23.バジリスクの毒
それからは、今までより少しだけ(?)自由になった皇太子と公爵令嬢。
成人となったレンリッヒは精力的に公務に励み、長期の地方視察も増えた。
一方サラフィナも帝都と領地を行き来し、領地経営を手伝いつつ、料理のレパートリーも少しずつ増やしていた。
「うわぁぁぁ!肉まんだぁぁ。すげぇ、サラ、すごすぎ!」
領都ヴォードシティ公爵邸の厨房で雄叫びを上げるレンリッヒ。
彼は今、北部への視察中で、領都からは馬車で片道4日はかかる町にいたはずだが。
少しの休憩時間でもすぐに転移してきて、抜け目なく新作料理にありついている。
時には地方視察中のレンリッヒの隣にサラフィナがいることもあった。
「殿下の隣にいるあの女性、誰だ?」
「立ち居振る舞い見ても、身分高そうな人だよな?今夜の宿、どうすんだ?」
心配した従者がそっと侍従のマークに尋ねる。
「あ、彼女のことなら心配いりませんよ。夕方にはお帰りになりますから」
「帰るって、こんな田舎からどこへ??」
そうして季節は過ぎ、冬から春へ、そして初夏へと移り変わる。
サラフィナ17歳の誕生日を目前に控えた6月初めのことだった。
長期の地方視察を終えて、レンリッヒは皇城で書類仕事に追われていた。
「やっと視察が終わったところなんだから、少しは休ませてくれてもいいのに」
ぶつぶつとこぼすレンリッヒに侍従長が言葉を返す。
「広大な皇族直轄領の管理業務をハルバート殿下だけにお任せするのはあまりにも酷でございます」
「いやいや、ルイ兄はどうしたのよ?」
「ルイポルト殿下は西の国サラーラへの外交に出立されました」
ルイ兄がデスクワークしてるの、見たことないんだけど??
その頃ルイポルトは精鋭の騎士6名を連れて、西の街道を進んでいた。
馬車を使わず全員騎乗での身軽な移動だ。
グランヴィル帝国とサラーラを結ぶ主要な街道で、人や馬の往来も多い。
危険地帯ではない、そんな気の緩みもあったのだろう。
「右斜め後方!強い魔力の気配あり!」
探知の魔力を持つ一人が叫んだ。
馬車を数台連ねた商人のキャラバンとすれ違ったばかりで人の気配に乱されて、気付くのがほんの一瞬遅れた。
ルイポルトが振り返ると、街道脇の林の中から突然、巨大なバジリスクが頭をもたげたのだ。
「近い!!」
瞬時に雷魔法を放つルイポルト。
同時に傍らの騎士が強力な火魔法を撃ち込む。
バジリスクの目が光り、シューっという息と共に、牙の生えた口から毒が放たれた。
雷に打たれてバジリスクが沈むのと、毒が届くのはほぼ同時だった。
「殿下!!」
…………避けられなかった。
ルイポルトと、その脇を守る騎士2人がその毒を浴びてしまったのだ。
ちっ、まずいな。
バジリスクの毒は強力で、体の表面からでも侵食し、すぐに死に至らしめる。
解毒には特殊な解毒剤が必要だが、さすがに持ち合わせていない。バジリスクなど、通常はこんな主要街道で出る魔獣ではないのだ。
「最寄りの街まで飛ばして何分だ?そこにバジリスクの解毒剤はあると思うか?」
「飛ばせば20分だか、それだと時間的にはほぼアウトだ。それに解毒剤がある可能性は限りなく低い」
側近達が青ざめて話し合う中、ルイポルトは何かを悟ったように言った。
「皇城に通信入れて。レンに連絡を」




