が行うようなことではある。だが今は、コートフォールを守る軍は人手不足の真っ只中だ。
東国からの宣戦布告。それに合わせた民間人の避難と軍備の増強。それらに人手の殆どが取られていて、人気のなくなった町の巡回と言った優先度の低い業務にまでは手が回っていない。
猫の手も借りたい程ではあるが、かと言って信頼出来ない相手には任せられない。そこで考えられたのが、信頼出来る者からの推薦を受けた冒険者を使うと言う案だ。
雷将の義娘とその仲間達を使うと言う案も出たが、代行する業務の性質上それなりの期間拘束することになる。なるべく早めに彼女を外に逃がしたいと言う上の意向もあって、結果選ばれたのが罠師の推薦を受けた一部の冒険者達。その中に、このトゥリコロールの三人も居たと言う訳だ。
「あー、くそっ。本当なら、今頃は海の上で、さっさとこんな危険な場所からは、おさらばしている予定だったのによ」
「言うんじゃないよ。そもそも私ら、船に乗れる程の金がないだろ」
「それなぁ。船着き場の連中、足元見やがって。普段の三倍は吹っ掛けられたぞ」
「……僕だけなら乗れたけどね。君達が普段から浪費し過ぎなんだよ」
そんな状況である彼らには、勤労意欲と言う物が欠けていた。それもまあ当然と言うべきか。同僚であった冒険者達は日々数を減らし、一部の精鋭が残るだけの現状。
耳に入る噂話は、雷将ですら遅れを取るような化け物集団が宣戦布告をしたと言う信じ難い物。これから戦争が起こるのだと知って、鷹揚としていられる程の実力だって彼らにはない。
所詮は並みより少し上程度の二流冒険者。英雄どころか異名持ちにすら成れない彼らからすれば、此処に残ってしまったことさえ場違いだったと嘆息してしまう程である。
「あー、このまま駄弁ってるだけで終わりてぇけど。無理だよなぁ。あの音、調べねぇとだよなぁ」
「うだうだ言ってないで、さっさと進めるよ。他に良い手も、無さそうだしさ」
「……いっそ、何処かの詰め所へ行く? 王国軍もあの音には気付いてるだろうし、編成されるであろう調査隊にしれっと合流出来れば、後方でぬくぬくとしてられるかも」
『それだ!』
受けた依頼を考えれば、明らかな異常を放置は出来ない。されど現状への不安から怯懦を隠せない。何せ今晩は明らかに可笑しいのだ。
先の轟音もそうなら、少し前に起きた謎の暴風も然り。城壁の一部が崩れる程の強風が発生したのは一瞬だけで、今は不自然な程に凪いでいる。
何が起きているのかは分からない。だが、確実に何かが起きている。それも自分たちの手には負えない規模の異常が。そうと思えばこそ、怯え竦み逃げようとしてしまう。故に彼ら三人は、一先ず最寄りにある軍の詰め所を目指すことにした。
本来ならば作業終了後に向かう場所だが、異常をいち早く伝え指示を仰ぐ為だと言えば言い訳にも十分だろうと。其処から先は口の回り次第ではあるが、上手く行けば楽が出来ると足取り軽く彼らは進んだ。
「いやー、さっすがバルナベ。あくどいこと考えるぜ」
「褒めてないよね、それ?」
「実際、異常があったから指示を仰ぎに来ましたって言い訳も出来る訳だしね。逃げ道を作るのが上手い、アンタらしい考え方だよ」
「だから褒めてないよね、それ?」
人気の少ない曲がりくねった路地裏を暫く進んで、辿り着くのは大通りに面した建物の裏手。この建物を回り込んで、対面に位置しているのが王国軍の詰め所である。もうあと一息、そんな距離にまで近付いた彼らは安堵の吐息を一つ漏らして。
「よっしゃ、この先が一番近い騎士団の詰め所だ。此処でなら――――」
悲鳴が、聞こえた。野太い声、甲高い声。指示か罵倒かも分からぬ大声が木霊していて、家屋一つを挟んだ向こう側は酷く騒然とした空気であった。
「悲鳴、聞こえたね」
「悲鳴、聞こえたな」
『帰るか』
「馬鹿言ってんじゃないよ、馬鹿どもっ! ここで確認もせずに逃げたら――」
『逃げたら?』
「違約金を取られるじゃないかっ!」
家屋を背にして路地裏から出ないまま、そんなコント染みたやり取りを始めるトゥリコロールの三人組。揃って冷や汗を流しつつ、今すぐに帰りたいと思えど帰れない理由は違約金。懐には金がなく、更に減ってしまえば帰った所で待つのは破滅だ。
「そりゃ不味い。だって僕らは金欠だ」
「払える金なんて、銅貨一枚もねぇぞ。全部、教会のシスターに貢いだからな!」
「因みにそのシスター、貢がれた金で夜逃げしたっぽいよ!」
「俺の懐と一緒で、教会の中は空っぽだったぜ!」
「馬鹿言ってないで先ずは状況を確認するよっ! 勿論、何時でも逃げられるように、ゆっくりこっそり安全第一で!」
先ずは安全第一で、そう意見を一致させた三人は頷き合って動き出す。背を壁に預けたまま、そろりそろりと忍び歩き。上から赤青黄色の順番で、顔だけ出して向こうを見た。
そして――其処にあったのは、目を疑うような光景だった。
「あれ?」
先ず初めに気付いたのは、騒然としている鎧姿の騎士達の姿。剣を抜き、盾を構え、左右へ慌ただしく顔を向け何かを探している。
それだけならば、逃げ回る何かと戦っているのかと。そんな結論に至るであろう光景。だがしかし、少しでも思考すれば直ぐに気付く。その光景の異様さに。
「なんか、少なくね」
「……さっき、女の悲鳴、あったよね。男しか、いない?」
異様さの原因は、詰め所の前で交戦をしている騎士の数。本来ならば二桁は居たであろう数が今は、片手で数えられる程度の数しか其処に居ない。
建物越しに聞こえて来た悲鳴も異様だ。あの声は確かに女の声だったのに、視界に居る数人は全てが男性だ。
一瞬、詰め所に逃げ込んだのではと思考する。内には他にも居るのではと連想して、その流れの先で先ず目隠れ魔術師が気付いて呟いた。
「ねぇ、この詰め所の騎士って、何人いたっけ? 昨日の報告した時のこと、覚えてる?」
「何だよ、行き成り。そりゃ覚えてるに決まって――」
「……何だい、これ? あたしの記憶、虫食いになってる?」
「僕だけじゃないんだ、これ。良かったって、安心するべきだと思う? それともヤバいって、ビビるべきかな?」
軍の構成員は、詰め所の大きさに相応した数が居た筈だ。少なくとも昨夜の時点で、トゥリコロールの面々は二十人近い騎士の顔を見知っている。その筈だった。
だと言うのに、顔を合わせた相手のことが思い出せない。その場面を如何にか思い出そうとしても、写真を黒いクレヨンで上から塗り潰したかのように、誰かが居たと言う事実以外は思い出せない。
誰かは居た筈なのだ。なのに、それが誰だか分からない。ゾッと背筋が寒くなり、硬直してしまう三人組。何時しか罵声や雄叫びは減っていて、響く音は狼狽や恐怖の声ばかりと成っている。そんな状況で、彼らは見た。その異様の元凶を。
「貴方は嘘」
赤い唇で童女が囁く。鎧を着込んだ騎士の背後から、突然現れた子供が背中に抱き着く。その細く白い腕を首に巻き付けて、耳元に顔を近付け甘い言葉のように囁く。
直後、からんと音を立てて鎧が地面に転がった。剣も盾も鎧も兜も衣服も全てが、乱雑に転がって音を立てる。後の中身は水に波紋が浮かぶようにゆっくり揺れて、波紋が消えるように消滅した。
男の騎士は嘘になった。その存在が嘘にされた。だから嘘でしかない彼の過去も消え、その場を見ていたトゥリコロールの面々ですら彼のことを記憶していられない。確かに其処に居たのに、確かに目の前で消されたのに、その記憶全てが黒い嘘で塗り潰されていたのである。
「貴方も嘘」
アリス・キテラはニコニコ笑う。同じように抱き着いて、甘えるように言葉を紡ぐ。触れられた騎士が慌てて剣を振るっても、消されそうになった騎士が必死に乞うても、ニコニコと笑ったまま彼女は彼らを嘘にした。
「嘘嘘嘘嘘、全部嘘♪」
数分すらも必要とせず、その場は唯一人を残して無人と成った。物音一つしない大通りの真ん中へ、浮かんだ童女はスキップ交じりに移動する。誰もいないその場所で、楽しそうに愉しそうに、くるくるくるくる踊り出す。
余りに静か過ぎないかと言う思考から、周囲の店舗を思い出して三人組は絶句した。大通りに並んだよく使う店舗のスタッフが、黒塗りにされていて思い出せない。本当にもう、この場は無人なのだろうと分かってしまった。
「嘘が本当か、本当が嘘か♪ 知らない見えない何もない♪」
幸いと言うべきか、こちらには気付いていないようだと安堵する。そうして顔を引っ込めた三人は、力なく座り込んで空を見上げた。
「……東の修羅は、予想してたよね。最悪の展開的に考えて」
「何で、大魔女が――」
「二人とも黙れ。なるべく息も抑えるよ。見付かったら死ぬんだから。このまま隠れて、抜け出すよ」
赤、青、黄色、赤。その順番で並んだ彼らは、なるべく音を立てないように気を付けながら、来た道へと戻ろうと立ち上がって振り向く。暗い暗い路地裏へと続く道の前で、赤い童女はニコニコ笑顔で座っていた。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
「あらららららら、あらららら♪」
既に居る。何故居るのかと思考するより前に、叫んだ三人は回れ右して走り出す。少しでも離れなければと、彼らを突き動かすのは生存本能。しかし。
「バァ」
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
魔王からは逃げられない。駆け足を始めた途端に、進行方向に出現するアリス・キテラ。何もない虚空から落ちて来るようにずるりと、落下した彼女は途中で止まる。目線を合わせるような位置で、逆さまに浮かんだ童女は先頭に居る男の顔を覗き込んでいた。
「貴方は嘘?」
「え、い、いや。嘘じゃねぇ、嘘じゃねぇ。嘘にはなりたくねぇっす」
こてんと小首を傾げて行われる問い掛けに、赤毛のウルソンは慌てて返す。返された言葉がよく理解出来なかったのか、アリス・キテラは頬に人差し指を当てるとうーんと少し唸って黙り込んだ。
「貴方は嘘?」
「あ、あたしは本当だよ。ほら、手も、足も、あるだろ。ここに」
かと思えば、いつの間にか青髪の女の前に現れていた童女が問う。下から顔を覗き込むように見上げて問い掛ける童女の言葉に、少し慌てながらもゾラは何とか否定を返した。
その言葉の意味がやはり理解出来ぬのか、アリス・キテラは再び人差し指を頬に当てて唸り出す。だがそれも一瞬のこと。瞬きの直後に、彼女の姿は消えている。
「貴方は嘘?」
「……嘘じゃない、本当です。だから許して」
そして今度は、残る黄色の男の肩に圧力。暖かい何かが抱き着いて来ている感覚と、耳元で囁くような音量での問い掛け。恐怖の余り背後を振り向くことさえ出来ないバルナべの命乞いを受け、やはりアリス・キテラはうーんと唸った。
そうして直ぐに彼女は消えて、解放された目隠れ魔術師は力なく地面に座り込む。助かったのかと、安堵できる余裕はない。何故ならまだ、助かってはいないのだから。
再び逆さまに漂い始めた大魔女は、横方向ではなく側方へと回転しながら口を開いた。
「嘘嘘嘘嘘、嘘ってなぁに? 何が何だか何でも何やら♪ アリスはお歌を歌うのよ♪ 貴方もお歌を歌います?」
「お、おう。う、歌は、好きだよ。歌うより、見てる方が、もっと、な。だから、な。俺ら嘘にするより、歌ってた方が楽しいんじゃねぇかな。う、うん」
「あらららららら、あらららら♪ あらららららら、あらららら♪」
くるくるくるくる回って回って回り続ける。けらけらけらけら笑って笑って笑い続ける。側転のように回転しながら、怯え震える三人の回りをグルグル回る。転がりながら円を描くように、ニコニコニコニコ笑って回る。
そうして何回転した後のことであろうか。突然無表情になったアリス・キテラが虚空で止まり、数秒程して再起動。再び満面の笑顔を浮かべた赤い童女は、赤毛の男の顔を下から見上げるように覗き込む。硬直し切った彼に向って、アリスはにこやかに問い掛けた。
「貴方は嘘?」
「え、いや、えぇぇ」
まさか同じことを聞かれるとは、と。一切思考が追い付いていないウルソンが答えを返せる前に、興味を失った大魔女は背後から青髪の女に抱き着いて問う。
「貴方は嘘?」
「待って、これ、無限ループ入ってる?」
こてんと首を傾げて問い掛ける童女の姿は、酷く愛らしいが故に恐ろしい。何と答えようと何をしようと、彼女は決して理解しない。男女の怯えや困惑に気付くことさえなく、アリスは次へと問い掛ける。
「貴方は嘘?」
「……勘弁してよ、本当に」
逆さまに浮かんで上から、座り込んだ魔術師の目を見て問い掛ける。腰が抜けたままに成っている彼は、諦めたように嘆息するだけ。アリス・キテラは再びこくりと小首を傾げた。
「んー?」
くるりくるりと時計回りに回転しながら、アリスは考え込むような素振りを見せる。腕を組んで小首を傾げて、その回転が一周した所でにっこり笑った。
「み~んな嘘♪」
「に、逃げ――っ!」
よく分からないから、全て嘘にしてしまおう。傍目に見てもそんな結論に至ったと分かる動作と発言に、即座に三人組は叫んで足掻く。
逃げることが出来なくとも、このままでは嘘にされるだけ。だから如何にか、少しでもその命を長らえようと足掻いて――
「ぶっ飛べぇっ!」
「あららららららららら♪」
黒い巨腕が赤い童女の体に突き刺さり、その姿が一瞬で三人組の視界から消える。轟音と共に無人の家屋が幾つも倒壊し、すたりと上空から着地して来た小さな影が壁となるように立ち塞がる。
そこまで来て、漸くにトゥリコロールも理解する。その小さな少年が、アリス・キテラを殴って吹き飛ばしたのだと。だがしかし、安堵の息を吐くことはまだ出来ない。現れた少年の腕が、人の形をしていなかったのだから。
「な、なななっ」
「え、子供? 確か、イベールの嬢ちゃんと一緒に居た」
緑のシャツに、薄茶のズボン。毛皮のマントを纏っている、白髪に光彩異色の美少年。誰もが一度は振り返り、見惚れるであろう程の容貌。されどそれ以上に意識してしまうのは、纏った衣の隙間から除く右手。
肘から先の部分が肥大化し、黒く変色してしまっている。その大きさは既に小さな彼の全身と同じ程、黒い鱗に覆われ鋭い爪の生えたそれは竜の手だ。人間など触れただけで八つ裂きとなってしまうであろうと、容易くイメージ出来てしまう異形。
それを見て、敵か味方かも分からず硬直する。そんなトゥリコロールの面々に、ヒビキは振り向きもせずに言葉をぶつけた。
「とっとと逃げろっ! 邪魔だよ、纏めて潰されたいかっ!!」
『は、はいぃぃぃぃっ!?』
慌てて立ち上がるバルナべの手をウルソンが引いて、ゾラを先頭に脇目も降らず逃げ出す三人組。
イベールの名を出した彼らの気配が遠ざかるのを確認したヒビキは息を一つ吐いてから、起き上がって近付いて来る大魔女へと向き直る。
「あらららららら、ららららら♪」
「散々、舐めた真似しやがって」
浮かび上がって回り出す、大魔女アリス・キテラは未だ無傷。あらゆる攻撃もあらゆる被害も、彼女は嘘にしてしまうから。
「あらららららら、ららららら♪」
「――っ、やっぱり、上手く捉えられないかっ」
苛立ち交じりに再び殴り掛かったヒビキの拳は当たって、周囲の家屋を瓦礫に変えながらアリスは吹き飛ぶ。されどそれさえ楽しんでいるかのように、けらけらと言う笑い声が止まらない。
「何して遊ぶ♪ 遊んで何する♪ 何何何何、何ってなぁに♪ あらららららら、ららららら♪」
「相変わらず、腹立つ奴だ。……はぁ」
悪意なく、無邪気に笑う童女の姿に苛立ちが増す。何もかも根こそぎ纏めて消し飛ばしてやりたくなって、しかし如何にかヒビキはその衝動を飲み干す。
怒りのままに、拳を振るった所で届かない事実は既に嫌になる程分かっている。それにこの町が必要以上に傷付けば、アンジュはきっと悲しむだろう。その認識が、僅かな歯止めとなっていた。
(落ち着け。今は何時もと違って、頭がスッキリしてる。……ぶち殺しても良い奴が、目の前に居るから、か? まあ、理由はどうでも良い。頭が回るなら、考えろ)
さらに言えば、もう一つの要因が。普段は靄が掛かったように上手く纏まらない思考が、何故だか今は冴えているのだ。考えることが苦ではなく、対策を考えようと思う程度には思考が回る。
それはこれまでの積み重ねが故。普段のヒビキは負の衝動に圧し負けた悪竜と、それを抑えようとする聖剣の意志と卵の残骸。それら三つの意志が、足を引き合っている状態だ。
故に思考が纏まらず、表層に出る意識は幼児退行を果たしたような形となる。常識や良識は殆どなく、さりとて悪意だけでも動かず、反射に近い行動を行い続ける。それが普段の悪竜王。
されどその拮抗は、魔剣を取り込んだことで揺らいだ。元より比率で言えば悪竜が最も大きかったのだから、其処に大魔女の力が宿った魔剣など付け加えればどうなるかなど明白だろう。
悪竜の箍は緩んでいる。今の彼は悪意に染まりやすい。それでも普段は思考が鈍っているのは、その果てを悪竜ですら望んでいないから。だから半歩の所で耐えていて、しかし大切な者を傷付けられればあっさりその半歩を超えてしまう。
悪意に飲まれ、悪意に従う。その限りにおいて、今の彼は真っ当な思考を取り戻す。そしてその悪意の向く先は、人に限らぬと言う話。アリス・キテラと言う邪魔者が居る限り、今のヒビキはそれの排除を優先した行動や思考を行えたのだ。
(アイツの権能で嘘にされる限り、こちらの攻撃は意味がない。先ずはそれを、どうするのか。答えは簡単だ。権能自体を、上から叩き潰せば良い)
その思考で打開策を練る。先ず第一に重要なのは、第三魔王アリス・キテラ=ドゥルジ・ナスの有する権能「虚構之真言」の攻略だ。
これは嘘を真実に、真実を嘘に変えてしまう特殊能力。例えるならばアリス・キテラの手の内には無数のクレヨンがあって、それで世界と言う画用紙に自由な絵を描き足しているようなもの。
何でも自由に、望んだ通りに書き換えられる。そう言えば無敵の能力にも思えるが、完全無欠と言う物は存在しない。少なくとも同じ魔王同士だ。全く通らないと言う理屈はない。
(出来ない筈がない。魔王の権能も、肉体強化で振るわれる力も、大本のエネルギーは瘴気。波長や性質が異なるだけなら、其処を合わせれば干渉出来る)
先の例えで言うのなら、アリス・キテラが握ったクレヨンは着色顔料ではなく瘴気を固めて出来た物。大本となる素材は同じ物を使っているのだから、同じように固めてしまえば同じことも理論上は可能である。
故に、彼女が描いた絵を上から更にクレヨンで塗り潰す。或いはクレヨンで画用紙に描けぬように、画用紙自体をコーティングして守ってしまう。それさえ出来れば、虚構之真言は攻略可能だ。そう結論付けて、ヒビキは力を研ぎ澄ませる。
軽く開いた異形の五指。その爪先に力を集める。変換させる効率は、権能を持つアリスに比すれば遥かに劣る。アリスが1の力を1に変えるのなら、ヒビキは10の力を消費しても1に届かない程度。
その上、アリス程に器用に使い熟すことも難しい。恐らくは単純な事象を固定するだけが限界で、複雑なことは一切出来ない。だが、今はそれで十二分。
(干渉が出来るなら、後は力の押し付け合い。圧倒的な瘴気の量で、アイツの嘘ごと圧し潰してやれば良い。そうした分野は、悪竜王の十八番だ!)
そもそも総量が異なっている。他の魔王の凡そ二倍。悪竜王の抱える力の総量はそれ程で、大魔女も全ての嘘を全力で吐いている訳ではないのだ。
ならば、彼女が嘘にする一瞬を見切り、塗りが甘い場所に嘘には出来ない最大火力を叩き込む。それさえ叶うのならば必ずや、この一撃は届くであろう。
「は――っ! 捉えたっ!!」
「――――っ!?」
巨大な黒き五指が舞う。大地を削り空を歪めて、ふわふわと浮かんでいた大魔女の下へと。常のように嘘にしようと魔女は気にせず力を使って、確かにその多くを消してしまう。
されど、全てを嘘にするには届かない。消し切れない力は純粋な暴力として、現実世界に結果を残す。
鋭い爪がぐさりと皮に突き刺さり、そのまま血肉を抉っていく。前へと跳躍し、着地した少年の爪先には、奪った血肉が確かに残った。
「ア、ウゥ」
「ちっ、まだ浅いか」
硬直し、己の体に残った傷を見下ろす大魔女。嘘に出来なかった傷口は、しかし致命と言うには余りに浅い。
それでも、とヒビキは構えて思考する。感覚は掴めた。ならば次は確実に、その身を八つ裂きにしてやろうと。
そんな物騒な思考を静かに進める少年の対応に反して、アリス・キテラが示す反応は余りに劇的だった。
「ウワァァァァァァァァァァンッ!」
泣いていた。普段の感情に満ちた韜晦的な嘘とは異なり、時折見せる機械的な本音とも異なり、感情を隠せぬ形で童女は吐露した。
それもその筈、全てを嘘にしてしまえる女にとって、痛みなんて初めての体験だったのだから。
「……はっ。めそめそ泣いて、今更に命乞いか。アリス・キテラ」
「イタイ。イタイヨ」
「そりゃそうだろ、良い顔になったじゃないか。次はもっと、痛くしてやるよ! 糞女!」
一瞬、その反応に戸惑い言葉に詰まる。されど溢れる悪意の衝動に身を任せて、それを無様と嗤う悪竜王。彼は再び右手に力を集めると、臀部より生やした尾で地面を叩いて反動で高く素早く跳んだ。
「グッス、ヒック。…………酷いわ酷いわ意地悪ね♪ アリスはとっても哀しいわ♪ キテラはとっても苦しいの♪ 嘘か本当かどっちがどっち♪ アリスは何にも分からない♪」
「はっ、嘘は嘘だろ。アリス・キテラ」
直線的に向かう竜。爪の形をしたその牙を前にして、慌てて逃走を図るアリス・キテラ。初手は外れる。痛みを与える怖い物から必死に逃げて、されどその動きは直線的。
回避など必要とされることさえなかったのだから、そこに巧さなどある訳もない。故に次は外さぬと、竜は再び尾を叩き付ける。
その音だけでびくりと肩を震わせて、一心不乱の逃走を図る大魔女。敢えて尾を叩いただけで飛び立たなかった悪竜王は、振り向きもせず真っ直ぐ逃げた魔女を追った。
「教えてやるよ、最後に勝つのは暴力だって」
「ヒ――グッ!?」
「抉って刻んで叩いて潰す。無様に死ね。それが、お前の至る真実だ!」
迫る、迫る、痛みの恐怖が。再び体を切り裂かれ、先より重い痛みに硬直するアリス・キテラ。その身に向かって、三度振り下ろされる黒い巨腕。最早その一撃を、今の童女が躱すことなど叶わず。
故に、その幕引きは――
「……また、邪魔か」
降りる前に、巨大な剣に阻まれる。黒い剣だ。円を中心に上下に両刃が伸びる形状は、薙刀のような用途で作られたのか。成人男性の全長よりも巨大なその鉄塊が、ヒビキの拳をアリスの代わりに受け止めていた。
轟音と共に罅割れ砕けた刀身は、しかし最低限の役目を果たした。それに阻まれてヒビキの手は、アリスの首に届かなかったのだ。
舌打ちと共にヒビキは、そのまま砕けた剣を殴り飛ばす。宙をブーメランを思わせる軌道で飛んだ剣の残骸は、唐突に現れた死人のような男の手の内へと。
土葬された死体のような肌に、死んだ魚のように生気のない濁った瞳。衣服なく晒された細身の上半身には、蠢く無数の魔術刻印が刻まれている。
服従と拘束。権能が故に即座に見抜いたヒビキの前に、アリス・キテラを背に庇う形で現れた青年。
一見して年若いその男の名を、アダム。夢幻と称される異名を有する、邪教集団は最高幹部の一人である。
「この目で見ても、俄かには信じ難い。我が母を、傷付けるとは」
いつの間にか、男が握り直す頃には傷一つない形で修復していた両刃剣。その中心、円を持ち手のように掴んだ男。彼は一切表情を変えぬまま、それでも声音だけは感心するように、そして僅か期待するように告げる。
その濁った瞳でヒビキを見下ろしながら、薙刀を構えるように姿勢を正して、少年の道を阻む見知らぬ男。アダムの出現に、少年の苛立ちはピークへと至っていた。
「いい加減、うんざりだよ。邪魔をするなら、お前から死ぬかっ!」
「そうだな、そうしてくれると有難い。僕はもう、死にたいんだ」
気に入った子らを何者かに攫われて、追い掛けようとしてアリス・キテラに邪魔された。その邪魔にも慣れて漸く倒せるかと思えば、タイミング良く次の邪魔が入ったのだ。
誰かの悪意を感じるような、余りと言えば余りの状況に歯噛みし尾を叩き付けながら吐き捨てる。加減はしない。これ以上邪魔をするのなら、誰であっても叩き潰すまでだと。
そんな言葉に、それに伴う圧力に、アダムは少しだけ表情を変える。微笑みだ。心の底から、受け入れるような笑みで言葉を返す。
常人ならば受ける圧力だけで気が触れそうになる魔王の悪意を前にして、それこそを望んでいるのだと彼は笑うのだ。
「だが、君では無理だ。あの性悪女が、僕の死を許すとは思えない。ならば逆説、僕が対峙出来る存在は、僕を殺せない存在だけだ」
僅かな期待と、それ以上の落胆。死んだ瞳で見下ろす男の疲れたような声には、そんな色が濃厚に宿っている。されど知ったことではないと言わんばかりに、アダムの言葉が終わる前に、ヒビキは尾で地を叩いて前に跳ぶ。
そうして、右腕を振るう。振るわれる五指に宿った力は、大魔女の嘘を無力化する物。魔女と同じく、されど彼女より効率の悪い、嘘に守られたアダムの身を、守るために構えた剣を、その爪は容易く引き裂いた。
皮が剥がれて血肉が抉れて、その中身が弾け飛ぶ。竜の暴威を受けたその体はあっさりと吹き飛んで、バラバラな肉片が後に残る。明らかな即死だ。人間ならば絶対に、生きてはいられない程の威力。だと、言うのに。
「何だ、お前?」
警戒するように、ヒビキが呟く。彼の目の前に、アダムは居た。その五体には傷一つなく、完全無欠の姿で諦めたように息を吐く。
地面に散らばる残骸や手にこびり付いた血と肉は、瞬きの後に消えてなくなる。まるで、夢か幻を見ていたかのように。
「アダム君♪ アダム君♪ アリスの作った泥人形♪ キテラのキテラのお気に入り♪ とってもとっても大切だから、箱の奥に閉まったの♪ 一体何時何時何年前♪ 一年十年百年経った♪ 箱の蓋を開けてみた♪ 中身は一体何処行った♪」
「ご紹介に預かった通り、我が母――アリス・キテラ=ドゥルジ・ナスが作った泥人形。それがこの僕、夢幻のアダムだ」
泣いた烏がなんとやら。いつの間にか普段の態度を取り戻したアリス・キテラが、ふわふわ浮かんで回りながらに語る。
原初の魔王アカ・マナフが三大の魔獣を己の権能で生み出したように、夢幻のアダムは大魔女アリス・キテラがその権能で作り上げた泥人形だ。
故に、死なない。嘘の塊である彼はそもそも生きていないのだから、夢幻のアダムは殺せない。
「あの性悪から、命じられているだろう。君はとっとと立ち去れ。これより先は、この泥人形が請け負おう」
「あらららら、あらららら♪」
泥人形が前に立ち、大魔女へと逃げろと語る。冷たく感情の籠らないその声を受けて、アリスは楽し気に笑うとその手を大きく振った。
「さよならばいばいまた明日♪ カエルが鳴くからかーえろ♪」
「行かせるとっ!」
身を翻して、空に消える大魔女。行かせるものかと追い掛ける悪竜だったが、その道の前に巨大な剣を構えた男が割入り阻む。
「ち――っ」
「思うよ、君はまだ完全ではないのだから」
拳と剣が打ち合って、圧し負けたのは男の剣。打ち負けて吹き飛びながらも、空中で体制を整え着地してみせるアダム。彼は確かに、その意図を通してみせる。既に大魔女の姿は、もう何処にもなかったのだ。
「魔王の縛り。不完全な生誕。今の君なら、こんな僕でも足止め程度は可能だろう」
「どいつも、こいつもっ!」
「ああ、すまない。君の苛立ちは、こんな僕にも理解出来ている心算だ。それでも僕には自由がない。許してくれとは乞わないが、哀れに思うのならば殺してくれ」
闇夜の中で、服従の刻印が淡く輝く。戦いを強要された泥人形は情けなく微笑み、苛立ちを抑えながらヒビキは彼へ向き直る。負ける気はしない。だが、容易く倒せる気もしなかった。
「では、暫しお付き合い願おうか。悪竜王陛下」
【アリスちゃん家の家族構成】
アリスちゃん:ディアナの娘でアダムの母親
ディアナさん:アリスの母でアダムの妻
アダムくん:アリスの息子でディアナの夫
ミュシャちゃん:ペット
関係性が複雑骨折している一家である。




