39.夢にまで見た
アズマ国使節団の詰め所へ移動した一行。
ハヤトが食品を紹介してくれる。
「帝国の料理とは違いすぎて驚かれると思いますよ」
「あったわね!」「あったな!」
思わず両手を握り合うサラフィナとレンリッヒ。これはお互いにお互いを落ち着かせるための行動だ。そうしていないと、このまま踊りだすか、ガッツポーズしながら変なことを叫んでしまいそうだ。
「何から作る?」「嬉しすぎて決められない」
他の人には聞こえないほどの小声で話す二人。決して愛をささやき合っているわけではない。
そこにあった食料品は醤油や味噌、梅干し、そして鰹節。幸せすぎる!
「正式に貿易が再会した暁には、これらの食品も一定量輸入したいと考えてる。でもまずはなじみのない帝国の人にこの食品を使った料理をふるまいたいのだけど、どれだけか使わせてもらっていいかな?」
レンリッヒの問いにハヤトが答える。
「お気に召していただけるようならすべて使っていただいて構いません」
いや、異国に滞在中、自分の国の料理を食べたくなったりするでしょ?そうレンリッヒは尋ねるが「1か月にも満たない滞在で、なおかつ帝国の素晴らしい料理を提供していただいておきながら、それでも自国の料理が食べたいというような軟弱者は連れてきておりません」と。
おお!まさに武士……。
「ではこれらの食材はレンとサラに預けてよいですね。サラ、皇城の厨房を自由に使ってよいですよ」
皇后からの許可が出たサラフィナとレンリッヒは、相談しながら厨房へ向かった。
「梅干しは帝国の人にはハードルが高すぎるんじゃないか?」
「でもアズマ国の人にはほっとする味なんじゃない?梅干しとおかかのおにぎりは作りましょうよ」
「でもやっぱりツナマヨと鮭のおにぎりも欲しい」
「そうね、アズマ国の料理との違いも知りたいし、作りましょう!」
他に何を作る?もう二人のウキウキは止まらない。
「サラが作ってくれる餃子、酢醤油があったらなーっていつも思ってたんだ」
「分かる!私も思ってた。餃子の作り方は皇城の料理人にも教えてあるから、餃子は決まりね。それと味噌は豚汁!」
「豚と言えば生姜焼き!千切りキャベツを添えて」
他にも作りたいものはきりがない。しかし初日としては十分か。
「レンが無事にアズマ国に降り立ったら、今後はいつでも手に入るようになるのね」
うっとりとした顔でレンリッヒを見つめるサラフィナだった。うっとりしている対象は目の前の男性ではないのだが。
皇城の厨房に到着し必要な食材を確認していると、そこに公爵邸の料理長と料理人数名がやってきた。「お嬢様がまた新しい料理をお作りになると聞き、勉強させていただきにまいりました!」
いや、あなた方プロ。
帝国では見たこともない食材にもかかわらずてきぱきと指示を出すサラフィナに、その都度「おおー!」という感嘆の声が上がる。プロである料理人たちは、ただただ素直にサラフィナの指示に従うのだった。
レンリッヒも野菜くらいは切れると参戦してみたが、即、戦力外通告を受け、野次馬その1となっていた。なお、厨房に群がる野次馬の人数は把握できない。
「できたわ!」
「では、アズマ国の使節団を迎えた晩餐にいたすとしよう」
サラフィナの言葉を受け、皇帝ユアンが重々しく告げた。
晩餐というには微妙な、しかし最高においしい料理が並んだ。
アズマ国側から参加するのはハヤトとギザブロー先生だけだが、サラの料理は使節団のみんなにも配られている。気に入ってもらえるといいな。
いつの間にか公爵家から母のレティシアと兄のティモシー、兄嫁のクリスティーヌも駆けつけていた。
「サラちゃんの新作料理なんでしょ?ぜひいただかなくちゃ」
そして、皇帝皇后、アンドリューの視線がレンリッヒに集まる。
「分かったよ、ハル叔父さんだろ?これでハル叔父さんだけのけ者にしたら、一生恨まれるよね」
「体調がよさそうならソフィーもね」
そうしてレンリッヒはその場から姿を消した。
本日何度目かの驚きの表情をしたハヤトとギザブロー先生をその場に残して。




