40.幸せすぎる晩餐
レンリッヒがカイザー大公ハルバートとその妃ソフィーを順に連れて皇城に戻った時には、ハヤトとギザブロー先生にはすでに説明がなされていた。
いまだ青い顔をしているハヤトとは対照的に、ギザブロー先生は飄々としていた。
「フジワラ殿、今更どうこうなるものでもございますまい。皇太子殿下のこのお力は確かに我が国にとって脅威です。しかし、カンティラから帝都グランシティに来るまでの間だけでも、我らはいやというほど思い知ったではありませぬか?帝国との国力の違いを」
我々が100年鎖国している間に、他国とはこれ程もの差がついてしまった。我々は井の中の蛙であったことを認め、大海に出る時がきているのだよ。
ギザブロー先生にそう言われて覚悟を決めたのか、ようやくハヤトに笑顔が戻った。
「ではせっかくの料理が冷める前にいただくとしようではないか。それと、我がグランヴィル皇族もここにいるヴォード公爵家も、どうも堅苦しいのが苦手でな。できればここからは無礼講としたいのだが、賛同いただけるか」
そう皇帝ユアンに提案され、ハヤトとギザブロー先生は戸惑いを隠せない。無礼講と言われても、ここにいるメンバーは圧倒的に身分が上か、ギリギリ対等か。対等と言っても国力を考えたらとても対等とは言えない人たちだ。
「陛下の御心のままに」
そう答えるハヤトにさっそくルイポルトが突っ込みを入れる。
「いやいや、めっちゃ固いよ。無礼講で行こうよ。あ、俺のことはルイって呼んで。ハヤトって呼んでいいか?」
「ル、ルイ殿……ですか」
「殿もいらねーから」
通訳を介さなければ会話が成立しないルイポルトが、なぜか言葉の通じるレンリッヒ達より先に交流を深めている。いろいろ勝てない。
「どうでもいいから早く食おうぜ!」
あ、レンリッヒはそんなことを気にしていなかった。ぶれない男だ。
「おにぎりはいろいろな味を楽しんでいただけるよう、小さめにしました。いつもの鮭とツナマヨに加えて、アズマ国の食材で梅干しとおかかを作っています。おかかは大丈夫だと思いますが、梅干しは酸味が強く苦手と感じる方もいると思いますのでご注意ください」
よっしゃー!俺、全種類ね!迷わずレンリッヒが突撃する。
「スープはアズマ国の味噌という調味料を使った豚汁です。たくさんの野菜と豚肉が入っていて栄養満点の一品です。太らないですよ」
女性陣の目が輝いた。独特のにおいだけど意外と飲みやすいわね。これで太らないって最高だわ、と評判は上々だ。ソフィーもこれなら食べられるようだ。
「こちらは今までも作ったことがある餃子ですが、アズマ国の調味料である醤油と酢を混ぜた酢醤油を付けてお召し上がりください。また違った味わいとなります」
うめぇ!なんだこれ?一生食べられるぞ。ルイポルトはもう夢中だ。
「そして豚の生姜焼きです。同じく醤油を使った料理です」
つまりはポークソテーだろ?なのになんだ?このやみつき感は。ルイじゃないが、キャベツと組み合わせたら無限に食べられそうだな、ハルバートも納得である。
その様子をハヤトとギザブロー先生は茫然と見ていた。
「おい、ハヤトも先生も、早く食わないとなくなるぞ」
とルイポルトにせかされ、慌てて箸をつける。
「おにぎりはわが国独自の文化だと思っておりましたのに、完全に再現されています。しかもツナマヨという具はわが国にはございません」
ハヤトのつぶやきに、ギザブロー先生も同意する。
「それ以外の料理もすべて我が国より洗練されたものですな。何ともまた、恐ろしい思いがしますな」
それ以上に驚いたのはこの食事風景だ。
「おいユアン、食べすぎだ。少しは遠慮しろ。我が娘の新作料理だぞ」
「無礼講なのになぜ遠慮する必要がある?遠慮されたら逆にサラが悲しむぞ」
「サラが悲しむかどうかをお前が決めるな」
宰相と皇帝の会話である。
「ソフィー、食べられそう?無理しないでね」
「ありがとう、レティ。あなたの娘は本当に天才ね。サラの料理が食べられるだけで長生きできる気がするわ」
「それで長生きしてくれるなら、サラをソフィーの専属料理人にしてもよくってよ」
「ちょっと待ったー!それはダメ!」
大公妃と公爵夫人、皇太子との会話である。
「ルイ兄、餃子ばっかり食ってないで米も食えよ、おにぎり」
「おにぎりはよくサラが差し入れしてくれるからいいよ。今日は餃子の日だ」
「なんでサラがルイ兄にお弁当作ってるんだよ。ずっりー」
「おお、相変わらずやきもちレベルが子供だねぇ」
皇太子と大公嫡男との会話である。
「あの……、この国では皇位継承権をめぐる争いなどはないのですか?」
「あるよ、もちろん」
ハヤトの問いにハルバートが即答する。
「私の時も兄が私に帝位を押し付けようとして、大変だったんだよ」
「それに比べると俺らは平和だよな」
口いっぱいに餃子をほおばりながら会話に参加するルイポルト。
「まあ、平和っていうより、どうあがいてもルイ兄に勝てる気がしないんだよね。この人に皇太子の座を押し付ける方法があるなら、何でもするんだけどなー」
ハヤトとギザブロー先生がその会話をうらやましそうに見ていることに気づいたユアンが尋ねた。「アズマ国では王位をめぐる争いがあるのか?」
「お恥ずかしい話ですが、ございます。また、王族の皆様は自国以外を知らずに育つため、世間知らずといいますか、まあ平たく言うと我がままになりがちでして。現王も……」
そこで一度言葉を詰まらせるハヤト。
「側室を20人以上抱えており、気に入った女性がいると権力を笠に無理やり側室に……。そして飽きると王宮から追い出すのです。追い出された女性に対しては、われら家臣がこっそり生活の援助をしている状況です」
パキン!
扇子が割れた音がしたのは皇后か、大公妃か、公爵夫人か、公爵嫡男夫人か、サラフィナか、それとも全員か。
「レン!無事にアズマ国に着いたらその男、連れてきなさい!私たちが鍛えなおしてあげますわ!」
真っ先に雄たけびを上げたのは皇后キャサリン。そしてうなずく女性陣全員。
アズマ国現王の運命やいかに




