43.アズマ国上陸
アズマ国イチノコウの港には大勢の市民が集まっていた。
初めて見る異国の船団に、恐れを抱く人、目を輝かせてみている人、様々だ。
大衆に注目されながらタラップを降りる帝国使節団一同。アズマ国では見たことのない服装、肌の色、髪の色に、集まった群衆は興味津々で見ている。
レンリッヒにエスコートされてサラフィナが降り立った時には一番のどよめきが上がった。動きやすいデイドレスではあるが、レースやビーズをふんだんに使ったエレガントな装い。見慣れぬ衣装に嫌悪感を見せる大人もいるようだが、子供たちは「きれいねぇ」と素直に見とれていた。
同行している侍女長のマリーと侍女のエミリアが直前まで気合いを入れて仕上げたのだ、そうでしょうとも!とサラフィナはこっそりどや顔である。
使節団の団員もまた、集まったアズマ国の人々をガン見していた。帝国とは全く異なる文化は帝国人にとって見るものすべてが新鮮だ。着物に草履、日本髪。甚兵衛のような動きやすい服装に足袋という人もいる。帝国の人から見たら、まさにエキゾチックである。
レンリッヒとサラフィナも感動していた。船から見下ろす景色は圧巻だった。高い建物がないため港町がよく見渡せる。立ち並ぶ家々、集まった人たち、どこを切り取っても時代劇の世界だ。
ここイチノコウから首都ヒガシノミヤまでの移動が実は大変である。
馬車道が発達していないアズマ国での移動は基本的に馬か徒歩だ。
レンリッヒやルイポルトは馬で、サラフィナと侍女などの女性陣は人力車で、7日間かけて移動することになっている。人力車!なんだか申し訳ない気もするが「人夫に仕事を与えるのも貴族の役目です」と言われて、素直に人力車の旅を楽しむことにした。だって前世ではほんの十数分走ってもらって五千円とかしたのよ!それを7日間なんて……お尻が痛くなるかも。
その前に今夜はイチノコウで一泊である。そして街歩き!楽しみだらけだ。
用意されていた旅館に荷物を置いた後、早速行動開始である。
ルイポルトとレンリッヒ、サラフィナはもちろん市場へ突撃だ。
どれほど注目されようが気にしない。数名の側近とハヤト達アズマ国側の同行者を連れて街中を堂々と歩いていく。
市場は宝の山だった。新鮮な海の幸はもちろんのこと、加工品など様々な食料品や調味料が並ぶ。
「あったわ!豆腐!」
「サラ!明太子がある!」
サラフィナとレンリッヒが夢中になっている横でルイポルトが唸った。「うめぇ」
横を見ると日本酒の試飲をしているではないか。いつの間に。
「日本酒、こんなにたくさんの種類が」
「焼酎もいろいろあるぞ。これは親父たちへのお土産だな。店主、この2つの木箱に入るだけの日本酒と焼酎を出してくれる?」
突然アズマ国語で異国の人に話しかけられて店主はプチパニックである。
「は、は、はい、ただいま」
「お、もしかして今日のうちに一度帝都へ戻るのか?」
到着初日に重い土産を買っている従弟に、ルイポルトが声をかけた。
「うん、着いたらすぐにサラの元気な顔を見せる約束だから。ちょっとだけ戻るよ」
「そうか。じゃあついでにこれ、リリーに届けてくれ」
これまたいつの間に買ったのか、ルイポルトの手には金太郎飴が握られていた。
「おもしれー顔だよな。同じ顔なのに一つ一つ違って見えるし」
すぐに婚約者へのお土産を買う行動は合格だけどチョイスは微妙ね、となぜか上から目線で評価を下すサラフィナだった。
「向こうでは屋台みたいなのが出てるよ、行こう!」
レンリッヒはサラフィナの手を引いて走り出す。
「おでんだわ!さつま揚げやちくわ、あ!餅巾着がある!」
「ここ、お寿司握ってくれるみたいだよ。おお、イクラ食いたい」
未知の食材に対する二人の知識に関しては、もう誰もツッコまない。
むしろ二人に教えてもらい、そしてハヤト達からもおすすめを聞き、気になった料理を片っ端からオーダーして堪能する一行だった。
「アズマ国に上陸できてほんっとよかった。これからはこのパラダイスにいつでも来れるって幸せすぎるよ」
「ほんとよね!レン、期待してます」
「でもさすがにこの格好でこの市場にふらっと来たら目立ちすぎだよな……」
悩むレンリッヒ。
「着物を着たとしてもその髪色と目の色では、逆に浮いてしまうかもしれないわよね」
「どうしようかな……、うん、ま、目立ってもいいか!この食材が手に入るなら」
簡単に結論に達したレンリッヒであった。




