52.ワイルドボアとの戦い、そして……
山が動くような地響きとともに、バシュン!ザシュン!という空を切り裂く音が響いた。雷、風、火。各種魔法が放たれた音だ。
レンリッヒは屋内には入らずその様子を村から見ていた。
その音を聞き、建物の中から十数人の村人が出てきた。手には弓や槍を持っている。
「ルイポルト殿下まで戦ってくださってるんだ。我らも戦うぞ!」
「千頭は無理だが、数頭なら我らでも倒せる。いつもは自分たちの手でこの村を守ってるんだ!」
頼もしいその言葉を聞き、村の入り口で最後尾を守っている団長に村長が声をかけた。
「団長殿!多少でしたら取り逃がしても大丈夫ですぞ。我らにお任せを!」
「それは心強い!こいつら、倒しても倒してもどんどん押し寄せてくるわ!」
団長はすでに返り血で真っ赤になりながら、多数のボアを倒していた。
「加勢するぞ!」「おお!」
弓や槍を構え、村人たちが団長の後ろにつく。
レンリッヒも念のために帯同していた剣に手をかけた。「俺も加勢する」
村長はそんなレンリッヒを頭の先から足の先まで眺め、「皇太子殿下は最後尾ですな」と告げた。
おおうっ、そうくるか。そりゃぁこの中では一番経験が少ないが、多少なりとも訓練を受けているぞ。そう思うレンリッヒだったが仕方がないことでもある。皇太子である自分に課せられた一番の責務は「無事であること」なのだ。
土埃が舞い、血の匂いが充満する中で繰り広げられる戦いを、レンリッヒは一歩下がったところから見守り続けるのだった。
その頃、公爵邸の厨房では。
「スープ仕上がりました。お嬢様、収納できますか?」
「任せて。パンはどうなってる?」
「間もなく焼きあがります」
誕生日の晩餐から一転、ホルズ村への炊き出し準備会場となっていた。
レンリッヒに迎えに来てもらわなければ届けられないが、サラフィナの収納魔法の出番である。
がっつり系のルイポルトや騎士団員のために、唐揚げやメンチカツなどもどんどんと揚がっている。それを熱々のうちに次々と収納するサラフィナだった。
騎士団と村人全員にいきわたる量の料理が出来上がった頃、レンリッヒが走りこんできた。
「サラ!手伝ってほしい!」
レンリッヒの元気な様子に胸をなでおろす一同。
「スタンピードはどうなった。皆は無事か?」
ユアンの問いにレンリッヒは素早くこたえた。
「おおよそ倒した。今は遅れてやってくるボアたちを片付けているところ。ルイ兄も騎士団も村の人もみんな無事です!」
おおぉぉ!!その場が歓声に包まれる。
「多分1500頭以上いたんじゃないかな?でもこのまま腐らせるのはもったいないから、サラの収納に一度保管してほしいんだ。不作のアサムーン国に届けてもいいよね」
1500頭……。ワイルドボアって1頭200kgを超えるのよね。合わせて300トン以上。それ、収納に入る??入るか、東京ドーム3個分だもんね。可食部分が6割くらいだから、1食100gとして180万食分。不作の国にとっては大きな恵みよね。
一人でぶつぶつ言うサラフィナの言葉を、皆が驚きの表情で見ていた。
「サラ、計算早い……」
ふふふ、暗算はちょっと得意なのよ。
「ちょうどホルズ村への炊き出し準備が終わったところなの。収納に入っているから届けられるわ。行きましょう!」
殿下、お嬢様、お気をつけて!
厨房メンバーに見送られ、二人はホルズ村へと転移をした。




