22.聖なる夜
「サラに見せたいものがあるんだ。暖かい上着を用意して待っていてほしい」
レンリッヒはそう告げると、ハルバートをカイザー城へ送っていった。
……そして一瞬で戻ってきた。うん、転移魔法、最強。
「せっかくならレンもゆっくりしていけばいいのに」
そういうソフィーをハルバートが止めた。
「レンは今日、ようやくサラに「好き」って言えたところだからね。若い二人を邪魔しちゃだめだよ」
えぇぇぇっ?なんでそんなことまでバレてるのぉぉぉー!!
皇帝一家、ヴォード公爵一家、恐るべし。
一瞬で戻ったはずなのに、サラフィナは完全防寒でスタンバイしていた。
毛皮のコートでモコモコになった彼女もかわいい、とにやけそうになり、レンリッヒは慌てて顔を引き締めた。リア充爆ぜろ!
「もうこんな時間なんだから、二人とも早めに帰ってくるのよ。気を付けてね」
そう声をかける公爵夫人レティシア。
「レン、何があってもサラを守るのよ。母はもう成人した息子にこれ以上口は出しません」
そう話す皇后キャサリン。いや、あなた、彼女へのプレゼントにめっちゃ口出してたよね?
こんな時間に未婚の男女が出歩くなんて!と、大騒ぎしているサラフィナ父&兄には酒を与えて別の部屋に押し込めてある。もれなくユアンも押し込められた。
「じゃ、サラ、行くよ!」
「行ってきます!」
次の瞬間、二人がいたのは帝都を見下ろす小高い丘の上だった。
「きれい……」
きらきらと光る夜景を眼下にとらえ、サラフィナの声がこぼれる。
「気に入ってもらえてよかった……。サラに見せたいなって思ってたんだ」
「どうしてこんな場所知ってるの?夜に出歩いたりできないでしょ、皇太子様は」
感動しつつもちょっとおどけてしまうサラフィナだった。
「ここさ、騎士団との合同演習場なんだ。今年の合同演習は日帰りだったけどその前の年は野営もあってさ。しんどかったー。この夜景だけが救いだったよ」
「野営?なんか楽しそう」
「いやいや、想像してみて?全員20歳以上の国内選りすぐりエリートの中に一人放り込まれる16歳」
「それは……、やばいね」
「ま、結局は一番のミソッカスだしね。殿下、ご自分でテントをお建てください。とか言われても、実際は年の離れた弟の面倒を見るみたいにみんな世話してくれたし」
つまりは楽しかった思い出なのね。
最近レンリッヒのことを理解しつつあるサラフィナは一人うなずくのであった。
帝都を見下ろすベストポジションに座り、二人は手をつないできらめく街を見下ろした。
「久しぶりに夜景を見た気がするわ」
「日本では当たり前だったのにね。フツーに毎晩電車から見てたし」
二人は日本とグランヴィル帝国、二つの国に思いをはせて眼下を見つめた。
日本でもこの国でも、この灯り一つ一つに人々の暮らしがある。
家族に囲まれた人、一人暮らしの人、嬉しいことがあった日、悲しいことがあった日。
それでも陽が沈めば今日が終わり、朝日が昇れば新しい日が始まる。
「サラ」
「うん、レン」
「この世界に転生してくれて、俺と出会ってくれてありがとう」
「私こそ。レンがこの世界にいてくれてよかった。って、あれ?ごめん、なんで泣いてるんだろ、私」
知らないうちに涙が流れていたようだ。サラフィナは焦ってその涙をぬぐおうとする。
それをそっとレンリッヒは抱きしめた。
腕の中にモコモコのコートとサラフィナの体温を感じ、心臓がどくどくと音を立てる。
「ごめん、俺ちょっと、いやかなり浮かれてる。前世、今世通じて初カノだから」
余裕のなさそうなレンリッヒの言葉に、サラフィナがクスリと笑った。
「私って、カノジョなの?」
「カノジョでしょ?それとも婚約者?」
「いやちょっと、それはまだ……」
いずれはそうなるのだろう。そうなってもいいかなー、と思い始めているサラフィナ。でも今はまだこの関係を楽しみたい。
「頼りにしてます、カレシさん。だから醤油と味噌は見つけてね!」
おお、そっちかー。
お互いに初めて思いを言葉にしたこの日。
聖なる夜はしんしんと更けていった。




