34.春巻き
あけましておめでとうございます。新年も南国スタートです。
その後の航海は順調に進み、10日目、予定通りアサムーン国の港ティプナンに到着した。
正式な使節団員ではないレンリッヒは、乗組員に交じってルイポルトの後ろをついていく。港に面して大きな市場があり、そこから続く大通りには大小さまざまなお店が立ち並んでいた。バナナやパイナップルなどの南国フルーツが店頭に並び、甘い香りが鼻をくすぐる。
ああ、今すぐサラを連れてきたい、そう思いながらレンリッヒは位置確認をしていた。
やがて使節団を迎え入れる領主別館に到着。
ここまでが今回のレンリッヒの目的だ。ミッション、無事終了である。
「ルイ兄、みんな、お世話になりました。一度帰ります」
「おお!お疲れ。この国の食べ物、持っていかなくていいのか?さっき店先の果物をじっと見てたろ?」
「持っていきたいけどクラーケンの一夜干しを、うちとサラん家に持っていくので手一杯なんだ」
うち=皇城、サラん家=ヴォード公爵邸、である。なぜだろう、何かが違う気がする……。
「じゃあサラ連れて戻って来いよ。この国の料理は香辛料が効いてて独特だがうまいぞ。サラにも食わしてやれ」
「おお、いいね!」
「ついでにサラの料理を俺らにも持ってきてくれ」
やっぱ、ルイ兄もサラの料理が食べたいんじゃん!と苦笑いするレンリッヒだった。
「今日で10日よね。そろそろアサムーン国に到着したかしら?」
そう言いながら、春巻きを揚げているサラフィナ。
「うまい!サラは相変わらず天才だな」
兄ティモシーは、サラが厨房に入るとタイミングを見計らってつまみ食いをしに来るようになった。レンリッヒより先にサラの料理を食べることが彼の目標となりつつある。
「お兄様、今日はレンが来るかもしれないのよ。ほどほどにね」
「順調にいったとして10日だろ?今日ティプナンに到着するかどうかは微妙だな」
そう言って2個目の春巻きをほおばるティモシー。
とはいえ、実際にはサラフィナの料理を楽しみにしている人が多すぎて、厨房メンバーズに手伝ってもらいいつも多めに作っている。今日も春巻きが山積みだ。
「サラ!ただいま~、っておお!春巻き、うまそう!」
いつものように中庭から入ってくる元気のいい言葉に、ほっとするサラフィナ。無事に南の大陸に到着し、戻ってきたようだ。しかし、解せぬ。
「お帰りなさい、レン!でもちょっと待って。私の顔を見るのは一瞬、春巻きはじっと見つめるってどういうこと?春巻きに負けてるのね、私」
「ごめん、ごめん!サラ、会いたかったよ!」
慌てて駆け寄り、サラフィナを抱きしめようとするも、両手に抱えた干しクラーケンが邪魔している。
「あ、これお土産。航海の途中でルイ兄たちが仕留めたんだ。すっごく大きなクラーケンだったよ。肉厚でうまいんだ」
「ええっっ、クラーケンってあの巨大イカのこと?みんな無事なの?」
「大丈夫!ルイ兄もほかの乗組員もすごく強くてかっこよかった」
「本物のクラーケン……。レンは見たの?」
「うん、本当に存在するんだなーって、画面越しじゃないリアルってこんなに迫力あるんだってかなりビビった」
やはりこの世界の航海は危険と背中合わせなのだと、改めて思うサラフィナ。
そのまま春巻きに手を伸ばそうとするレンリッヒを慌てて止めた。
「レン!手を洗ってから!」
私はレンの母親か!そう思いながらも、そんな日常が戻ってきたことを嬉しく感じるサラフィナだった。
「ううっ、10日ぶりのサラの料理。春巻きうますぎ!」
言われた通り素直に手を洗ってきて、春巻きにかぶりつくレンリッヒ。
「あ、そうだ。干しクラーケンを親父たちにも届けたら、一緒にティプナンに行こうよ。南の大陸、楽しそうだよ。南国フルーツも盛りだくさんだし、南国料理はスパイスが効いてておいしいんだって。サラと一緒に食べたい」
それと、ルイ兄たちもサラの料理を食べたがってたから、春巻き持って行ってあげていい?さりげなく付け加えるレンリッヒに、目的はそっちか!とツッコみたくなるサラフィナだった。まあ、自分の料理を食べたいと言ってもらえるのは悪い気はしないが。
皇城にも干しクラーケン(と春巻き)を届けるとすぐにレンリッヒは戻ってきた。皇太子の初めての船旅で、両親も心配していただろうにあっさりしたものだ。元気な顔さえ見られれば長居は無用なのかもしれない。
「危ない場所に二人だけで行かないこと。そして遅くなる前に必ずサラを帰すこと!」
そうティモシーにくぎを刺され、神妙にうなずく二人。
「じゃあサラ、行こう!」
そう言って手を差し出すレンリッヒ。慣れたはずなのにドキドキする。初めていく場所にドキドキしているのか、転移になのか、それともレンリッヒと手をつなぐことになのか。まだまだうぶなサラフィナだった。




