51.スタンピード
スタンピード。それは興奮した動物や魔獣が群れをなして押し寄せること。
その規模によっては街一つが壊滅することもある。
「詳しく報告せよ」
皇帝の顔に戻ったユアンが厳しい声をだした。
「ワイルドボアの群れ、正確な数は不明ですが千から二千頭が突進を続けているようです。ホルズ村は100人ほどの小さな村で、バラクラム領都より兵士を派遣するのは間に合わない距離とのこと。村民は屋内に避難していますが、直撃すれば全滅もあり得ます」
「ワイルドボアか。うまい肉なんだけど群れると厄介なんだよな」
「天敵がいなくて数が増えすぎたか」
「そんなところだよな。100人の村だとひとたまりもないな」
ルイポルトとハルバートが冷静に分析している。
「でも何でレンに協力要請なんだ?」
「あー」レンリッヒが頭をポリポリとかく。
「去年バラクラム領を視察した時に、ホルズ村の桃がめっちゃおいしいって聞いてさ。領主と一緒にホルズまで足を延ばしたんだよね。で、その場でサラに届けたから、領主は俺のスキルを知ってる……」
そういうことか、とユアンがつぶやいた。
「すぐに応援に行ける兵士は何名だ」
「すでに騎士団の中でも選りすぐり10名が待機しています」
「10名で足りるか?ボアは千頭以上だぞ?」
皇帝と伝令とのやり取りにルイポルトが口をはさんだ。
「下手に人数が多いより少数精鋭のほうが確実だよ。俺も行く。レン、頼む」
了解!まずは騎士団の詰め所へ行こう。そう言ってルイポルトの腕をつかむレンリッヒ。
「サラ、ごめん!誕生日のお祝いとプロポーズはまた仕切り直しで!」
やっぱり今日その予定だったのね。まあ知ってたけど、ここで言う?それ。サプライズ感ゼロというよりもはやマイナスだわ。しかしもちろん人命最優先である。
「ルイ兄様もレンも気を付けて!行ってらっしゃい!!」
騎士団ではすでに精鋭メンバーが待機していた。魔法の使い手と剣や弓の使い手がバランスよく配置されている。
「一刻を争うんだけど、すぐに行ける?」
「「「もちろんです!」」」
魔法訓練をしておいてよかった、この程度の人数なら今の自分は余裕だ。そっと過去の自分をほめるレンリッヒであった。
まずは一人目を連れてホルズ村へと転移する。
1年前にこの村に来た時は、村人たちがみな畑に出て働いており、小さいながらも活気のある村だった。しかし今日は村人全員が建物の中に引きこもり、村はしんと静まり返っている。
「村長に話を聞いてきます。殿下はお手数ですが他の団員をお願いします!」
おう!そう言ってレンリッヒは転移を繰り返した。
10人の騎士団員とルイポルトがホルズ村に揃った頃、村長が建物の中から出てきた。
「報告を」
手短にルイポルトが聞く。
「北東よりまさにこの村の方角へ向かって、ワイルドボアの群れが突進しています。狩りに出ていた村人が偶然気づいたことが幸運でしたが、もう間もなく到着するものと思われます。地響きの音がすでに聞こえてきております」
「魔法部隊が数を潰してくれ。取り逃がした分を剣と弓で確実に仕留めていく」
剣使いの団長が指示を出した。
「どこで待ち受ける?」
ルイポルトの問いに村長が答えた。
「この先に少し見晴らしの良い場所がございます。そちらで待機していただくのがよろしいかと」
その答えを聞くや否や一斉に走り出す団員たちとルイポルト。走りながらルイポルトが振り向いて叫んだ。「レンは皇城に戻ってろ!」
「何かあった時に助けられるように、俺もここで待ってるよ」
「危険だぞ!」
「村のみんなも俺も、ルイ兄たちを信じてる!」
「分かった!」
戦えないレンリッヒにできることはここまでだ。
あとは村の人たちと一緒に祈るのみ。
ルイポルト達を見送るのとほぼ同時に、大きな地響きが聞こえてきた。
来る!




