37.アズマ国ってやっぱり?
ようやくアズマ国編です。
8月下旬。
皇城ではレンリッヒとサラフィナがそわそわしながら、アズマ国使節団の到着を待っていた。
できれば東の港町カンティラまで迎えに行きたかった。しかし先方の使節団には王族は含まれていない。海上での安全性が十分に確保できないためだ。団長はアズマ国の商務長官が務めている。それなのに皇太子であるレンリッヒがわざわざ出迎えに行ってしまえば、グランヴィル帝国はアズマ国より下に見られてしまう危険性がある。
今回の国交再開において、両国の関係はあくまで対等な同盟国だ。しかし実際の国力は圧倒的に帝国のほうが上である。帝国としては海を越えてまで攻めるつもりがない上、もとより平和施策を取っているため対等としているというのが実情だ。
このため、カンティラでの出迎えと帝都への案内役はアンドリューが務めていた。
「使節団はどれだけアズマ国の食材を持ってくるかしら。帝国への贈呈品はさすがに食品ではないでしょうし」
「そうだなー。保存食として多少は持ってくると思うけど、俺らに渡すほどあるかどうか。彼らと一緒にアズマ国に渡った時が勝負だよな」
ほどなくしてアズマ国の使節団が皇城に到着した。
レンリッヒとサラフィナも謁見の間へ向かう。
謁見の間では中央の玉座に皇帝、その脇に皇后とレンリッヒ、ルイポルトが座り、サラフィナは横に並ぶ貴族の列に入って使節団を待った。
宰相アンドリューの先導で使節団が入場する。その使節団の服装といったら!着物と袴、そして脇差し。ザ・侍!髪は江戸時代風のちょんまげではなく、幕末の志士のように長い髪を一つにまとめている。これは予想以上に日本だ。
一行は玉座の前で膝をつき、使節団の団長が口上を述べる。
「グランヴィル帝国皇帝にご挨拶申し上げます。私はアズマ国商務長官ハヤト・フジワラ。この度は我がアズマ国との部分的な国交再開を受け入れてくださり、国王に代わり御礼申し上げます」
頭を下げたまま挨拶をするハヤト。三十代前半、黒目黒髪の美丈夫だ。
サラフィナとレンリッヒは驚いて目を合わせた。どういうこと?
二人を除く帝国側の参加者は、ハヤトの隣に控える通訳に視線を向けている。帝国語に翻訳されるのを待っているのだ。なのに、二人にはハヤトの言葉が理解できてしまった!
前世の日本語とこの世界の帝国語との違いを認識したことはなかった。記憶が戻る前から帝国語を話しており、記憶が戻った後も日本語との違いを感じたことなどなかったのだ。しかし、アズマ国の言葉は日本語とほとんど同じだった。帝国語はこの世界に生を受けてから学んだもの、アズマ国の言葉は日本語とほぼ等しいもの、ということらしい。
「遠いところをよく来た、フジワラ長官と使節団の皆。貴国は鎖国中も、難破した我が帝国民をたびたび保護し、当国に返してくれておった。改めて感謝を伝えたい。これからは友好を深めていこうぞ。まずはゆっくりされよ」
通訳を介して歓迎の意を述べる皇帝ユアン。
うーん、私も通訳できてしまうかも、と不思議な気持ちになるサラフィナだった。
謁見は続き、お互いの紹介が行われた。
アズマ国使節団の副団長を務めるのは還暦を過ぎているであろう学者風の男性で、他の団員から先生と呼ばれている。名をギザブロー・ナベシマと言い、使節団の中では唯一髪を結ばずに肩のあたりで切りそろえていた。
帝国側の使節団が紹介されると、事前に聞いていなかったのかハヤトは非常に驚いた。
「皇太子殿下と大公ご子息がご一緒にお越しになるのですか?恐れながら海には危険も多いと存じますが」
「心配には及ばん。こやつらは自分の身は自分で守れる」
そう断言する皇帝に、ハヤトは恐れを感じた。アズマ国の船では帝国にたどり着くのが精いっぱいである。王族が乗り込むなど論外であった。帝国の海運力はアズマ国の比ではないと、その差を思い知らされていたのだった。
「では、場を変えてもう少し詳しい話をしようではないか」
ずーっとそわそわしているレンリッヒとサラフィナが視界にちらつき、ユアンが謁見終了の宣言をした。
レンリッヒとサラフィナは目を合わせて無言で話し合う。どうする?彼らの言葉が理解できるって、伝えてしまう?




