46.バカ殿と王太后の顛末
「例え人類が絶滅して、この世界であなたと二人きりになったとしても、あなたの妻にだけはならないわ!」
頬をぶたれ、アズマ国語で啖呵を切られたアズマ国王は、顔を真っ赤にし、口をパクパクさせている。「な、な、なんという無礼な女だ!」
なおもサラフィナは畳みかけた。
「悔しかったら、身分じゃなくて人としての魅力で女性を振り向かせて見せなさいよ。今のままじゃ誰一人振り向かないでしょうけどね!」
逆上したバカ殿に危害を加えられないよう、レンリッヒは後ろからそっとサラフィナを抱きよせ、バカ殿に引導を渡した。
「この最高にかっこいい女性は俺の彼女で、将来グランヴィル帝国の皇后となる人だ。女性の良さを何も知らないバカ殿には指一本触れさせないよ」
ちやほやされることしか知らない王は茫然としている。
「バカ殿とは……?もしや世のことか?」
あんたしかいないでしょうがぁ!!
その場にいる全員の心の声がシンクロした瞬間だった。
「これはいったい何事じゃ。この無礼な者たちは何もの?王の御前ぞ」
大勢の侍女を引きつれた派手な着物の女性が部屋に入ってきた。これがアキコ王太后なのだろう。うわぁぁ、化粧が濃い……。
「無礼なのは国王陛下と王太后陛下でございましょう。この方々はグランヴィル帝国の皇太子殿下と大公ご嫡男にあらせられますよ。この国の王族は礼儀も知らないと、他国から後ろ指をさされてもよろしいのですか?」
そう進言するハヤトをちらりと一瞥し、王太后は見下すように言った。
「これは裏切り者の息子ではないか。なぜここにおる。捕らえよ」
「証拠もなく取り調べもせずに父をとらえ投獄するとは、この国はそこまで腐ってしまったのでしょうか」
「証拠など必要ない。王がこの国のすべてじゃ。王が裏切りだと申せば裏切りなのじゃ」
あー、これホントにダメなやつだ。腐ってるなー。ルイポルトがつぶやいた。
「あのさ」
たまらずにレンリッヒが口をはさんだ。
「王太后もアズマ国王も、ここまで性根が腐っちゃったら何を言っても駄目だと思うよ。一度根本から鍛えなおしたほうがいいんじゃない?良ければ預かるけど」
「預かるとは??」部屋に控えている家臣や侍女たちが期待を込めた目で一斉にレンリッヒを見た。
一方、王と王太后は顔を真っ赤にして震えている。
「な、な、なにを申しておる!無礼にもほどがあろう!!」
うーん、似た者親子だな。
「そうしてもらえるか。体に危害だけは加えないでいただけると助かる」
ハヤトの言葉にレンリッヒはうなずいた。
「怪我はさせないようにするよ。まあ、ヨレヨレになるまでしごかれると思うけど」
そういってレンリッヒは王太后に手を伸ばす。
「な、何をするのじゃ!」
次の瞬間、二人の姿が消えた。
残されたアズマ国王は驚きのあまりしりもちをついている。
「は、は、母上をどこへ連れて行ったのだ!」
「わがグランヴィル帝国ですよ」
この日一番の笑顔で答えるサラフィナだった。
あ!いけない!レンは室内に戻ってこられないから正門で誰か待機していたほうがいいわよね?と心配するサラフィナだったが、ハヤトに抜かりはない。「すでに家臣を配置しておりますので問題ございません」
座り込んでいるバカ殿をしり目に、サラフィナは王のそばにいた女性に話しかけた。
「あなたはアズマ国王をお慕いしているの?」
「あの……、わたくしは……」
不安そうに声を絞り出す女性の背中をサラフィナはそっとさすった。
「大丈夫よ、何を話しても。誰もあなたを傷つけないわ」
「わたくしには幼いころより許婚がおりまして、その方をお慕い申し上げておりました。しかし国王陛下の目に留まり、その……」
あんの男、もう一度殴ってやろうかしら?そう言って立ち上がったサラフィナをルイポルトが止めた。
「まあまあ、あとはグランヴィル帝国の最強女性陣に任せようよ」
ほどなくして廊下からレンリッヒが戻ってきた。
「夜遅いけど大丈夫だった?」
サラフィナの心配にレンリッヒが軽く手を挙げて答えた。
「大丈夫!親父も母さんもノリノリで預かってくれた。バカ殿も任せろって」
な、何を申しておる、近づくな!そうじたばたしているアズマ国王をレンリッヒがむんずっと掴んだ。「は、離せ!」
そして二人の姿が消えた。
アズマ国王と王太后の人生やり直しがここから始まる。




