21.カレーライス
カレーライスの初お披露目となるその夜。
サラフィナは料理長にリクエストをし、チキンの丸焼きも作ってもらった。サラダはポテトサラダに星形のニンジンやブロッコリー、ミニトマトを散らし、クリスマスカラーにした。ささやかなこだわりだ。
ヴォード公爵邸のメインダイニングに集まった面々は、チキンとサラダを食べながら、カレーライスの登場を待っている。
「で、なんでお前がいるんだ?招待した記憶はないぞ」
アンドリューが冷たい目で皇帝ユアンをぎろりと見た。
「サラの新作料理なんだろ?来るに決まってるじゃないか」
サラと呼ぶことを許可した覚えはないんだが、とぶつぶつ言うアンドリューをまあまあとたしなめるレティシア。
皇帝皇后両陛下そしてルイポルト殿下が、短い前触れの後に続いて馬車で現れた時は公爵邸の使用人達は驚きで固まっていた。公爵邸の料理人に至ってはプレッシャーで真っ青だ。
皇城厨房メンバーズに続き、公爵邸の厨房メンバーズにも今度お土産を買ってこようと誓ったレンリッヒだった。
彼らに加えて、当然のように座っているハルバート。
「ハルはカイザー領に戻ったばかりだよな。なんでまたいる?」
「優しい甥が転移で迎えに来てくれたからさ。ソフィーも来たがったけど、新作料理はお土産に持って帰ることを約束して今日は家で休ませてる」
なんか俺、カイザー城との往復しかしてない気がする……とレンリッヒがつぶやいていた。
「サラちゃん、そのネックレス、可愛いわね。殿下から?」
クリスティーヌの言葉に、サラフィナはほほを染めてうつむきながら答えた。
「うん。どこか遠い国の風習で、今日は恋人たちがプレゼントを贈りあう日だって本で読んだことがあったから……」
ホントは遠い国じゃなくて異世界だけどね。
「まあ、素敵!それでサラちゃんは何を贈ったの?」
「万年筆……。平凡だけど」
「平凡だなんて!すごくうれしかったよ、ありがとう!」
レンリッヒが慌ててフォローする。
ほほを染めて見つめあう二人に、部屋の空気が温かいものに変わっていく。若干2名、父アンドリューと兄ティモシーは苦い顔をしていたが。
そうこうしているうちにカレーライスが運ばれてきた。
「これは、食欲をそそる何とも言えない香りだな」
「ああ、南方の料理で出てきたことのある香りだが、見た目は全然違う」
アンドリューとユアンが身を乗り出して覗き込む。この二人、気が合うのか合わないのか。
「お好みでトンカツをトッピングしてお召し上がりください」
粗めのパン粉を付けてたっぷりの油で揚げた、これまた日本風のトンカツだ。
「いただきます。あら、これは……、後を引くおいしさね」
「スパイシーだけど十分食べられる辛さだわ。白いのは先日のおにぎりと同じものよね。お米だったかしら?」
「サラちゃんが料理したいって聞いたときはびっくりしたけど、意外な才能ね」
女性陣にも軒並み好評だ。
「うまいな。体が温まる感じだよ。ソフィーも少しなら食べられそうだ」
ハルバートも満足そうにほおばっている。
「これを、これを、サラが……?私の妹は天才だな」
ティモシーが震えている。
そして、トンカツをたっぷりのせて無言でカレーライスに食らいつくレンリッヒとルイポルト。
「あの……、お味はどうですか?」
「「おかわり!!!」」
喜んでもらえたようで何よりだ。
「せっかくのサラの新作なのよ。ちゃんと感想を言ってあげなさい」
そうキャサリンに諭され、レンリッヒが言葉を継ぐ。
「カツカレー最高!カツとカレーとご飯の最強トライアングル。無限食いできる。生きていてよかった……」
残念皇太子は今日も絶好調。
「明日はカレーパンとカツサンドを作ってみようと思うんです。うまくできたら皇城にもお届けしましょうか?」
「「「「ぜひ!!!」」」」
ちっ、私も帝都に残ろうかな、とぼやくハルバート。あなたは今夜、愛する奥さんにカレーライスを届けるのでは?
デザートにはブッシュドノエルを用意してもらった。サラフィナはケーキ作りの経験はなかったが、ロールケーキにチョコクリームで丸太風にデコレーションするとアドバイスしただけで見事なブッシュドノエルが出来上がった。さすが公爵邸料理長。
最後に料理長が挨拶に出てきて「すべてお嬢様のアイデアです」と伝えた時は、恥ずかしくて隠れたくなった。だってレンリッヒだけは知っている。これがサラフィナのアイデアではないということを。しかし、レンリッヒは嬉しそうにうなずくだけだった。
「サラ、本当においしかった。めっちゃ幸せ!」




