25.魔力切れ
次に目を覚ました時、レンリッヒは自室のベッドにいた。
「おはよう、レン。気分はどう?」
え?え?ええっっ!なんでサラがここにいるの?
「おはよう?? って、えーっと、今、何時?」
よだれ垂らしてなかっただろうか。慌てて口元をぬぐいながらレンリッヒが尋ねた。
「もうお昼過ぎよ。昨日の夕方倒れてそのままずっと寝てたから、おなかすいてない?」
ぐぅぅぅ~~~。
タイミングよく盛大におなかが鳴った。
「晩ごはんと朝ごはんと昼ごはん、3食も抜いちゃったんだ、俺。一生の不覚……」
ふふふ、すぐに用意してもらうわね。
そう笑いながら、サラフィナは緊張が解けていくのを感じていた。
昨日、レンリッヒが倒れたと聞いてから、ずっと心がざわついたままだった。
特別に彼の居室まで通してもらったが、ベッドに横たわった彼は身じろぎ一つしない。
夕食の時間に彼が起きてこないなど、天変地異レベルだ。
魔力切れだから眠れば大丈夫だと医師に言われたが、目の前の恋人は死んだように眠っている。そもそも魔力切れなどめったに起こるものではなく、サラフィナも初めて目の当たりにしたのだ。結局一睡もできず一晩を過ごした。
ああ、ダメだわ。私、この人がいないこの世界がもう想像できなくなっている。皇太子という名の食欲魔人に過ぎないこの人が……。
改めて自分の気持ちに気づいたサラフィナの隣で、食欲魔人は用意されたおにぎりとコンソメスープをほおばっていた。
「26時間ぶりのごはん。うんめぇぇぇ」
その様子を見て、サラフィナもようやく通常モードに戻った。
「揚げ物もいけそうなら、メンチカツ用意するけど?」
「メンチ?マジ?前世以来ぶりじゃん。食う!食うに決まってる!何個でも食う!」
レンリッヒよ、“前世以来ぶり”という日本語は正しいのか?
笑いながら世話をするサラフィナの様子を見て、レンリッヒはあれ?と思った。
「サラ、もしかして夕べ寝てない?ごはん食べた?」
揚げたてのメンチカツをほおばりながら、というのが様にならないが。
ホントに、こういうところがずるいんだから。
そう思いながらサラフィナは、笑ってごまかす。
「カレシが倒れたら、そりゃカノジョはぐぅぐぅ寝てられませんよ」
その言葉だけで、どれだけ心配をかけたのか改めて理解したレンリッヒ。
「ごめん、心配かけて。でも、俺……、これからもやっぱり、目の前に助けられる命があったら、ためらわず動くと思う。魔力切れても死ぬわけじゃないし」
まったくもう~、レンリッヒらしくて怒る気も失せるサラフィナだった。
「ほどほどにお願いしますね、カレシさん」
「ルイ兄の容態は?解毒が無事に成功したのは見てたんだけど」
「ご自分のお部屋で休まれてるわ。毒は抜けたけど3日ほど安静だって。後でお見舞いに行ってみる?きっと驚くわよ」
おにぎり6個とメンチカツ5個を平らげて完全復活したレンリッヒは、サラフィナと連れ立ってルイポルトの部屋を訪ねた。
「ルイ兄~、入るよ~」
ガチャリ。
ドアを開けた瞬間、レンリッヒが固まった。
「えっ! なんでここにいるの?」
ベッドに半身を起こして座っているルイポルトの隣には、リリアナ・ハートフィールド侯爵令嬢が座っていたのだ。
ルイポルトにもついに春が…………!!




