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【書籍化】ダンジョンに閉じ込められて25年。救出されたときには立派な不審者になっていた  作者: 乾茸なめこ


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 半泣きで怒る山里を無視しながら、破壊の輪郭を振り返る。

 流石はバギー、人類の叡智を総動員するモーター産業が生み出した傑作。あっという間に距離が遠ざかっていく――が、同時に目を痛みが刺した。


 まただ。草原に重なるように、霧に包まれた古い都市を見下ろしているような映像が映る。


 都市の各所から、蟻人間が羽を広げて空に飛び上がった。都市上空でぐるぐると旋回し、徐々にその濃度を増していく。

 真っ黄色の太陽を背負い、不気味な群れはひとつの方向を目指し大移動を始めた。


 目の痛みが徐々に強くなる。

 同時に都市の輪郭がハッキリとしていく。段々と現実と幻想都市との境界線が曖昧になり始めた。肌に感じるのは青臭い草原の風ではなく、漁港の生臭さと石油を混ぜたような、粘度の高い不快な空気だ。


「……ぃ、……か?」


 遠くから山里の声が聞こえる。

 やーばいかもしれねえな。五感が相当こっちの世界に引きずり込まれている。ただの幻覚や認識阻害じゃねえ気がするぞ。

 頬を冷や汗が伝う。物理的に殴り倒せねぇ意味不明さ。どうする? どうしろと?


 空を舞う蟻人間たちの最後尾に、一際大きなシルエットが見えた。

 黄色のフードを被った人間。どこか見覚えのある骨格だ。


「あぁ……? 誰だ……?」


 記憶を辿りながら唸ると、その人物が振り返った。青色の長髪が風に流される。生気のない、のっぺりとした肌の痩せた女。

 俺の首筋がビリビリと痺れを発した。あいつ……!!


「マーリン!!!!」


 手を伸ばし叫んだ瞬間、マーリンも目を見開いた。同時に幻想都市の姿が掻き消える。


「王よ、戻ってこい!!」

「はっ!?」


 一気に現実の情報が押し寄せてきた。

 前方に突き出した俺の腕を、ユエが両手で引っ張っている。ねっとりとした風は消え失せ、ただただ清涼な空気が吹き付けていた。

 体感に生の情報が一気に叩き付けられ、すっかり目が覚める。


「やっべぇ、もってかれそうになってた。あの変な奴らの本拠地みてぇな都市が見えた」

「変な奴らって、俺は知らないんだが!? 何!? 何がどんだけ追って来ているんだ!?」


 説明は面倒だ。後で映像でも見せよう。


「そこにマーリンがいた」

「説明後回しにするんじゃないよ。で、マーリンって言うとテレポートする魔法使いか。またあいつなのか? 死にかけたんだぞ」


 山里の声が引き締まった。俺は細く息を吐き出す。


「死にかけた理由の大半はアーサーとヴリトラだろうが」


 マーリン。それにアーサーらイギリス勢と戦ったときにチームやんばるも一緒にいた。山里はマーリンが持つ力の異質さを肌で感じて覚えている。

 山里の手にぐっと力が入り、手首が上がった。バックミラーにちらちらと視線を走らせながら言う。


「そんな化け物だらけの場を、いっときでも支配していたんだぞ。マーリンも立派な化け物だ。ぶっちゃけ俺らみたいな普通の人間がやり合える系のものじゃないというか……やり合いたいものじゃない」

「そうか? お前らなら出来るだろ。囲んで殴って刺せば死ぬんじゃねえのか?」

「変な信頼寄せないでくれよ……」


 そんな迷惑がるな。仕事で評価されるのは男にとって一番嬉しいことだろうが。いや、諸説あるかもしれねえけど。つーか25年前でもその風潮はなくなりかけてたか。


「後ろから追ってきているのだって、一応物理攻撃は通ったんだ。見えさえすりゃあ……」


 振り返った瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 いる。目に異常が起きたからだろうか。謎の都市に一瞬だけ意識を飛ばされたからだろうか。感覚が繋がってしまったようだ。


「タコ、か?」


 まず、デカい。

 次に目立つのは太い触腕か。タコに酷似した青紫色の触腕が束になって波打っている。特に太くて長い2本を前に突き出し、地形を探るように振り回していた。


 触腕の固まりの奥には、風船のように丸く大きな頭部がくっついている。なんつーか……福笑いに使われたマネキンの顔みたいだ。

 シルエットは人間の頭部に似ている。だが、目や鼻や口が『器官』じゃない。表面の適当な位置に、乱雑な配置で、油性マーカーで書き込んだように平面的に存在している。


 そして、翼なのだろうか――膜状のものを広げて地面に引きずり、草の破片を撒き散らしていた。


「生物、なのか?」

「既存の概念に当てはまるのかは不明であろうな」

「弱点があんのか謎だな」


 ユエの言葉に頷く。

 のっぺりした落書き顔で這い回るやつ、どこにどうダメージ入れたら殺せるのか見当がつかねえな。


「待てよ。永野まで見えるようになったら、俺らだけ見えてないってことになるんじゃないか!? やめろよ、全員見えてないのよりも怖ぇーよ!!」

「うるせえ」

「うるせぇ!?」


 山里を無視し、草の汁で濡れてしまったブーツを拭いながら考える。


 巨大なタコかー。

 順番にバラしていくにしても、ちょっと厄介だな。

 タコ……というか頭足類のように触腕で動くやつらは、得てして力が強い。


 全身がいわゆる『白い筋肉』で出来ているんだ。骨と関節を使わずに、カニでも魚でも殺せるような力を発揮するために、瞬発的に大きな力を生み出すことに特化していやがる。


 その分エネルギー消費が激しいから、タコは暴食なんだが……。


「あいつ、このまま引っ張れば殺せるか?」


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