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44.バカ殿の乱心

イチノコウから首都ヒガシノミヤまでの陸路も、楽しいが満載の旅だった。


途中の宿屋には温泉があり、浴衣での散策も楽しんだ。

近隣の農家が出店する朝市では、野菜やお米のほかに手作りの味噌や漬物、干し柿などもあり、自分たちも楽しみつつ皇都にいる家族に届けたりもした。


明日はヒガシノミヤに到着するという夜。

一行は首都にほど近い宿場町にある旅館の大広間で夕食を取り、そのままくつろいでいた。


そこへドカドカという複数の足音が近づいてくる。

「何事だ!」

ハヤトが厳しい声を上げ、部下が廊下に出た。


「アズマ国家老アキヤス・フジワラが家臣、シンノスケ・オクダイラと申します。ハヤト長官、およびグランヴィル帝国の使節団の皆様にお取次ぎを!」

ふすまを隔てた廊下から張り上げる声がした。

「入れ」


ふすまを開けて入ってきたのはサラフィナの父親ほどの年齢に見えるガタイの良い大柄な男性だ。部下らしき男性2名を連れている。急いで馬を走らせてきたようで、息が上がり汗ばんでいた。


「シンノスケ殿、慌ててどうなされた。何かあったか」

そう尋ねるハヤトに、シンノスケと名乗った男は片膝をついて答えた。

「申し上げます!アズマ国家老アキヤス様に対し、国王陛下が謀反の疑いをかけられ、アキヤス様を投獄なさいました!」


なんだとぉ!!

アズマ国の随行員たちが一斉に立ち上がる。


「なぜそのようなことになったのだ」

努めて冷静にハヤトが尋ねた。

「はい。今日の午後「グランヴィル帝国はわが国を乗っ取りに来る。家老はその手引きをしているのだ」と突然わめき始め、その場でアキヤス様を捕縛、牢へと連れていくようお命じになったのです」


冷静になろうと努めているハヤトの額に青筋が立った。

「あんのぉぉぉ、バカ殿がぁぁぁ!!!!」


ここまでの道中、常に紳士なふるまいを見せてたハヤトのバカ殿発言に、帝国の使節団は目を見開いている。ルイポルトとレンリッヒはうつむいて肩を震わせているではないか。今、笑うところじゃないから。


「それで父上の身は?安全は確保できているのか?」

「それは問題ございません。国王陛下がアキヤス様の投獄を侍従長のモチヅキ様にお命じになりましたので」

「ああ、モチヅキ殿なら安心だな」


「モチヅキ様って?」レンリッヒがハヤトの側近にこっそり尋ねる。

「モチヅキ様は国王陛下が絶大な信頼を置いていらっしゃる侍従長です。ですが実際には陛下の信頼を得た上で、陛下のとばっちりを受ける方への配慮をこっそりかつ最大限なされているお方です」

「ふぅーん、アズマ国って国王はダメダメだけどそれ以外の人材には恵まれているみたいだね」


その様子を見てシンノスケが驚いている「皇太子殿下がアズマ国語を……?」

「今はその話じゃないからまた後で」


「城の中の状況は?」

ハヤトの矢継ぎ早な質問に、シンノスケは的確に答えていく。

「アキヤス様が投獄されてまだ時間がたっていないため、主だった動きはございません。しかしアキヤス様を失ってはこの国の政治は混乱必須。また帝国に刃を向けるなどこの国の終焉につながる悪手。陛下に追随するような頭の空っぽな輩はほとんどいないと思われます」


シンノスケは一息つぎ、続けて話し出す。

「実際にほとんどの貴族は陛下の反感を買わないように一歩引いた状態で、ハヤト様の到着を待つ意向のようです。陛下の指示で動いているのは、指示に従わざるを得ない下っ端の役人のみの様子です」


「分かった。すぐに動くぞ。どうせ裏で王太后が糸を引いているんだろ?」

「そのようです。陛下がお一人で判断されることはまずありませんので」


「王太后?」レンリッヒが尋ねる。

「アキコ王太后です。先代国王の正室で現王の母。ヒステリーでわがままで、そしてめんどくさい女ですよ」

紳士であることを完全に放棄したハヤトが吐き捨てるように答えた。


「帝国の皆様はここで待機されますか?我が国のごたごたに巻き込むわけにはいきませんし、皆さまの身に万が一のことがあってもいけません」

ハヤトからの提案にルイポルトが即座に首を振る。

「帝国との同盟にも関わってるんだろ?無関係じゃないよな。俺らも行くよ」

「しかし、皆さまの身にもしものことがありましたら」

「自分たちの身は自分たちで守るから心配いらねーよ。サラはどうする?いったん帝国に戻るか?」


「いったん帝国に戻るとは……?」シンノスケが首をかしげているが、またもや「今その話じゃないから、後で」と言われてしまった。

「できれば私もこの目で見届けたいですわ。女性も関わっているようですし。足手まといかしら?」


よし!じゃあみんなで行こう!

レンリッヒが立ち上がり、皆が追随して立ち上がった。


「行くぞ!」「待ってろ!バカ殿!」

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