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32.ゴードン伯爵親子、退場

悪役令嬢、物足りなくてすみません……。早々に退場です。

正式なパートナーを務めたとはいえ、婚約発表前のサラフィナである。

皇帝であるユアンが、いずれか一方の令嬢の肩を持つ発言をするのはよろしくない。

どうするのだろう?サラフィナもレンリッヒも固唾を飲んで見守った。


「のう、ゴードン伯爵よ。そなたは娘がかわいいがゆえに皇太子妃に推すのであろう?」

「も、もちろん、娘は可愛いですが、それ以上に皇太子妃としての素質が……」

しどろもどろになりながら、何とか答えるゴードン伯爵。


「世も同じぞ。いくつになっても息子は可愛い。だからこそ一人の親として頼みたい。我が息子の初めての恋路を邪魔しないでやってほしい」


初めての恋路……!その言葉に絶句するゴードン伯爵。しかし何とか立て直し、言葉を続けた。

「皇帝陛下が一人の親としての考えで発言されるのはいささか問題がございませんか?ましてや皇太子殿下というお立場は恋だの愛だのに現を抜かすことなく、未来の皇后としてふさわしい女性を正しく選ぶべきかと存じます」

なぜか勝ち誇ったように答えるゴードン伯爵。

いや、ブリジッタ令嬢が未来の皇后にふさわしいかどうかはかなり怪しいぞ?


「それはつまり、皇族は人としての幸せを求めることすら許されないと言いたいのか?そしてそれを決めるのが伯爵に過ぎないそなたであるとでも?」

鋭い言葉を投げかけたのはカイザー大公ハルバート。皇族の責務に人一倍苦しみ、見事兄に帝位を押し付けたハルバートであるからこそ、腹の底から湧き上がる低い声で問いかけた。


「め、滅相もございません。ただ……」


「ゴードン伯爵」

成り行きを見守っていたヴォード公爵アンドリューが、我慢できずに口をはさんだ。

「皇太子妃や将来の皇后の座など、我が公爵家には無用の長物。欲しいやつにいくらでもくれてやろう。しかし我が娘を侮辱されたとあっては、私も黙ってはおらんぞ」


おお!こうなってしまったら親バカアンドリューの独壇場だ。


「我が娘、サラフィナよりそなたの娘ブリジッタが優れているという理由を述べてみよ」

お父様、怖いですよ!炎を背負っていますよ!サラフィナの心が悲鳴を上げる。


「わ、我が娘ブリジッタは、つつましく優しく、皇太子殿下を陰ながら支えることができる素養を有しております」


「それはつまり……、何もしておらぬな」

お父様!一刀両断にもほどがありますわ!サラフィナは焦る。


「我が娘サラフィナは成人前でありながら、領民『皆保険』制度を提案し、今その導入に向けて先陣を切って働いておるぞ」


『皆保険』とは何のことでしょう?初めて聞きました。そう首をひねるのはゴードン伯爵だけでなく、会場のほぼすべての参加者だ。


「『皆保険』とはすべての領民が税金に加えて保険料を納め、病気やけがをした時にはその保険料を利用し、自己負担額3割で治療が受けられる制度だ。貧しき者には保険料の免除制度もある。サラフィナが発案した。これにより、領民すべてが必要な時に必要な医療を受けることができるようになるのだ」

まさか、そんな画期的な提案を17歳の令嬢が?信じられない、ましてや令嬢の提案を実現しようとするとはヴォード公爵家はさすがだ、と会場がざわめく。


えぇーっと、私の発案じゃないです。前世の日本では当たり前のように存在していました。まるで自分の手柄のようになってしまい、居心地の悪さを感じるサラフィナだった。


「目の付け所がサラらしいね。ヴォード公爵領の次はグランヴィル帝国全体で導入しようよ」

前世の知識であるにも関わらず、レンリッヒはサラフィナを称えたのだった。


「皇太子殿下は騙されておいでです!このように理屈っぽい、殿方を立てることも知らない令嬢がパートナーでは、必ずや後悔なさいます!」

ブリジッタ嬢もあきらめない。しぶといな。


「ブリジッタ、殿方を立てるだけなら誰でもできます。これからの時代は女性も、領地領民のために身を粉にして働く時代ですよ」

皇后キャサリンの言葉で、この議論は終わりを迎えようとしていた。


ブリジッタはそれでもなお、サラフィナをにらみ続けている。その様子を見てサラフィナは彼女に聞いてみたくなった。

「ねえ、ブリジッタ様、あなたが好きなのは皇太子というお立場?それともレンという人そのもの?」


「おっしゃっている意味が分かりませんわ、皇太子殿下は皇太子殿下でしょう?レンリッヒ殿下がそれ以外のお立場になることはあり得ませんし、わたくしがお慕いしているのも皇太子であるレンリッヒ殿下です」


あ、それ、結局は身分しかみてないやつだわ~。

「レンはね、白馬の王子サマじゃないわ、一人の人間よ。ダメダメなこともあるし、おなかがすいたら余裕はなくなるし、デリカシーないし、でも時々すごく頼りになる、それがレンなの」

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