表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】ダンジョンに閉じ込められて25年。救出されたときには立派な不審者になっていた  作者: 乾茸なめこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

229/234

231

 その巨体で『黙り込むチャタレー』の中にある全てを吹っ飛ばしたのだろう。建材の破片に混じり、鎖に本棚、そして装丁がすっかり黒く腐った書物が、風を切りながら飛んで行く。

 そのうちの一冊に、思わず手が伸びた。


 バシっと掴んだ瞬間、手に吸い付くような嫌な感触。かなり気持ち悪ぃ。素早くドローンのコンテナに投げつける。


「戦利品か?」


 ユエが疑念を含む声で言った。


「わからん。なんか必要な気がしたんだよな」


 俺は吐息を多く混ぜながら答え、空っぽにした肺に深く息を吸い込む。換気完了、一気に足の回転を速めた。


 ――音には輪郭がある。


 走りながら目を閉じて、耳に意識を集中させた。どうせだだっ広い平原と、目には見えねぇ敵なんだ。視覚情報なんてアテにならない。

 背後から追ってくる気配。踏みしだかれて潰される草の面積。風を弾く音。大まかに直方体のブロックが動いていると仮定して、左右と高さにだけアタリをつける。


 高さ4メートル、横幅12メートル。いや、高さ6、横18。待て、高さ8に横22?

 音がどんどん重たくなっていく。薄く目を開いてちらりと振り返ると、怪物が通るに合わせて草原が絨毯のようにめくれあがっていた。緑を破壊して黒土の線が走る。


「なんかで見たことあるな……! 露天掘りの発破ってあんな感じだったよな!」


 岩盤にずらーっとダイナマイトを並べて順番に起爆するヤツだ。大迫力でスッキリする。


「巻き込まれたら粉々にされるであろうな」

「おいおい、落ち着いてるじゃねえの。こういうの慣れてんのか?」

「最近、な」


 ユエの皮肉な言い方に思わず口角が吊り上がった。嫌いじゃねえよ、こういうの。


「で、王こそ余裕があるな。巨大化しているせいで、当初の想定よりも速いぞ。およそ足で逃げ切れるものではあるまい。相手の持久力も未知数だ」

「どうにかなるさ。俺は運が良くて、あいつは運がねえんだわ」

「誰のことだ?」


 俺はスマートウォッチをつけた左腕を軽く二度揺する。大きくハッキリとした声で呼びかけた。


「へい、マップ開いて山里の位置情報を強調表示してくれ」

『管理者の指示を受け付けました』


 合成音声の返事。ぱっとホログラムが展開される。

 立体的な地図の上層階を、下層に向けて赤い光点が高速で移動していた。ただし、俺の現在地から遠い階段を通るような進路をとっている。


 やっぱりな。

 どうせ山里のことだ。俺絡みの案件に巻き込まれる前に、別件でダンジョンに逃げ込むと思っていた。

「いやぁ、仕事があってな。ははは」

 とか言うヤツだ。同窓会には必ず顔を出すが、絶対に二次会には来ないタイプ。知らねえけど。


「王よ、まさか……」

「この移動速度、バギーに乗ってるな。お邪魔してやろうぜ」

「なんと哀れな……」


 山里の移動ルートを予測し、とっ捕まえられそうな地点を目指す。普通の人間なら絶対に間に合わないが、


「俺からの連絡を受けて、慌てて仕事とったんだろうな。わざわざ上層階で数キロ離れてから降り始めるのもあいつらしい」


 くつくつと喉の奥が鳴った。こんな状況でも面白いものは面白い。


「借りるぜ、グレンデル」

『……』


 体の内側に収まる力強い存在に語りかけると、呆れた気配が返ってきた。それでも律儀なオークの王権らしく、全身にしっかりと力が漲る。太ももの筋肉が膨れて倍くらいの太さになり、戦闘服をパツパツに押し上げた。


 流れる風景が一気に加速する。肌に当たる草の穂が、痛いほどに勢いを増した。



 ◇



「よお」

「ぎゃあああああああああああああ、出たぁあああああああああ!?」


 山里の絶叫が響いた。目は飛び出そうなほど見開かれ、口は奥歯の溝が見えるくらい開かれている。

 ダンジョン階段の上によじ登って待ち構え、速度を落としたバギーが出てきた瞬間に飛び乗ってやったのだ。


 するりと山里の隣に滑り込む。ユエは俺の膝の上だ。


「な、な、ななななな」


 山里はハンドルを握りながら同じ音を繰り返す。お使いの端末は正常ですか?


「おいおい、焦りすぎだろ。俺を助けに来てくれたんだろ?」

「違う! 別件の仕事で」

「そうだな。聖剣の勇者様は計画的だ。俺と行動が被らないように仕事を入れるだろうし、ちゃんと出発前に俺の居場所を確認してから運転するもんな」

「ぐぅっ」


 どうやらぐうの音は出るらしい。まだ元気そうだな。


「まぁ、バギーに俺らが乗ったところで減るモンもねえだろ。なんかで借りは返すから、深層まで送ってくれ。目に見えないくそでかい怪物に追われてるんだ。あと、なんか認識に作用する系の神格にマーキングされてるっぽい」

「俺の!! 寿命が!! 今まさに減っている気がするんだけどぉ!?」


 山里は泣きそうな顔でアクセルを踏み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ