41.出立
アズマ国使節団が帝都に滞在する2週間、ハヤト達と交流を深めながら、サラフィナ達は出立の準備を進めていた。
カンティラまで馬車で5日。レンリッヒに何度も連れて行ってもらっているが、馬車でゆっくり移動するのは初めてだ。そして船旅!カンティラからアズマ国の港町イチノコウまで船で5日。今世初の船旅だ。その後、アズマ国の首都ヒガシノミヤまで更に7日かけて進む予定だ。
アンドリューは「レンリッヒ殿下が無事にアズマ国に到着したら迎えに来ればよいではないか」と最後まで船旅に反対していたが、いざという時はレンリッヒがサラフィナだけを連れ出すことを条件に納得した。グランヴィル帝国が誇る海軍の船5隻が護衛に着くため、何かが起こるとはとても思えないが。
わくわくが押さえきれないサラフィナの横で、侍女長のマリーと侍女エミリアは気合いを入れて準備をしている。何しろ帝国の女性代表なのだ。帝国の国力を知らしめるため、どれだけ着飾ってもやりすぎということはない。
「このドレスはいかがですか?」
「それは必ず持っていきましょう。それに合わせるアクセサリーは?」
「こちらはどうでしょう」
「宝石が大きければよいというものではないわ。帝国の技術が光る繊細なデザインのもののほうが帝国の威光を示せるのではないかしら」
昼間からドレスはいやよ、動きやすいワンピースも入れてね。そうサラフィナが声をかけるが「承知しております。お任せください」と言われるだけだ。二人の気合いが入りすぎて、むしろ怖い。
その間にハヤトやギザブロー先生からアズマ国の情報もかなり聞き出すことができた。
現王はノブハル・トヨカワといい、政治に全く興味を示さないダメダメのお坊ちゃんらしい。しかし下手に政治に介入し現場を混乱させられるよりは100倍マシとの判断で、家臣たちは全力で王を政治から遠ざけているとか。
実際に政治を動かしているのはハヤトの父親である家老のアキヤス・フジワラ。先々代の王を父に持つが、降下して家臣となった。このため現王も無碍にはできない存在で、王をいさめることもできる数少ない人材である。残念ながら人の話を聞く王ではないようだが。
家臣たちの努力により現在のアズマ国の政治は安定しているが、現王がいつどこでどんなわがままを言いだすか常に冷や冷やしている状況であるらしい。
うーん、我らが第二の故郷(とサラフィナとレンリッヒは勝手に思っている)がなんだか残念なことになっているようだ。協力できるものなら協力したい。皇后ではないが、やはり現王を鍛えなおすのが最良なのではないだろうか?
そうこうしているうちに、アズマ国へ向けて出立となった。
皇太子と大公嫡男が同行する帝国の大使節団だ。
数十台の馬車と数十騎の騎馬隊が粛々と進む様子は荘厳の一言に尽きる。
近隣の町や村からは人々が見物にやってきて、隊列に向けて笑顔で手を振っている。
レンリッヒとサラフィナは皇室の紋章が入った最も豪華な馬車に乗り、窓を開けてそんな人々に手を振り返していた。物語に出てくる王子様とお姫様さながらの二人に、町の少女たちはメロメロだ。
しかし少年たちを虜にしたのは二人ではなく馬に颯爽とまたがるルイポルトだった。「バジリスクを倒した人だって」「すっげー」きらきらとした眼で見つめられて居心地の悪い思いをするルイポルトだった。
休憩で馬車が止まった時には近隣の人々と交流を図ることもあった。
「ねえねえ、お姉ちゃんは王子様のお嫁さんなの?」
「あら?お嫁さんに見える?うれしいわ」
「うん。お姫様みたいよ。違うの?」
「このお姉ちゃんはね、将来俺のお嫁さんになる人だよ。そうなってもらえるよう現在鋭意努力中なんだ」
何難しい言葉を使ってるのよ、とツッコみながら、まんざらでもないサラフィナだった。
その様子を見たルイポルトが馬を近づけて侍従のマークにそっと聞いた。
「この二人ってどこまで進展してるの?」
「私が知る限りではございますが……、ファーストキスもまだですね」
この旅で二人の関係が少し進展するといいね。




